出逢い
「おはよーございまーす!」
次に出勤してきたのは、歯科技工士の小池雄汰。
雄汰と私は小さい頃家が近所でよく遊んでいた、いわゆる幼馴染だ。
昔から運動神経バツグンで、面倒見も良かったので、子供達の間ではリーダー的存在だった。
そんな雄汰に私もほんのり淡い恋心を・・・
「おい?美沙どうした?」
「えっ!?」
思い出にひたってぼーっとしてしまっていたようで、急に声をかけられてビックリしてしまった。
「あ、いや!なんでもないんです、おはようございます。」
幼馴染とはいえ、雄汰はここの職場では3年先輩なので、仕事中は敬語を使うようにしている。
「なんだ、月曜の朝からもう居眠りか?しっかりしろよっ!」
バシッと背中を叩きながら励ましの言葉をかけてくれる雄汰は、子供の頃から変わらず面倒見の良いお兄ちゃんみたい。
準備もあらかた終わった頃、院長の熊田先生が出勤してきた。
「先生、おはようございます。」
「おはよう。」
熊田先生は32歳で開業医としては若い方だ。
数年前に熊田先生のお父さんが引退し、この医院を引き継いだ。
あごヒゲがよく似合う渋めの顔立ちで、とても優しく丁寧な説明が患者さんには好評だ。
スタッフに対してはとても厳しいんだけどね・・・。
その日、朝イチの患者さんは、予約の人ではなく急患だった。
「歯ぐきが腫れて痛い」と来院したらしい。
私は初めての患者さんに不安を与えないように優しい笑顔を作り、その人の名前を呼んだ。
「澤田悟さん、中にどうぞー」