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第3話  9月5日(月) 09:40

今晩は。

本日の更新は『天使の階段』メインストーリーと同時更新です。

気が向いたら向こうの方ものぞいて頂けると嬉しいです。



 1時間目が終了して、即席を立った。


「おい、どこ行くんだ? 智樹」


「ちょっと急ぎのヤボ用だ」


「おい、ちょっと待てよ!」


 雅春の静止を振り切って、廊下に飛び出した。目指すは部室棟の屋上、さっき小鳥遊を見かけた場所だ。

 本当に見たのか? という疑問が頭のなかをめぐって、『それなら実際見に行けば良い』という結論に至る。

 そう、見に行けばいいんだ。



 校舎を走って、部室棟との渡り廊下へ向かう。


「こら立花! 廊下は走るな!」


「すみません!」


 すれ違う先生に謝罪の言葉を残して走る。



 渡り廊下を抜けて、階段を登り、屋上の扉の前まで来る。

 本当にいるのか怪しかったが、扉のドアノブを回すと、鍵が掛かっていなかった。


「誰かいる?」


 少し力を入れるとゆっくりとドアが開いていく。


―― ギィィィィー……。


 少しだけ開いて覗き見ようと思ったのに、思った以上に大きな音を立てて開いていく。


「うわ、まっぶし~……」


 差し込む日差しに目を細めて外を見ると、ひとりの女生徒が白いタオルを被って何かをしていた。そんな彼女が音に気づいて振り返る。


「え……? 立花くん……?」



 小鳥遊だった。



 そこにいるのは間違い無く同じクラスの小鳥遊楓だった。彼女が腕時計を確認して、改めてこっちを見て驚いた顔を見せた。


「どうして立花くんがここにいるの?」


 彼女が椅子から立ち上がって不思議そうにこっちを見た。


「さっきの授業中、偶々お前の姿が見えたんだよ。そんなことよりも、授業をサボってどうしてこんなところにいるんだよ? 小鳥遊」


「別に……どうでも良いでしょ?」



 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ冷たい目をして、とても冷たい無感情な言葉を口にしてため息を吐いた。



 あなたに答える必要なんて、無い。関係ないことだから関わるな、と……そう言われているように感じる。いや、むしろ敵意さえ感じた。


 目に前にいるのは本当に小鳥遊楓なのか? 

 前に会った時は……夏休み前の彼女は本当に朗らかで、コロコロと笑うような明るい女の子、そして絵に対してはまっすぐで……。

 まるで別人じゃないか……。



 ふと、彼女の肩越しにキャンバスが見えた。


「これって……風景画?」


 たずねた瞬間、体を強ばらせて、隠そうと意識したのが分かる。そうまでして俺に関わって欲しくないのだろうか、少しだけ、胸が痛んだ、気がした。


 真っ白だけど、良く見ると線画の状態だった。ここから見える景色を描いているのだろうか。

 あっちへと、その次はこっちへと、視線を揺らして、ため息をひとつした後に口を小さく開いた。


「ああ、これね? ……うん、今描いてるとこなんだ」


 キャンバスの縁を軽く叩く細く痩せた手と、手首。なんだかすぐに折れてしまいそうだ。どうしてそう思ったんだろう? そんな印象を受けた。


「これは、授業をサボってまでやることなのか?」


 至極この場に相応しい言葉。抱いた印象を口にしそうで止めた。

 触れたいという衝動と、触れたらそこから燃え広がりそうで突いてはならないという自制心。勝ったのは自制心の方だった。


 ただ、その選択もあまり功を奏しはいなかった。

 露骨に嫌そうな顔をしてため息を吐かれた。


「そう……だね……」


 彼女の機嫌が目に映る様に、どんどん険しくなっていくのが分かる。やっぱり対応をまちがえたか? 内心大量にため息をつく。

 と、盛大に向こうがため息をついて、イスに座り、鉛筆をとった。


「授業をサボるのは悪い事だと思ってるけど、これが今、私がするべきことなんだよ」


 冷たく切り捨てるような言葉だった。


「そんな訳ないだろ? いくらなんでも授業サボってまでやることじゃないだろ!?」


 俺の声が届いてないような、そんな素振りをする彼女。



 反応を待てどもキャンバスの上を走る鉛筆の音と無反応。



「おい、なんとか言えよ?」


 さらに無反応。もしかして、俺って地雷を踏もうとしてたりする……のか?

 それでも、ここまで来たからには軽々しく引っ込むことはできなかった。


「おい、聞いてるんだろ?」


 無反応にいらついて、肩を叩こうと思ったのが、なぜか引っ張る形になってしまった。


「あっ……」


 小さく漏れる声。


 やばい……邪魔してしまっただろうか……。

 心配が頭をよぎった瞬間 ―― ぱしんっ、と乾いた音が響いた。

 気付いたら、彼女は肩にかかった俺の手を振り払って睨みつけていた。


「放っておいてよ!」


 どんより、と言い表すのが正しいだろうか。


 近くで見た彼女の顔。

 真っ青な顔、眼光鋭く、まるで射抜くような敵意、そして……やつれた頬。

 初めて気付いた……まるで狂気に囚われた様な酷い顔。

 これは……本当に俺が知ってた小鳥遊さん……なのか?


「……明るく真面目な頃のお前はどこに行ったんだよ!?」


「勝手なこと言わないで! それに学校には許可取ってるんだから!」


 思わず口走った言葉。

 一瞬なにを言ったのか、自分でも良く分からなかった。

 それ程、俺は彼女の態度、今の姿にショックを受けたのだろうか……?


 目の前の彼女に、敵意をむき出しにされて、思わず立ちすくむ。

 小鳥遊さんはこんな顔もするんだ、と初めて知った。



 もうこれ以上、今会話することは不可能、と判断して、引き下がることにした。

 俺じゃあ、彼女を説得できないのだろうか……と思うと、なんだか無性にイライラしてしまう。こんなこと、初めてだ。



 屋上入口前、思わず足を止めて――



「それなら俺にも考えがあるからな!」



 と、なんだか捻くれた子供のような捨て台詞を吐いていた。


 声が届いたみたいで、振り向く小鳥遊さん。あっけに囚われた顔をしていた。



 そんな顔をしてくれるなよ。

 俺だってこんなことするのは初めてなんだから……。


 ため息混じりに屋上から退散する。


―― ギィィィィー……。


 閉じる扉は軋ませる音が、さらに不快な感じに思わせた。





                         ― 続く ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。

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