第2話 公爵令嬢は婚約破棄を望む
その真夜中。
「キャー! 止めて!! 何なの!?」
ベッドの上で寝たフリしてたら、自室の寝室スペースの隣、応接スペースで女性の悲鳴と荒々しい音が響いた。
やっぱり来たか。
部屋の明かりを不寝番の執事がつけて、顔を隠す4人の影にガッチガチに拘束され蓑虫となった女を見下ろす。
「━━━━コーデリア、残念だ。お前が義妹になるのを楽しみにしてたんだぜ?」
銀にも灰色にも見える髪にライトグリーンの瞳という儚げな美少女に、心底やるせない気持ちになる。
影が機能してない時点で変だと思ってたのよ。
「王太子殿下……」
そんな怯えた目をするくらいなら、最初から馬鹿な事やってんじゃ無ェよ。
此処から奥の寝室手前━━執務室にある婚姻届目当てで忍び込んだんだろう。
「アレンとの結婚、そんなに嫌だったか? ウザ過ぎた?」
「……」
目線を合わせるようにしゃがみ込んで、1番あり得そうな理由を挙げて聞くが、コーデリアは視線を彷徨わせるだけだった。
「冒険者がゲロったよ。お前に台本と金渡されて、その通りにアレン口説くよう言われたって」
魔女とか皇女とかも、金では無さそうだが、何か交換条件出してアレンを口説かそうとしたんだな。
アレンの言ってた宇宙の意思的な声は、多分聖女の魔法だろうけどな。アレは典型的な略奪泥棒猫だったわー。
「……わ……私━━」
お、間があったけどちゃんと話してくれる気になったか。
「ん?」
聞くぞー。将来的にお兄ちゃんだからな(※情状酌量の余地があれば)。ちゃんと聞くぞー。
「アレン殿下とは、結婚出来ません」
「何で?」
「アレン殿下には、運命のお相手が沢山おります」
お……おお?
「でも私は、その対象では無いのです。私などと結ばれては━━」
「王家側としては、家柄と容姿と才能的に1番コーデリアが問題無いんだけどな〜」
「私では、アレン様が幸せになど……」
「コーデリアと結婚出来なかったら舌噛み切って死ぬって、覚悟ガン決まってたけどな〜」
「えっ……」
あ、違うや。『嫌われたら』だっけ? まぁ、大差無いな。
「…………や、やっぱりダメです!」
「うちのアレンに死ねと?」
「違います!」
じゃあ何やねん。
「私には、予知能力がありまして!」
「ラッキー。やっぱ王家に取り込んどこ」
「嘘嘘嘘! ごめんなさい!」
この局面で嘘つけるって、図太いなコーデリア。
「ううぅ……予知では無いんですが、大分似通った物がありまして、アレン王子には、魔法・武術・商才そんなあらゆる才女を仲間に冒険に出て貰わなければなりません。じゃ無きゃ世界が滅んでしまうのです」
すんごい胸糞な事言われた。
俺、顔は今ニーッコリしてると思うけど、結構怒ってるよ。
「そんな後世後々までうちに禍根残すに違いない事せにゃ滅ぶ世界なら、いっそ滅んでしまえ」
「笑顔でエグい事言いますね!?」
お前の発言のがずっとエグいわ。
「何だよそのふざけまくったパチモン予知。つーか予知か?」
「……分かりました。もうこの際正直に言いましょう。実は私、前世の記憶があるんです」
……ほほう?
静かに聞いていれば、どうやらコーデリアは前世庶民で、その世界では物語を映像化して動かす感じの遊具(?)があったのだとか。
その物語の一つにこの世界と酷似した物があり、これまたアレンに酷似した第二王子が主人公だったそうな。
その物語では、最終的にアレンが世界を魔界に取り込まんとする魔王を倒すらしいのだが、その為には美少女達と乳繰り合う必要があるんだとか。
女の子とイチャついたら強くなるとか何その謎理論?? てかハーレムエンドなんてした日には普通に血祭りでは?? それこそバッドエンドでは?
色々突っ込みたい箇所はあるが……、
「至急、頭の名医を手配しろ!」
ベテランの老執事に命じると、「御意」と駆けて行った。
すげ〜、もうあんなに後ろ姿小せぇ。流石、60過ぎてるのに素晴らしい脚力。
「お待ちください! 頭は正常ですぅ!!」
「頭がおかしい奴は皆そう言うんだ。安心しろコーデリア、お前は治る」
安心させるように笑う。
イケメンじゃ無くてフツメンの笑みでゴメンね。
「普段絶対にお見せにならない無駄に慈愛の籠った目を此処で向けないで下さい! 惨めな気持ちになる!!」
「「「「…………」」」」
周囲の影達の雰囲気が、俺達の会話で緩んできた気がする。
「まあ、半分くらい今のは冗談だ」
「半分……え、半分も今の話を信じて下さるのですか?」
「うん。異世界転生者、世界中で100人くらい今確認されてるから。パラレルワールド理論も確立されてるから」
意外と居るんだよね〜。と、ケロッと真実を喋った。
「されてるのに私アタオカ扱いで弄られてたんです!?」
「お前ねぇ、今自国の王太子の部屋に不法侵入した現行犯で捕まってんのよ? 弄られるくらい牢屋入るよりマシだろ」
「うぐっ……」
ああ、あと大事な事言っとかんとね。
「魔王だけど、俺が一昨年食ったから大丈夫よ?」
「━━━━━━……もう一度、言ってもらって良いです?」




