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第十四章:三人目

 翌日。

 崇史はいつも通り学校へと来ていた。

 今日は早朝練習がないのにも関わらず、寝坊せず、時間通りに学校に来ることが出来た。

 教室に入ると、前の席の健太郎が机に頬杖をつき、暇そうにしているのが見えた。良仁はまだ登校していないようだ。

 崇史は自分の机に鞄を置くと、健太郎に「よ」と声をかけた。

 健太郎は座りながら崇史を見上げる。

「あぁ、なんだ、崇史か。今日はやけに早いな」

「早くねーよ。時間通りに来ただけだし」

「早朝練習の日以外、時間通りに来ないから早いって言ってんだけどな」

 健太郎はそう言ってにやっと笑ってみせた。

 崇史は少しばつが悪そうに頭を掻く。

「フクワラはまだ来てないみたいだな」

「あいつは別に朝弱いわけじゃないからな。あと十分もすれば来るんじゃないか?」

「そっか……」

 しばらくはそんな風に適当に会話を交わしていたが、崇史はふと思い立ち、健太郎に聞いてみた。

「なあ、黒崎さんって、どんな人だったっけ?」

 黒崎美沙について、崇史は知らないことが多かった。

 彼女の顔立ちや、大体の性格はもちろんちゃんと知っている。彼女はサッカー部のマネージャーだったから。

 ただ、それ以上のことを言えと言われたら、崇史は何も言うことが出来なくなる。

 だから彼女についてもう少し知るため、今日学校に来たら良仁に聞いてみようと思ったのだ。

 あの喫茶店で、黒崎美沙の名前を出した良仁なら、自分以上の情報を何か持っているかの知れないと思って。

 だがまだ良仁が来ていないなら、健太郎に聞いても別にいいだろうと思い、聞いてみたのだ。

 しかし、その問いをぶつけられた健太郎は、きょとんとした顔をしていた。

「黒崎さん? 誰だそれ?」

「覚えてないか? 一年前に自殺した、サッカー部のマネージャーだった女子だよ」

「一年前? だったら俺が知るわけないじゃないか」

 何でだよ、と言おうとして、崇史ははっとなった。

「そっか。そういえばお前……」

「ああ。一年前ならまだ、この学校にはいなかったんだよ」

 健太郎は転校生だった。二年にあがってからすぐ、この学校にやってきたのだ。

 だったら一年前に起きたこと、いた人間など、知るはずがない。

「そうだったよな。完全に忘れてた」

 となると、黒崎美沙のことはやはり良仁に聞いてみるしかなさそうだ。

 崇史がそんなことを考えていると、突然、教室の戸が大きな音を立てて開かれた。

 楽しそうに雑談していた生徒たちは、一瞬にして静かになり、戸のほうを見た。

「どうしたんだよ、フクワラ」

 崇史と話していた健太郎が、驚いたように言った。

 良仁は、戸のところで小さく息を乱していた。

「さっき、職員室で先生たちが話してるのを聞いたんだ」

「聞いたって、何を?」

 良仁は、自らを落ち着けるよう深呼吸したあと、言った。

「また殺されたって。今度は、富江先輩が」

 教室中の人間が、はっと息を呑んだ。

虎川とらがわ神社の辺りで、死体で発見されたって……」

 崇史は良仁が言い終わらないうちに、教室を飛び出した。

 後ろで誰かが自分のことを呼んでいたが、立ち止まらなかった。

 向かう先はもちろん、富江誠二の死体が発見されたという、虎川神社だ。



 虎川神社は、条星院高校の東百メートル程のところにある、小さな神社だ。

 その神社の前に、何台ものパトカーが止まっているのが見える。

 崇史は少し離れたところに自転車を止めると、神社のほうへと走っていった。

「こら、何だね君は」

 当然、事件現場に入る前に、警官へと呼び止められてしまった。

 だが崇史は怯むことなく言った。

「宝井って刑事さん、いますか?」

「宝井? 宝井警部のことかね?」

 警官は少し戸惑ったように言った。

 どうやら宝井は警部らしいと知り、内心少し驚く崇史だった。

「そうです! その宝井警部を―――」

「またお前か!」

 崇史の声を遮るようにして、大きな低い声が聞こえてきた。

 神社を囲うように張り巡らされた黄色いテープの内側から、大股で誰かが歩いてくる。宝井だ。

「何なんだお前は! 今度は一体何をしに来たんだ!」

「教えてもらいたいことがあって来ました」

「またか! お前に教えるようなことは何もない! とっとと帰れ!」

 宝井は睨みをきかせ、大声で叫ぶ。

「じゃあ、殺されたのが富江先輩だって言うのは本当ですか?」

「本当だ! 今度は左足が切られてた! これで満足だろう、帰れ!」

 今度の被害者が誠二であったことと、今度の死体は左足が持ち去られていたこと。

 この二つは特に隠し立てする必要はないから、すんなり教えてくれたのだろう。

 しかしそれ以上は、この宝井の様子からすると、教えてくれそうにない。

 崇史はため息をつき、「ありがとうございました」とだけ言い、宝井に背を向けた。

 

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