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第十章:自殺した少女

 宝井から情報を得た崇史、彩音、良仁の三人は、近くの喫茶店に入った。

 小さなテーブルを三人で囲み、崇史はアイスココア、彩音はアイスコーヒー、良仁はホットコーヒーを頼んだ。

「崇史はコーヒー飲めないんだよね。コーヒーくらい飲めるようになったら?」

「うるせーな、俺は苦いのが苦手なんだよ」

 崇史は顔をしかめて見せた。

「つーかフクワラ、こんな暑い日によくホットなんか飲めるよな」

 それ以上コーヒーのことで突っ込まれたくなかったのか、崇史は話を良仁に振った。

「この喫茶店、冷房入ってるし。それにコーヒーはアイスよりホットのほうがうまいんだよ」

 そんなもんだろうか。

 コーヒーをほとんど飲んだことのない崇史にはぴんとこない主張だった。

「それより、さっきの刑事さんによれば、副部長さんの死体も、体の一部が切断されていたみたいね」

 彩音が話を事件に移した。

「えーと、部長さんが両腕で、副部長さんが右足か……。どういう意味があるんだろうね、これ」

「さーな。死因は刺殺で凶器は不明。捜査はあまり進展してないみたいだな」

 崇史がため息をつく。

 しかし一応情報を手に入れることが出来たのだから、ありがたく思うべきなのかもしれない。

「副部長、死んだんだよな」

 不意に良仁がコーヒーを啜りながら暗い声を出す。

「部長が死んで、副部長が死んで。呪われてんのかな、うちの部」

「ほんとだよな」

「一年前にも、あんなことがあったし」

「あんなこと?」

 彩音が不思議そうな声を出す。

「一年前……って、何かあったの?」

「ああ、あれか。でもあれって、サッカー部自体とは関係ないんじゃないか?」

「ん、まあ、そうだけど……」

 良仁はどこか歯切れの悪い口調で言った。

「ちょっと! あんなことって一体どんなことなのよ!」

 二人だけで勝手に話を進めてしまう崇史と良仁に、彩音が声を荒げる。

「いや、別に今回の事件とは関係ないと思うけど」

「関係なくても気になるでしょ!」

 崇史はやれやれ、とため息をついた。

黒崎くろさき美沙みさって、知ってるか?」

「黒崎美沙? 知らないけど」

「そうか。ま、そうだろうな。その黒崎さんは、俺たちと同じ学年で、サッカー部のマネージャーだったんだよ」

「へぇ、そうだったんだ。で、その黒崎さんがどうしたの?」

「……自殺したんだよ」

 答えたのは崇史ではなく、良仁だった。

「自殺?」

「そう。知らなかった? そのときは結構話題になってたけど」

「うーん、そういえば同学年の女子が自殺したっていう話は聞いた覚えがあるけど、名前までは覚えてなかったなぁ」

 彩音は腕を組んだ。

「たしかそれが噂になったのって、去年の夏休み明けだったっけ?」

「そう。八月の末に自殺したんだ。俺たちサッカー部のメンバーは、葬式にも行ったよ。ね、崇史?」

「ああ。彩音は別に普段関わりもなかったから、別に印象にも残らなかったんだろうけどな。特に親しくなかった生徒が黒崎さんの自殺を知ったのは、夏休みが明けて、校長が朝会で発表したときじゃないか?」

「そっか、だから九月ごろに話題になったのね」

 彩音が納得したように言う。

 しかしまた疑問を顔に浮かべた。

「それじゃ、その黒崎さんの自殺って、何が原因だったの?」

 彩音の問いに、崇史は首を振ってみせた。

「それが謎なんだよ。原因不明。勉強に疲れただとか、男にふられただとか、いろいろ噂になってたよな」

 崇史は良仁のほうを向く。

 良仁は頷いた。

「ふぅん。でも、別にその黒崎さんがサッカー部のマネージャーだったってだけで、彼女の自殺に別にサッカー部は関わってないんでしょ? だったらやっぱり、別にこの事件と黒崎さんの自殺の件はあまり関係ないってことよね」

「うん、まあ、多分そうだと思う」

 良仁は比較的あっさりと頷いた。

 一年前の、黒崎美沙の自殺。

 今まで特に意識していなかったことが、ふと崇史の頭に舞い込んで来る。彼女の死は、確かに謎だらけだった。

 彼女を自殺にまで追い込んだのは、一体なんだったのか。

 今は亡き彼女の顔を思い浮かべてみる。

 彼女がとても美しい少女であったことを、崇史は思い出した。


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