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第3話  9月5日(月) 12:10

更新一日予定とずれてしまいましたが、新しいお話をお送り致します。



「きりーつ! 礼!」


「ありがとうございました」


 クラスメイト全員の掛け声で授業が終わる。


「よう、智樹。昼メシなににする? 俺は――」


「悪い、雅晴。俺、先に行くわ」


「はぁ? ちょっと待てってば――」


 雅晴の声を振りきって、早足で教室を出て渡り廊下へ。



 この時間帯、校外のベーカリーが出張で、パンやサンドイッチなんかを売っている。

 そこで、レタスハムサンドとカツサンド、紅茶のペットボトルを自販機で買って、そのまままっすぐ部室棟の屋上へ来た。


「まだ、いるだろうか?」


 さっき、あんな一方的な言いがかりで怒らせた手前、もしかしてそのまま帰ってしまったなんてことも考えられる。



 待てよ? むしろいたとして、俺は彼女にどう声をかければいいのだろうか? 『まだいたのかよ?』、それとも『もういい加減サボるの止めて授業でれば?』だろうか。


 いや、そもそも、彼女は学校に許可をもらっていると言っていた。それが本当なら俺が出る幕じゃないんじゃないだろうか?


 もしかして、俺は相当な思いあがりで彼女のことを考えてたんじゃないだろうか……。


 そうだとしたら、第一声は『ごめん、俺が悪かったよ』だろうか……。



 そこまで考えて、部室棟の屋上、そのドアを小さく押し開くと、隙間から彼女の背中が見えた。


 痩せぎすで、今にも崩れ落ちそうなほどのくたびれた雰囲気。とても……同じ年の女子高生の背中とは思えない。

 ぽつん、と屋上にひとつ出された椅子の上に座った彼女、その後姿がとても寂しげで、それでいて泣いているような、そんな印象を覚えた。

 錯覚だと思ったけど、とても放っておけない気分になる。


「よし……」


―― ギィィィィー……。


 気合を入れて、ドアを盛大に開けて屋上に出る。と、彼女が振り返る。

 朝出会ったそのままの格好の小鳥遊さん。顔もそっくりそのまま呆れ顔だった。



「な~に? まだ……何か用があるの? 立花くん」


 呆れ口調の末、警戒。




 俺、やっぱり朝の一件で嫌われただろうか?

 情けない気分を堪えるために、眉根をひそめる。


「そう身構えなくって良いっての。俺が悪者みたいじゃないか……」


 いや、現実問題、俺は彼女の敵として認識されているかもしれない。



 できるだけ、相手に警戒心を覚えさせないように、努めて明るく振舞って、彼女が座っているイスの隣に座り込んだ。



 彼女の様子をちらりと見て、手に持ったビニール袋を漁る。



「なにしに来たの?」


 一向に警戒を解いてくれていない。やっぱり、俺って嫌われてるんだろうか? もしそうだったら相当ショックだ……。


「なにって、昼飯に決まってるだろ?」


「私が言いたいのはどうして来たの? ってことよ」


 彼女が言うであろう言葉、その返答を用意しておいて良かった。なんて心底思った。口調もただ単に疑問形。どうやら嫌われているわけではないらしい。


「ああ、俺、お前が真面目に授業に出るまで休憩時間は傍にいることにしたんだ」


 とても、『お前が寂しそうにしてたから一緒に――』なんて言えない。

 そんなこと口に出してみろ。それこそナンパ目的に思われそうで嫌じゃないか。


 もう、これ以上はボロが出そうで嫌だった。質問を受け付けない、そういう意思表示でカツサンドに食いついた。




「どうしてそんなこと……」


 たっぷりと時間をおいて、小鳥遊さんがポロリと口にする。心底驚いたと言わんばかり、口を開いたままこちらを見ていた。


「そりゃあ、サボってる生徒は見過ごせないからな……俺、副会長だし」




 真っ赤な嘘だ。




 自分でもそう言えるほどひどい嘘。正にハッタリ中のハッタリ。


 でも、こうでも言わないと、彼女の側に居る理由というものがなくなる。

 なぜか分からないけれど、ほっとけない彼女。今彼女を放っておいたら、なにか取り返しがつかないような、そんなことが起こりそうな予感。青白い顔をして首を傾げる彼女から、どうしてかそんな予感を感じる。



「本気なの?」と聞かれれば「当たり前だろ?」と返す。食い下がる他なかった。


「……勝手にすれば?」


 ふ、っと小さく、ほんの小さく口端を上げて彼女が口にした許可の言葉。


「そうさせてもらうよ」


 なんだかとても嬉しくなった。





「本当は他にも色々と仕事あるんでしょ? 無理しなくてもいいのに……」


 カツサンドを頬張った瞬間に聞かれた言葉。


 彼女なりに俺を心配してくれているのだろうか? それとも他に思うところがあるのだろうか……。

 嬉しくなって、お礼のひとつでも言ってやろうかと見上げる。

 と、彼女が俺のことをじっと見ていることに気付いた。


 しばらく視線が交差して、無言の空気が重く伸し掛かる。



「なんだよ? お前、昼メシ食わないのか?」


 目を丸くして、口を開き、噤んで、苦笑を返す小鳥遊さん。何を考えているか分からないまま、俺をじっと見つめ続けていた。


「なんだ?」


「なんでもない……」


 首を振って、ひとつため息を吐き、もそもそとゆっくり食べ始める彼女。その顔が余りにも無感情で、気になって仕方ない。


 じっと、見守っていると、「こっちをジロジロ見ながら食べるなんて、行儀が悪いわよ?」と言われた。

 お弁当を食べながらも盛れる彼女のため息、それがなんの為に出ているものなのか、とても気になって仕方がなかった。





                         ― 続く ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。

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