第1話 9月5日(月) 08:37
初めましての方、初めまして。
そうでない方は今晩は。水姫七瀬という者です。
本作品は『天使の階段』のザッピング作品です。そちらを見た方はもう挨拶は済ませてると思いますが、以後よろしくお願いいたします。
白紙のままの進路希望調査書を指で摘まむ。
提出期限の今日までしっかり考えた。考えた末での白紙……。ため息を吐きたくなる。
「でさ、智樹。悩みがあるなら俺が聞くぜ?」
目の前で笑いながらアピールしてくるのは高田雅晴、中学校の入学初日からの付き合いがある親友だった。
気さくで表と裏のない結構な脳天気なヤツなのに行動力がある。そして人を思いやる心優しさも持っている。こういうヤツこそ医者に向いてる性格なような気がする。
もっとも成績が伴っていればの話。勉強嫌いだからと勉強しないから成績は中位。まじめに勉強すればもっと上に行けるのに残念なヤツだ。
「良いのか? 雅晴、そんなこと言って。悩みならいっぱいあるぜ~? 海より広くマリアナ海溝よりも深い」
冗談交じりに言ってみせると「うへぇ」とうめいた。
「頭のいいお前のそんなでっかい悩み……俺には受け止められる自信ねえわ」
呆れ顔でひらひらと追い払うジェスチャー、その態度が憎めず、逆に和まされる。
「まあ、進路のことなんだろうけどな……って、なに? その顔。お前、本当に迷ってるの?」
「ああ、マジで進路に困ってる……」
「はあ? 県内有数の進学に力入れてるこの学校で、テストで学年順位ひと桁のお前がなにを困るっていうんだよ? 進路なんて選り取り見取りだろ? 親父さんの診療所継ぐために医大でも受ければ良いじゃないか?」
「普通はそう思うよな? そうなんだよな……。問題は、親父に診療所は継がなくても良いって、言われたことなんだよ」
「なんでまた……」
雅春にとって、よほど意外な言葉だったのだろうか、驚嘆した顔で詰め寄ってきた。
「あの親父さんなら、厳つい顔して、『智樹、俺の後を継ぐには適当な成績では許さんぞ!』とかは言いそうなんだけどなあ」
「それこそお前は俺の親父のこと分かってないっての。義務や憧憬で医者になるもんじゃないって言われた」
「なる程ね……。人一倍仕事に厳しい親父さんらしいセリフだわ」
親父が言ってることは分かる。
命を預かるものとして一番根底に無くてはならないものは責任感。
命を預かるということに対しての重みを感じる、ということなのだろう。
でも、正直な話それってどんなことなんだ?
―― キーンコーンカーンンコーン……
ショートホームルームの予鈴が鳴って、みんな慌てて着席し始めた。
「おっと、そろそろセンコーも来るだろうから俺も戻るわ」
「おう、また後でな!」
雅春が席についた瞬間、教室の前面のドアが開いて担任が入ってきた。
「よ~し、出席を取るぞ~?」
―― バンッ
出席簿を大きな音を立てて教壇に叩きつけた。
あいかわらず、無駄に形を気にするやつだなあ……と思ってため息をつく。
彼みたいに形だけで職業を続けられるならどんなに楽な人生だろうか……。
「千賀~!」
「はい!」
気づいたらそろそろ自分が呼ばれる頃になっていた。
「たかな――」
そこまで言って、担任の吉崎先生が苦い顔をする。
なんだ? あの表情……。どうして小鳥遊の名前をあんな不自然に切るんだ?
「……は良いんだったな……」
出席簿にそのまま軽いテンポで書き込んでいるのが見えた。
なにが『良いんだった』なんだ……?
小鳥遊の机を見ると、確かに小鳥遊は座っていなかった。
まるで出席していないのが当たり前、と言った感じで……すごく気になる。
「――ばな! いないのか?」
「おい、智樹! 呼ばれてるぞ!?」
「は? ああ! はいはい! います! 出席してます!」
「いたら返事をしっかりしろよ? 大丈夫か~?」
「いえ! すみません、大丈夫です」
なんとか取り繕うと、吉崎先生が笑みを浮かべて出席確認を再開した。
「どうして良いんだ?」
改めて小鳥遊の机を見る。そこには小鳥遊の姿はない。
「今日で欠席4日目じゃないか……」
ため息をひとつして、吉崎先生の出席を取る声を聞き流した。
― 続く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
本作品は『天使の階段』のザッピング作品です。
向こうは女性主人公視点。こちらは男性主人公視点になります。
本作品はザッピング形式の小説になります。
ただ、ザッピング小説というだけで必ず両方読まなければならない、ということではありません。
両作品とも別視点で書いていきますが、それぞれ単作だけでも楽しめるように書いていきます。
作品はそれぞれ楽しむ要素があって、より好みもできると思うんですよね。
因みに『B Side』の『B』は『Boy』という意味もありますが、『Back』の意味もあります。
天使の階段の背景ストーリーという位置づけでお楽しみ下さい(ぺっこり