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第十七章:解答編の始まり

 正井豊は車を運転していた。

 現在の時刻は午後十二時三十五分。

 約束の時間までにはおそらく間に合うだろう。

 昨日の夜、正井の家に電話がかかってきた。相手は、緒方崇史だった。

 崇史は言った。犯人が分かったから、明日の午後一時、学校の部室へと来てほしい、と。

 何の犯人であるかは、言うまでもない。

 正井は自らの気分を落ち着かせるように、普段はかけない音楽を、車内に流したりした。

 その音楽に耳を傾けつつ、正井は無言のまま運転を続けた。



 牧七恵はベッドに寝転がっていた。

 時計を見ると、もう十二時三十分を回っている。

 そろそろ家を出ないと、時間に間に合わない。

 七恵は億劫そうにベッドから起き上がると、小さく伸びをした。

 着替えはもう、済ませてある。

 鏡を覗き込み、髪を整えながらも、七恵の目はどこか虚ろだった。



 沖本健太郎はサッカーのリフティングをしていた。

 トン、トン、トンと一定のリズムを刻みながら、ボールは宙を舞っていた。

 ボールは規則正しく、上へ下へと移動する。

 しばらくの間それが続けられ、ふと健太郎は足を止めた。

 ボールはそのまま、重力にしたがって地面へと落ちる。

 リフティングをしていたときとは違う、不規則な音が辺りに響いた。

 健太郎は腕時計へと目をやると、急いだ様子でその場を離れていった。



 福谷良仁は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

 壮樹の死体が発見された日、崇史たちと一緒に入った店である。

 コーヒーはやっぱり、いつもと同じホットだった。

 良仁は頬杖をつき、無表情でカウンター席に座っている。

 彼の前では、この店のマスターが、無言のままに自らの仕事を淡々とこなしていた。

 良仁はカップを持ち上げ、ゆっくりと、静かにコーヒーを啜った。



 高見賢次は自転車をこいでいた。

 容赦ない太陽の光を全身に浴びながら、無言で、ただ黙々とこいでいた。

 汗が体中にへばりついている。

 シャツの背中が濡れているのを、賢次はなんとなく感じていた。

 さすがに疲れたのか、いったん自転車を止めると、彼は額の汗を拭った。

 蝉の声が、何重にも響いて聞こえる。

 拭ったそばからまたじわりと滲んでくるその汗に少し顔をゆがめながら、賢次は再び自転車をこぎ始めた。



 久木田正則は職員室にいた。

 今日も数名の同僚がそこにいる。

 今日は、昨日誠二の死体が発見されたということで、学校は休みである。

 卓が殺されてからの短い期間に、いったい何日が休校になっただろう。

 久木田は時計に目を移す。

 休校であるにもかかわらず、今日は数名の生徒が学校へとやってくる。最初に事件が起こった、あの部室へと。

 久木田はゆっくりと立ち上がり、職員室を出て行った。

 約束の時間は、もうすぐだった。





 約束の時間の五分前には、部室の前に事件の関係者全員が揃っていた。

 その中には、不機嫌な仏頂面をした宝井もいる。

「おいガキ。これはどういうことだか説明しろ」

「昨日報告したとおりです。俺はこの事件の犯人が分かった。だからみんなを集めたんです」

 苛立たしげな宝井の問いに、崇史は答える。

「ふん、それはぜひ聞かせてもらいたいものだな。何しろ捜査がはかどってないんだ。そんななか、警部の俺をこんなところまで引っ張り出したからには、やっぱり間違いでした、じゃすまないぞ。分かってるんだろうな?」

「分かってますよ。俺は自分の推理に自信を持ってる。真犯人を、ここで暴いてみせます」

 崇史がそう言うと、宝井は小さく鼻を鳴らし、そのまま黙り込んだ。

 宝井が大人しくなったのが分かると、崇史は関係者たちのほうへ向き直った。

「それじゃあ、これから俺の推理を聞いてもらえますか?」

 返事はない。

 全員の顔に、程度の差はあれ、緊張の色が見て取れる。

 彼らはその色を顔に滲ませながら、何も言わずにこちらをじっと見ている。

 崇史はその沈黙と視線を肯定ととらえ、話を続けることにした。

 目を瞑り、軽く深呼吸をする。

 これからすることを考え、その気持ちを鎮めるかのように。

 目を開くと、崇史ははっきりと言った。

「部長たち三人を殺した今回の事件の犯人は、俺たちサッカー部の関係者の中にいます」

 崇史と彩音を除くその場の全員の顔に、衝撃が走った。

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