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第一章:週一回の帰り道

 ちょうどグラウンド全体が見渡せる位置に置かれている朝礼台に腰掛けながら、麻島彩音あさじま あやねはぼんやりとグラウンドの方を見つめていた。

 彼女の視線の先には、オレンジ色の夕日を一身に受けながら汗を流す、サッカー部員たちの姿があった。

 時々何か大声で叫んでいるが、よくは聞き取れない。

 試合はゼッケンを着た選手たちが次々とボールをパスしてまわしていたかと思えば、ゼッケンを着ていないほうの選手がそのボールを奪ったりと、なかなか白熱しているようだった。

 と、ふとたくさんいる選手たちの中の一人が前線に出て、手を上げるのが見えた。ゼッケンをつけていないほうの選手である。

 ボールを持っていた選手は、手を上げた者目掛けて低い弾道のパスを送る。

 手を上げた者はそれをうまくトラップすると、そのまま相手のゴールへとボールを蹴り込んだ。

 ボールはキーパーの手の間をすり抜け、ネットを揺らす。

 ゴールを決めた部員が、ガッツポーズをしてみせた。

「よーし、今日の練習はここまで!」

 遠いながらも、何とかそんな言葉が聞き取れた。

 言葉を発したのは、グラウンドのすぐ脇で腕を組んで試合を見ていた男である。彼がサッカー部のコーチなのだ。

 コーチの言葉に部員たちは動きを止め、互いに礼をした後、散り散りなる。

 一年坊主はグラウンドの整備を始め、二、三年は互いに談笑しながら部室へと引き上げていった。

 それから十五分ほどで一年はグラウンド整備を終え、二、三年も着替えを済ませて部室を出てきた。

 サッカー部員たちはコーチのもとへ集まり、真剣な顔で話を聞く。

 十分ほどの話が終わると、ようやく部員たちは帰路につくことができるのだ。

 彩音はコーチの話が終わったのを感じると、朝礼台からひょいと降りて、サッカー部員たちのもとへと駆けていった。

 いや、正確に言えば、その中の一人、緒方崇史おがた たかしのもとへ。



 彩音はスキー部に所属している。

 その活動期間は主に冬で、それ以外の期間では体力づくりという地味な活動を行う。よって、活動日も週一回とかなり少なくなる。

 彩音は週一回の部活の後、一人で帰るのもなんだからと崇史を待つようにしている。毎日一緒に帰っている友人は、部活の日だけは別々に帰っている。その友人は帰宅部なので、自分のために友人を待たせるのは申し訳ないからだ。

 スキー部の活動はただの体力づくりなので一時間ほどで終わるが、サッカー部は毎日最終下校時刻まで活動を続けている。

 彩音の所属する条星院じょうせいいん高等学校はサッカーの強豪として全国的に有名だ。練習もそれだけ厳しいものなのである。

 部活が終わったあと、彩音は長い間待たされることになるが、別に暇つぶしの方法はいくらでもあるので苦痛ではない。

「崇史、終わった?」

「ああ。すぐ行く」

 彩音が声をかけると、崇史は友人たちに「じゃーな」と言いながら手を上げ、彩音のもとへと歩いてくる。

「じゃ、帰ろ」

「ああ」

 二人は自転車置き場まで一緒に歩き、自転車に乗った。

 家から学校までは、大体自転車で三〜四十分くらいの距離がある。

 二人は急ぐわけでもなく、ゆったりしたペースで自転車を走らせた。

「な、見てたか? 俺のミラクルシュート」

 崇史が顔に笑みを浮かべながら彩音に言った。

 終了直前、ゴールを決めたのは崇史だったのだ。崇史は現在二年生で、条星院高校でも一、二を争う部員数を誇るサッカー部で一軍の座を手にしている。

「見てたよ。でもあれ、沖本くんのパスが良かったんじゃないの?」

 本当は彩音自身、崇史のシュートは遠目から見ても素晴らしいものだと思っていたが、素直にそんなことを口には出したりはしない。ちなみに沖本くん、とは崇史にパスを出した部員で、沖本健太郎おきもと けんたろうという。

「何言ってんだよ。俺の超プロ級の実力があってこそだろ、あれは」

「誰が超プロ級よ、誰が」

「だから、俺」

「ハッ。冗談は顔だけにしなさいよ」

 崇史はちょっとへこんだ。

 彩音も少し言い過ぎたかもと思う。実際、「冗談は顔だけにしろ」と言われるほど崇史の顔は酷くない。というより、むしろ整っている部類に入るだろう。日焼けした顔に精悍な顔つき。彼を想っている女子も少なくはないという。

「大会はいつからだっけ?」

 彩音はちらりと崇史を横目で見ながら言った。

 確か近いうちに、大きな大会があると言っていた。

「来週の日曜。応援来るか?」

「ん、暇だったらね」

 言いながら彩音は、来週の日曜の自分の予定を思い出してみた。別に何も予定は入っていない。応援には行けそうだ。

「あんたが超プロ級だってんなら、その大会で、ちゃんと結果残しなさいよ」

「ああ」

 崇史は何だか楽しそうな声で答えた。

「もちろんさ」

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