プロローグ
俺は何不自由無く普通に生きて来た。
父さんが小さい町医者を経営する開業医で、いつも忙しそうな父さんを見て過ごしてきた。
父さんが若い頃はそこそこ大きい病院の小児科医で、結構実入りも良かったそうだ。
ああ、金の話じゃないよな。それだけ良い経歴もってますよ、ってことなだけ。
もっと頑張れば大きい病院のそこそこ良い地位を得られたかもしれない。そう話してた。
そんな父さんを見て育ったから、俺もこのまま真っ直ぐ医者になって跡を継ぐものだと思ってた。
高校に入学した時だった。
父さんが俺を呼んで言った。
「お前もそろそろ将来を考えるべき時期だから言っておく。どうせこの診療所も小さいから跡を継がなくても良い。医者になるかどうかはしっかり考えてから結論を出せ」
俺は自分が今まで憧れていたモノに裏切られたようでついつい反論してしまった。
「どうしてそんなこと言うんだよ!? 俺があんたに憧れてるの知ってるだろう!?」
そしたら父さんは、「憧れだけで医者になるもんじゃない」とバッサリ切り捨てるように言った後に、自分の半生を語り始めた。
その話はとても生々しくて酷い内容だった。
誰から聞かれても、口にする気にはなれないくらいとてもショックを受ける内容だった。
でも、俺にとって父さんは憧れの大人そのもので、話ひとつではいそうですかと諦められるものでもない。
高校3年生になって、夏休みが終わり、受験生として大事な時期が訪れようとしている。
あれから2年半、父さんの言った意味を考え続けている。
俺は、医者を目指しても良いのだろうか、それとも諦めるべきなのだろうか。
未だ結論は出せないままだ。
なぜなら、それを判断する基準とか、情報なんかが圧倒的に不足しているからだ。
結局、父さんがあの時最後に言った『言葉』の意味を、俺は見出せないでいるのだ……。