優しさ・2
次の日の朝、朝イチの患者さんは澤田さんだった。
昨日に引き続き、消毒が必要だったので予約を取ってあったのだ。
診察が始まる前に、私は待合室で待つ澤田さんの所へ行き、昨日のお礼を言った。
「澤田さん!昨日はお世話になりました。
おかげで助かりました。本当にありがとうございました!」
「いや。無事で良かった。
かえって俺のドライブに付き合ってもらって悪かったな。」
そう言って爽やかな笑顔を向けられて・・・ん?
またあのうそくさい笑顔・・・?
澤田さんの顔を見つめたまま首をかしげる私に、「どうかした?」と視線を投げかけてきたので、
私は慌ててもう一度頭を下げると急いで仕事に戻って行った。
裏に戻るとすぐに、佐伯さんに道を塞がれた。
「立花さん。なんなのさっきの。
澤田さんとなんで仲良くなってるわけ?」
「えっ。仲良くなんてそんな事ないです。
ただ昨日ちょっと危ない所を助けてもらったのでそのお礼を・・・」
「澤田さんがイケメンだからって媚売ってんじゃないわよ」
ドスの聞いた声で言われて、心臓が縮んだ気がした。
別に媚なんか売ってないけど、ここは素直に謝っておこう。
「はい、気を付けます。」
「今後澤田さんは私が担当するから。あんた別の患者さんについてね。」
「はい。」
診療が始まると、佐伯さんはまたあの猫なで声で澤田さんとおしゃべりを開始した。
「歯ぐきの腫れはおさまりましたかぁ?」
「ええ、大丈夫です。昨日は言いつけ通り酒も飲んでませんよ。」
・・・あ、そうなんだ。ちゃんとお酒は控えてくれたんだ。良かった。
「言いつけだなんてぇ・・、あ、もしかしてうちの立花が何か失礼な事を言いましたぁ?」
「ええ、昨日お酒はダメだって強く言われましたので。」
「え~!澤田さんだって、お仕事でしょうがない時があるのにぃ。
すみません。彼女まだ新人なので許してあげて下さいねぇ。」
・・・患者さんの為を思えばそこは禁酒を指導すべきじゃん!
佐伯さんてばどうでもいい患者さんには命令口調で指導するくせに・・・
「いえいえ。彼女すごく熱心で、私の事を心配してそう言ってくれたんでしょうから。
失礼なんてことありませんよ。おかげで腫れも引きましたしね。」
・・・・
そこまで聞き耳を立てていたけど、あまりにうれしはずかしい内容に赤面してしまいそうになったので、自分の患者さんに集中することにした。