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憤怒の黒王  作者: 馬爪奏
2/5

彼女と異世界

僕は恐る恐る、顔を上へ向ける。


「な、なんだこれ、動物?」人のような体に狼の顔。


首を吊るされている。それに二つの刃が体に突き刺さっている。


「下ろしてあげよう」


その声が天井に溶けた瞬間、突き刺さっていた二つの刃が、音もなく崩れ落ちた。




狼の顔をしたそれは、糸が切れるように落ちる。


静寂....


石床の上に何が転がる音がした。

ーーバタツ。


僕はゆっくり視線を落とす。


そこにあったのは、一冊の古びた本だった。


革の装丁はひび割れ、金の装飾は鈍く光る。本の


中央には見たことのない言語、のはずだが、何故か文字が読める。


「.....魔法書?」その本の周囲だけ重力が歪むように重い。


近づくと、ページがひとりでにめくれる。


ページはみるみるめくられていく。


本が最後のページで止まる。


文字が浮かび上がる。血のように赤く、滲んだように、僕の名前を綴った。


ーー適合者、.....確認。


「な、なんなんだこれは、」


「触らないほうが良いよ。なんか気味悪いし。」

井上が言う。


それでも指先は勝手に伸びていく。拾ってはいけない、そう思っているのに。


指に触れたその瞬間、体が裂けるような痛みを感じる。


あ゛あ゛あ゛あ゛いだい゛。


眩い白が、視界を焼くと同時に、すべてを飲み込む闇が現れる。


闇が心臓のように脈打つ。


本のページが中に浮かび、文字がほどけていく。


「うあっ..!」手が熱い。


見れば両手に闇が灯る。



足元から影が伸び、腕に絡みつく。冷たい。でもどこか快適だ。


闇の力が僕の体に溶け合う。胸の奥にもう一つの

核が生まれるような感覚だ。


ページの最後に、文字が浮かぶ。


称号 "憤怒の黒王" を獲得。


僕の、両手からは闇が放たれる。


すぐに闇が刃の形を取る。


僕は洞窟が怖くはなかった。


闇すら、僕の力になった気がした。


「大丈夫なの?...」井上は震えている。


「あぁ、大丈夫だ。僕はとても快適だよ」


「さっきの力は何?」


「僕にもわからない。ただ、内に秘めるものができた気がする。」


「大丈夫ならいいんだけど」


「とらあえずここから出よう。」


「出ようって、どこから出ればいいの?」


目の前には洞窟が続いている。後ろは行き止まりだ。


「まぁ取り敢えず進んでみよう。」僕が言う。


彼女はまだ震えている。


「大丈夫....大丈夫。何があっても僕が守るから。約束だよ。」


井上さんは目から涙を流し、震える声で


「ありがとう...約束だよ。」と言う。


 震えている彼女を守れるのは、きっと今は僕だけだ。


もっと僕を頼ってほしい、そう思った。


僕たちが進んでから少し経った...


そしてぼくは、目の前になにか見えたような気がした。


それから少し歩く。


井上が口を開いた。

「なにあれ」

前を向くとには、果てしなく広がっている地下空間のようなものが見える。奥行は計り知れない。天井に至っては、見える気がしなかった。


「てか、なんで光ってるの?ここは洞窟のはずじゃ」井上が言う。


「た、たしかに」



「とりあえず行ってみよう。人がいるかもしれない」


今までとは、少し違う異様な雰囲気を放っている

空間に足を踏み入れる。


足音があまり響かない程、広大な空間だ。


歩き始めて三十分ほど経過する。


すると突然


目の前に建造物らしきものが現れた。


その家は岩と、いくつかの見慣れない素材でできているようだった。


「こ、これは…村?なのか...」


僕たちは人を求めて真っ直ぐ進む。


村に足を踏み入れた。瞬間、違和感が胸に落ちた。


人の気配があまりにも薄い。そこら辺に干されたままの布。


倒れた桶。半分開いたままの扉。


生活の痕跡だけが残り、底にいるはずの「人」だけが見当たらない。


風が吹き抜ける。乾燥したように苦しい。


「誰か....。誰かいませんか!!」


「誰でもいいんです!」


「誰か」


「ねえ。お兄ちゃん、食べ物...食べ物は持ってない。?」


後方から声が聞こえ、振り向く。


振り向くとそこにいたのは幼い子供だった。


体は細く、顔色もあまり良くない。


今にも倒れてしまいそうだ。


年齢は九歳ほどか。



「ごめんね。持ってないの。それより大人の方はいない?」井上が言った。


幼い子供は目に涙を浮かべて言う


「僕の家に祖父がいます。だけど、体調があまりよくなくて、」


「とりあえず家に案内します。」


僕たちは子供に連れられ、石造りの家についた。


家に足を踏み入れる。


「...旅の者か」


奥から、年老いた男がゆっくり姿を表した。


子供が言う「おじいちゃん大丈夫なの?...体調、あまりよくないんじゃ...」


「あんまり年寄りを舐めんなよ。こんくらい大丈夫だ。」


「ならいいんだけど」


老人は一瞬、こちらを見つめ、それから目を伏せた。


「とりあえず座ってくれ。」


僕たちは石の椅子に腰を下ろす。


「ほらキラ、茶を出してやりなさい」


「はい!」


「私は、ジルという。」


「僕はソウで、こっちがユメカといいます。」

井上は恥ずかしそうに頭を下げる。


「では、話をしよう。」



.....


話によれば、先月この村の長が病に倒れ、まだ若い息子が急遽、その座を継いだという。

だが代替わりによって軍事力は大きく低下した。その隙を探索者たちは見逃すわけがなかった。

彼らは村の畑を占拠した。みるみる食料はなくなり、今やこの村は深刻な食糧危機に陥っているらしい。


「探索者とはなんですか?」

「探索者とはルナアに住むものたちのことだ。彼らはグラドに住むものたちを見下している。今やこのグラドを占領しようとしている。」


「ルナア?グラド?」

「そんなことも知らんのか。常識だぞ。

ルナアとは太陽の灯る地

グラドとはその下の地だ。」


「なぜ、太陽もないのに、外はあんなに明るいんでしょうか?」


「あれはソールという。この村が代々、守り、照らしてきたものだ。ソールは月に一度村の魔法者たちが儀式を行い、魔力を貯める。その力によって今も光り輝いているのだ。」


「...お願いです。どうかこの村を救ってください。あなたからは。強きオーラを感じる。どうか。どうか...」ジルさんが頭を地面につけお願いしてきた。

「わ、わかりました。だけど一つだけお願いがあります。ここに二人で住める家を作ってくれませんか?」 得体の知れないこの地での拠点の確保はとても重要だ。ここの村は悪いところじゃないようだし。

ジルさんは小さく頷き「わかった」いう。


「急になにをいっているの!?」井上が急に口を開き、顔を赤らめながらいう。

「え、嫌だった?ごめん」

「いや全然嫌じゃないけど!」

「ならよかった。」


「ところで畑の場所なんですけど...」



「畑は、村の外れにある。」


「場所は途中までついていこう。」


「いえ、大丈夫です。行き方さえ教えていただければ。体調が心配なので。」


「でも...」


「本当に大丈夫です!」


「じゃあ、あとはお願いします!」


僕達は家から出た。


「お兄ちゃん気をつけてね。」


「おう。帰ってきたら美味しいもんいっぱい食わせてやるかんな。キラ」「うん!」


「じゃあいってくるね」


「お姉ちゃんも気をつけてね!」



ジルとキラに見送られながらここを出発する。


「ここを南だよな。」


「うん」



帰ったら色々聞きたいことがあるな。


探索者って一体どんな魔法を使うんだ。そもそも魔法は使えるのか。まあ考えても無駄だな。

僕たちはそのまま歩いていく。



「そろそろかな」


歩き始めて十五分はたった。


「怖いよ...」井上の手が僕の手に触れる。


「大丈夫。言ったろ、僕が守るって。」 僕は言葉にした途端恥ずかしくなる。


「ごめんちょっとクサかったかも」


「ううん。かっこいい。おかげで安心した。」

「よかった」僕は恥ずかしくなる。


そのまま何気ない一歩を踏み出した途端。井上が


「ゔ。な、なにこれ。体が重い」


「大丈夫か井上。君はここで待ってて。僕一人でいくよ。」


「いや、私も行かせて、柏木くんを一人にさせたくないの」


「いやでも。」


「いいから!」井上さんが声を荒げる。


柏木くんを一人にさせたくないの...


「わかったよ。一緒に戦おう。」


井上さんのあんな表情初めて見る。


心配しているような怒っているような。


その時は突然きた。

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