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第十五章:手がかり

「前から思ってたけど、あんたさ、馬鹿だよね」

 彩音が呆れたような声を出した。

「真正面から向かっていって警察が簡単に情報流してくれるわけないじゃない」

「副部長のときは教えてくれただろ」

「あれは別に教えたって構わない情報だったからでしょ。ニュースでも見ればいくらでも仕入れられる情報だもん。今回教えてもらえたごく僅かな情報だって、別に特にいい情報ってわけじゃないし」

 確かにそうだ。

 学校を飛び出して現場まで行き、得ることが出来た情報といったら、誠二が殺されたのは事実であるということと、誠二は左足を持ち去られていた、ということだけだ。死因さえ分かっていない。

 崇史が学校を飛び出していったあと、生徒たちはすぐに下校ということになったらしい。

 別に学校を飛び出さないでも、少し待てば動くことが出来たのだった。

 そして崇史が学校を飛び出したことを知った彩音は、お節介にもそれを崇史の母に知らせに来た。

 おかげで崇史は母親から鉄拳制裁を喰らうことになってしまった。

 母親の説教も終わり、ようやく部屋に戻ってくると、そこに彩音がいたというわけだ。

「ったく、本当にお前、余計なことしてくれたよな」

「あたしは事実をそのままおばさんに伝えただけ。怒られるような行動をとった崇史が悪いんでしょ」

 正論だった。

「それにしても今度は左足か。まったくどういうつもりなんだろうね、犯人は」

「ああ、意味不明だ。何か意味があると思うんだけどな……」

 それにしても情報が少なすぎる。謎ばかりで情報がない。

 何とかして情報を得たいのだが、宝井の様子からすると、すんなり教えてくれそうにない。

「……しょうがない。奥の手を使うか」

「奥の手?」

「そう。ズバリ『盗み聞き大作戦』だ」

 崇史はにやりと笑った。



「ったくもう、名前どおりの何のひねりもない作戦よね」

 隣で彩音が小声で文句を言う。

 崇史と彩音は今、誠二の死体が発見された現場である、虎川神社へと来ている。

 神社とつながっている裏の森林からこっそりと忍び込み、物陰から警察の様子を探っていた。

「見つかったらどう言い訳するつもり?」

「見つかったときのことなんて考えてたって仕方ないだろ?」

「……ついてくるんじゃなかった」

 小声でやり取りをする二人。

 そうしながらも、耳だけは警察のほうへ向けていた。

 警察の者たちが話していることを盗み聞きし、情報を得ようというのだ。

 だが警官たちは、あまり有益な情報を喋ってくれない。

 物陰に隠れたまま一時間が過ぎ、そろそろ諦めて帰ったほうがいいかもしれない、と思ったそのとき、彩音が「あ」と声を漏らした。

「ん、どうかしたか?」

「ねえ、あれ、サッカー部のマネージャーの人じゃない?」

「え?」

 彩音が指差した方向を見ると、そこには確かにサッカー部のマネージャー、牧七恵の姿があった。

 ゆっくりと歩きながら、現場のほうへと近づいていく。

「こら、君は何だね?」

 案の定、途中で警官に呼び止められた。崇史を呼び止めた警官と、同じ人のようだ。

 崇史と彩音は、二人の会話に耳をそばだてた。

「あの、あたし条星院高校のサッカー部の者なんですけど、富江先輩が殺されたって、本当なんですか?」

「あ、ああ。本当だが」

 警官は戸惑ったように答えた。

 それを聞いた七恵は、驚愕に目を見開いた。体が小刻みに震えている。

「そ、そんな……。富江先輩まで……酷い……」

 七恵はそう言うと、その場で泣き出してしまった。

 これには警官も困ってしまったようで、しきりに七恵に何か話しかけていた。声が小さかったので、何を言っているのかまではわからなかったが。

 困っているその警官を見かねて、仲間の警官がニ、三人そちらへ駆けつけ、泣いている七恵を少し離れたところへと連れて行った。

 神社の石段に座らせ、女性の警官が一人、つきっきりで慰めている。

「俺のときとはずいぶん対応が違うな」

「女の子が泣いてるんだもん。違って当たり前よ」

「お、そうだ。このままじゃなかなか情報を得ることも出来なさそうだし、ここはいっちょ『女の涙作戦』ってのはどうだ?」

「どういうこと?」

「彩音が牧と同じように現場まで行って、泣いてみせるんだ。で、おろおろしている警官を相手に、さりげなく情報収集を……」

「却下」

 彩音は呆れたように言う。

 崇史が反論しようと口を開きかけたそのとき、先ほど七恵に目の前で泣かれた警官が、仲間の警官と話しているのが聞こえてきた。


「ったく、冗談じゃないよ。今日はこんなことばかりだ。朝にも男子高校生がここにやってきたし。まったく、捜査の邪魔をしないでほしい」

「いきなり女の子に泣かれたんだもんな。まったくお前も不運だよ」

「まあ、泣きたくなる気持ちも分かるがな。これで三人目だろう?」

「ああ、死体の一部を持ち去るなんて、異常者の犯行じゃないか?」

「それでも同じ部の人間が三人だからなぁ。宝井警部はサッカー部に恨みを持つものの犯行と考えてるみたいだな。サッカー部の関係者は最初の殺人のときに全員アリバイがあるようだし」

「どっちにしろ正気の沙汰とは思えんな。と、そういえば毒物の種類が分かったんだったよな?」

「ああ、ニコチンの濃厚液らしいな。毒物の入手経路から犯人を絞れるかもしれないと考えていた宝井警部は大層残念がっていたよ」

「そうか、ニコチンなら入手するのはそう難しくないからな」

「今回見つかった凶器のナイフも、別にそう珍しいものじゃない、ありふれたものだったからな」

「二番目の事件のときにも使われたナイフらしいな。ようやく凶器が分かったのに、これもまた犯人にはつながらないんだもんな。まったく、やってられんよ」


 そこまでで警官たちはその場を離れてしまったので、それ以上を聞くことは出来なかった。

 しかし、三つ重要な情報を得ることが出来た。第二の殺人のときの凶器が見つかったこと(そしてそれは今回も使われたらしい)。はっきり言ってはいなかったが、誠二の死因は刺殺らしいこと(凶器がナイフなら刺殺だろう)。そして第一の殺人のとき使われた毒物の種類がニコチンであったらしいこと。

「彩音」

「何?」

「久木田先生って、化学の教師だったよな」

「うん」

 化学の教師といえど、ニコチンについて深い知識を持っているとは限らない。

 が、一応聞いてみる価値はありそうだ。

「よし、学校に行こう。久木田先生なら、多分まだ残っているはずだ」

 崇史はそう言うと、その場から立ち上がり、素早く駆け出した。


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