表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/22

第二章:いつもの光景

 授業終了のチャイムが鳴った。

 礼を済ませると、緒方崇史は大きく伸びをした。

 長きに渡る勉強地獄も、今日はとりあえず終わりだ。

 あとは部活を残すのみ。

 崇史は素早く自分の荷物をまとめると、前の席に座る沖本健太郎に声をかける。

「おい、まだかー?」

「今行く」

 健太郎は首だけ崇史のほうへ向け、言った。

 健太郎は崇史と同じサッカー部に所属している。だから教室から部室までは、いつも一緒に行っているのだ。

 適当に喋りながら、崇史と健太郎が鞄を持ってともに歩き出そうとしたところ、突然「沖本くん!」という甲高い声が聞こえてきた。

 二人がその声が聞こえてきた方向を見やると、そこには箒を片手に、高橋というクラスの女子の一人が立っていた。

「今週あたし達の班が掃除当番でしょ? 忘れたの?」

「あっ…。やべ、忘れてた」

 健太郎は「あちゃー」といった感じで頭を掻いた。

「じゃ、沖本くんは黒板をお願いね」

 高橋はにっこり笑うと、再び床を箒で掃き始めた。

 健太郎は小さくため息をついた。

「悪い、先行っててくれ。全体練習までには間に合うと思うけど」

「ん、分かった」

 崇史は「頑張れよ」と健太郎の肩を軽く叩き、教室の後ろの方へと向かう。

 一番後ろの席は、崇史や健太郎と同じサッカー部の、福谷良仁ふくたに よしひとの席である。

 良仁は既に教室を出る準備を済ませていた。

「よし、じゃあ行こうぜ、『フクワラ』」

「ん」

 そう言うと、二人は並んで歩き出した。

 目的地はもちろんサッカーグラウンドである。

 ちなみに『フクワラ』とは良仁のあだ名のことだ。もともとは、顔のパーツがアンバランスなことと、名前の「福谷」をかけて『福笑い』と呼ばれていたのだが、いつの間にかそれが縮まって『フクワラ』になってしまった。

 良仁は『福笑い』なんてあだ名がつけられても、あまり気にしなかった。にこにこ笑いながら「やーなあだ名だなぁ」とは言っていたが、本気で嫌がってはいなかった。だからこそ崇史も良仁のことをそのあだ名で呼んでいたのだが。



 サッカーグラウンドに着くと、ちょうど一年生の高見賢次たかみ けんじが部室の鍵を開けているところだった。

 サッカー部は条星院高校のメインといってもいい部活なので、部室が二つ与えられている。

 ひとつは一軍が、もうひとつは二軍以下が使っている。当然ドアの鍵も別物である。

 部室の鍵を開けるのは一年生の仕事だが、一軍には一年生は一人しかいない。その唯一の一年生が、高見賢次なのだ。

 だから必然的に、一軍の部室の鍵の開け閉めは賢次一人の仕事となっている。

 賢次は崇史と良仁の姿を見つけると、「こんにちは」と挨拶をした。

「あれ、沖本先輩は?」

 賢次はドアを開け、先に二人を中に入れながら言った。

「沖本は掃除当番だと。多分全体練習までには出てくるだろ」

 崇史が言うと、賢次は納得したように頷いた。

 やがて部員も集まり、着替えを済ませて部室から出ると、そこには既に条星院高校サッカー部のコーチ、正井豊まさい ゆたかが立っていた。

 いつものことだが、顧問の久木田正則くきた まさのりの姿は見えない。彼は顧問とは名ばかりの、サッカーに関してはほぼ素人の教師なのだ。

「全員そろったか?」

 豊はあごヒゲを右手で撫でながら言った。

「あ、健太郎が掃除当番でちょっと遅れてます。多分もうすぐ来ると思いますけど」

 良仁が小さく手を上げながら言う。

 豊は了解した、という風にちょっと頷いて見せた。

「よし、じゃあとりあえずグラウンドを二週して来い。それからストレッチだ。沖本が来たら適当に混ぜてやれ」

「はい!」

 部員達は声を揃えて返事をすると、指示通りグラウンドを二列になって走り始めた。

 先頭は部長の葛井卓くずい すぐると副部長の根来壮樹ねごろ そうき。その後ろが富江誠二とみえ せいじら三年生、その後ろが崇史たち二年生で、最後尾が一年生の賢次である。練習前のジョギングのときは、いつもこの学年順の並びで走っている。

 崇史たちは掛け声をかけながら、グラウンドをゆっくりと走った。

 グラウンドの隅では、マネージャーの牧七恵まき ななえたちが部員達のための飲み物を作っているのが見えた。少し苦労しているようなのが、後姿で分かった。

 七恵は時々ありえないような大失敗を犯す。

 彼女が一度、火を吐くほど辛いスポーツドリンクを作ったことがあったのを思い出し、若干の不安に駆られる崇史だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ