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第十三章:考察

「ねぇ、違和感の正体って、何だったの?」

 十分ほどの部室訪問が終わり、賢次、正井と別れた後、家に帰るために自転車をこぎながら、彩音が聞いた。

 事件の関係者たる二人がいる前では、我慢して聞かないでおいたのだ。

「違和感の正体……別にたいしたことじゃないんだけどな」

「たいしたことじゃなくてもいいから、早く教えてよ。さっきからすごい気になってるんだから」

 違和感の正体が分かった、と言われたときから、彩音はもう気になって気になって仕方なかったのだ。

 そんな彩音に苦笑しつつ、崇史は答えた。

「べとついてたんだよ」

「え?」

「部室の電灯のスイッチ、いつもはそんなことなかったのに、妙にべとついてたんだ」

「ふーん、べとつきねえ」

 彩音は自転車をこぎながら少し首をかしげた。

「事件に何か関係あるのかなぁ?」

「いつもはべとついてなかったスイッチが、事件直後にはなぜかべとついてた。何か関係があるはずだ」

 しかしどんな関係があるというのだろう。

 彩音には見当もつかなかったが、こういうことに関しては驚くほどの鋭さを発揮するこの幼馴染がそう言うなら、何か関係があるに違いない。

「だとすると、犯人がサッカー部関係者だとしたらだけど、アリバイがあったこととか、死体の一部が持ち去られてたことと、何か関係があるのかもしれないわね」

「あぁ。それについてはじっくり考えていかなきゃな」

 二人はこぐスピードを乱すことなく、一定の速さで走り続ける。

 家までは、もうすぐだった。



 家に着き、夕飯を食べた後、崇史は自分の部屋にこもった。

 そしてもう一度事件について整理してみる。

 彩音の持ってきたメモに書いてある、五つの事柄。

 アリバイ、持ち去られた体の一部、第一の殺人の死因、動機、指先の違和感。

 これらは一体何を意味するのだろうか。

 すべての疑問が解決されれば、犯人が誰なのかも、分かるのだろうか。

 アリバイ。

 第一の殺人において、関係者全員にアリバイが成立している。

 賢次、健太郎、良仁、七恵、誠二は塾にいた。塾は学校からごく近いが、唯一犯行が可能だった時間帯である休憩時間はたったの十分で、その十分のアリバイが全員にある。

 久木田は職員室にいた。数名の教師と共に仕事をしていたし、職員室とサッカー部の部室は、同じ校内とはいえ、割と離れた位置にあった。

 正井は県のサッカー協会の会議に出ていた。関係者全員の中で、もっとも強固なアリバイを持っているのが彼だった。現場と会議があった場所は、車で一時間以上離れていて、休憩時間は途中十五分しかなかった。

 やはり誰にも、犯行は不可能としか思えない。

 持ち去られた体の一部。

 卓は両腕を、壮樹は右足をそれぞれ切断され、持ち去られていた。一体何のためにそんなことをする必要があったのか。

 そう考え、ふと去年の大会のことを思い出す。確か去年も、卓と壮樹の二人はレギュラーだった。壮樹はディフェンスとして、相手の決定的なシュートを、防いだことがあった。相手チームがシュートしたボールを、卓が弾き、弾いたボールをさらに相手チームがシュートしたのだ。体勢を崩していた卓は、反応できなかった。入ったと思った。しかしギリギリのところで壮樹がそれを外に弾いて見せたのだ。『右足』で。そのプレーは正井にも褒め称えられ、結果、条星院高校は僅か一点差で勝利した。そして卓はキーパーだ。今まで何回か、ファインセーブをやってのけたことがある。その『両腕』で。彼らの両腕、右足が切断されていたのと、何か関係があるのだろうか。

 第一の殺人の死因、毒殺。

 刃物で刺したり、鈍器で殴ったりしたほうが楽なのに、あるいは毒殺するなら、飲食物に毒を混ぜて飲ませたほうが楽なのに、犯人はそうしなかった。毒の注射のようなもの。実際注射器が使われたのかどうかは分からない。ただ毒物は、皮膚から血管へ、直接入ったらしいことは間違いないようだ。一体どんな種類の毒物だったのだろう。崇史にはそれも気になった。

 動機。

 おそらくこれは、一年前に自殺した黒崎美沙が深く関わっている。怯えた顔で彼女の名前を口にした誠二。自分は命を狙われている、とも言っていた。つまり、何か殺されるだけのことをした覚えがあるのだ。一体何をしたというのだろう。それには殺された卓や壮樹も関わっていた、ということなのだろうか。

 指先の違和感。

 その正体は、べとつきだった。一体なぜ、電灯のスイッチはべとついていたのだろうか。肌に張り付くような、ちょっといやな感じ。何か細工でもしたのか。その細工に、何の意味があるのか。

「ふぅ……」

 いろいろと考えてみたけれど、やはり謎だらけだ。

 謎だらけ、分からないことだらけ。

 それでも考えなくてはならない。

 誰に頼まれたわけでもない。自分で決めたのだ。この事件、必ず解決してみせると。

 崇史の知る卓は、明るく、快活でいい先輩だった。部長として、尊敬してもいた。

 崇史の知る壮樹は、卓や誠二と共によく笑い、部活のときは副部長としてしっかり部長を補佐していた。

 その二人は、死んだ。

 なぜ殺されたのか、崇史には分からない。何か殺されても文句は言えないほど、酷いことをしたのかもしれない。

 それでも、二人は崇史の先輩だった。

 一体誰が、なぜあの二人を殺したのか。何も知らない崇史は、だからこそ知りたいと思うのだ。

「絶対、すべてを解き明かしてみせる……」

 自分の決意を確認するかのように、崇史はそう呟いた。

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