表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ハグルマテイル

作者: Mr.あいう

 むかしむかし、あるところにロボットたちが住む街がありました。

 住民たちは今日も体からハグルマの廻る音を奏でながら黙々と仕事に励んでおりました。

『この街をより住み良い街にすること』

 それが彼らの目的でした。

 昨日も、今日も、明日も。

 そのハグルマがとまるまで、ずっと。


 ロボットの少年テイルの仕事は、世界に緑を取り戻すことでした。

 テイルが生まれたころにはまだ空気はよどみ、水は汚れ、植物など育たない世界でしたが、テイルや、他のロボットたちの努力で少しづつ回復していきました。

 樹を植え、土壌をきれいにして、ロボットたちは黙々と働きました。

 いつしか世界には緑が自分たちで芽吹き始め、いまでは四季折々さまざまな植物が見れるまでになりました。


 テイルは夜空を見るのが好きでした。

 テイルが生まれて間もないころは、まだ空気がよどんでいて、星もまばらにしか見えなかったのですが、最近では世界もきれいになって遥か遠くの星まで見通すことが出来ます。

 記憶の夜空より小さな光点が一つ、また一つと増えるたびにテイルは自分の仕事が達成されているということを実感するのです。自分の増やした緑が空気を澄んだものにして、遥か遠くの光が自分の目に届いているという現実がテイルを幸せにするのです。

 そんな空を見ていると、テイルは自分の仕事に自信が持てるのです。

 時折彗星のような光の筋が夜空を横切るときがありました。

 そんな時、テイルは祈るのです。

「僕らの街が、永遠に続きますように」


 ある日、テイルが彗星を眺めていると、その彗星がだんだん大きくなってきました。

「彗星が落ちてくる!」

 彗星はテイルの居た丘のすぐそばに落ちたようです。

 テイルは走って彗星が落ちてきた場所まで行くと、そこには卵みたいな乗り物に乗ったへんてこな生き物がいました。

 薄桃色の肌には毛の一本もなく、寒さで震えているその生き物を見てテイルは思いました。

「この生き物を助けなくちゃ!」

 テイルはその生き物をつれて帰り、暖かい服と食べ物をあげました。

 その生き物はとても元気になって、それを見たテイルはとても嬉しい気持ちになるのです。

 テイルはその生き物をモモと名づけて、一緒に遊びました。


 けれどしばらくして、家に兵隊がやってきました。

 兵隊は生き物を確認すると、テイルにこう言います。

「それは人間という極めて危険な生物だ。我々に渡しなさい」

 槍を突きつけてテイルに迫る兵隊たち。

 テイルは無表情に迫る兵隊と、おびえているモモを見て言いました。

「いやだ。この子は僕の友達なんだ」

 そういうとテイルはモモの手を引いて窓から逃げようとしました。


 けれど、窓の外にも大勢の兵隊が居て、テイルとモモは捕まってしまいます。

 テイルは叫びます。

「離せ! モモをどこに連れて行くつもりだ!」

 そういうテイルの前に、一人のロボットが歩み出てきました。

 哀しそうな顔をしたロボットは諭すようにテイルに語りかけます。

「残念だけど、人間とロボットは友達にはなれない。人間はロボットを操ろうとするからね」

 兵隊はそう言うと、モモを狭い車の中に押し込めようとします。


「やめろ! モモは大切な友達なんだ! モモを連れてかないで!」

 テイルは兵隊を振りほどいて、槍を奪うと、モモを連れて行こうとする兵隊たちを突き刺しました。

「モモを連れて行く悪いやつは、壊してやる!」

 けれど、テイルは大勢の兵隊にあっという間に取り囲まれてしまいます。 

「人間への典型的な依存症状だ」

「人間を保護するというプログラミングされた機能を自分の使命と取り違えたんだな」

「それを最悪なことに感情と結び付けてさえいる」

「どうする? こうなったら止めようが無い」

「仕方が無いな。壊せ」

「壊せ」

「壊せ」

「壊せ」

 かわいそうなテイルは前から後ろから槍で突かれて、とうとう動かなくなってしまいました。


 その様子を見ていたモモは泣き出しました。

 ロボットがせっかく出来た友達を囲んで苛めているのですから。

 彼らは口々に同じ言葉を叫びながら友達の体に槍を突き刺します。

 モモは思います。

 その言葉は多分悪意を表しているのだと。

 モモは彼らのその叫びを真似して叫びました。

 彼らに通じるように、彼らの呪いの言葉を。

「壊せ!」


 ロボットの兵隊たちは、ぽかんとした表情で少女を見つめます。

 彼らは自分の中のハグルマが、カチリと鳴るのを聞きました。

 そして、次の瞬間、彼らは走り出しました。

 形のあるものを探して、壊せる何かを探して。

 あるロボットは建物を。

 あるロボットは車を。

 あるロボットは隣のロボットを。

 モモの放った命令どおりに、ロボットたちは壊し始めたのです。


 モモはすっかり動かなくなった友達の手を引きながら歩き出しました。

 モモは自分の放った呪いの言葉が世界を壊していくのを見て思ったのです。

 大事な友達を奪った世界を、どんどん壊してやろうと。

 モモが叫ぶごとに、世界が少しづつ壊れていくのが見えます。

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」


 モモを爆心地に、破壊の言葉は広がっていきます。

 その言葉を聴いたロボットたちは命令を完遂するために走り出します。

 作り上げた住み良い街を。

 形があるもの全てを。

 世界を壊すためにロボットたちは走り出すのです。

 自分たちで作った世界を壊さなければならない運命を呪いながら。

 ロボットたちは呪詛の言葉すら吐けず黙々と命令を遂行していくのです。


 モモはどこまでも歩き続けました。

 足はぼろぼろになって、血がにじみます。

 テイルからもらった服もあちこちが破れています。

 叫び続けたのどはすでに枯れています。

 けれどモモは叫ばずには居られないのです。

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」

「壊せ!」


 効率よく世界を壊すために、あるロボットは湖に毒を撒きました。

 あるロボットは森に火を放ち、あるロボットは発電所を爆発させました。

 あるロボットはミサイルを放ち、あるロボットは飛行機に乗って爆弾を落としました。

 破壊して、破壊して、破壊して。

 破壊するものが無くなったロボットたちは最後に、自分を壊しました。

 こうして長い間をかけて作り出したロボットたちの街は、たった一言の悪意ある言葉によってぼろぼろになってしまいました。



 むかしむかし、あるところに人間の住む街がありました。

 大勢の人間が住むその街にはいつもいざこざがあり、喧嘩があり、恨みや怒りがありました。

 あるとき、そのよどんだ感情がピークを迎えて、人間たちが戦争を起こしました。

 空気はよどみ、水は汚れ、植物など育たない世界となったその街を見て、人間たちはこうつぶやくのです。

「よし、やつらは皆死んだ。これで少しは住み良い街になったな」

 そんな人間たちの言葉を、ロボットは全て記憶していました。

 そして、彼らは用意していた宇宙船群に乗り込むと、ロボットたちに命令したのです。


 …………。

 ………………。

 瓦礫の中から、何体かのロボットたちが顔を出しました。

 モモの命令を聞くことなく生き残ったロボットたちです。

 彼らは瓦礫となった街を眺めると、黙々と瓦礫を片付け始めます。

 『この街をより住み良い街にすること』

 彼らは黙々と働き続けます。

 昨日も、今日も、明日も。

 そのハグルマがとまるまで、ずっと。



 ある日、空にひときわ長く尾を引く彗星が見えました。

 いままでの彗星とは比べ物にならない大きさです。

 そして、ロボットたちはその彗星を見て祈るのです。

 どうか、僕らのこの住み良い街が永遠に続くようにと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 綺麗で優しい文章だと感じました。 先が気になる展開で、物語に引き込まれました。 [気になる点] 「そして、彼らは用意していた宇宙船群に乗り込むと、ロボットたちに命令したのです」の部分の「彼…
[一言]  空想科学祭FINALの感想掲示板に書き込ませていただいたものと同じ感想です。今回は作者様のページにも書き込みをさせていただいています。(返信は放置で構いません)  着想はとても面白いし、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ