表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

北海道元アイドル殺人事件〜17時間の殺意の道程〜

作者: K36

初投稿作品です。よろしくお願いします。

あの子が殺されたのには理由があるんです。



そう語り出した彼の言葉を私はまとめていく。

彼は現在、刑務所に収監中だ。

私は取材をする中で彼の手記を手紙の形で受け取ることができた。

これは2025年4月に起きた、あの事件の犯人である彼の一連の動きを取材しまとめた回顧録である。



あの子は普段からJamanzやPOIPOIを欲しがっていて……。僕はそれをあの子に上げるために倒れるまで働いて。それで倒れても、来るDMがPOIPOI乞食で。

だから、だから。

あ、殺そう。

って。


17時間、ですよ。

僕の家からあの子の住んでる北海道まで17時間。

夜行バスに揺られて、トイレもついていないバスで。17時間。


ーーーーーーーーーーーーーーー

0時間目


その日思い立った僕は、夜行バスのチケットを取った。

僕の住んでる街からあの子の住んでる北海道まで8500円の片道チケットだ。

帰りのチケットはいらない。あの子を殺して僕も死のう。そう決めていたから。

最寄駅から夜行バスが出るバスターミナルまで1時間かかる。そこから夜行バスで17時間で北海道だ。夕方に出発して着くのは昼前。すごい時間だな。

あの子のことは好きだけれども、あの子はきっと他の誰かと一緒にいて、僕のことなんて気にも止めてないに違いないから。

もう、殺して終わりにしたかった。

そして、僕は、夜行バスが出る新宿についた。


1時間目


僕は新宿を出た。

その日は生温い風が少し強めに吹いていた。

4列シートの一番左、一番前の列だった。

隣に座っている人と肩が触れ合う距離の中、スマホを取り出してあの子にDMを送る。


今から新宿を出て向かいます。17時間後には会えるね。


内容は落ち着いたものだが、僕の心は落ち着いてなんてなかった。

今からあの子を殺すためだけに北海道に行くのだから。

夜行バスはゆっくりとバスターミナルを離れていく。

散り始めた桜が、舞い散る中を。


2時間目


バスは一定の速度で北に向かう。東北道を直走る。こんなペースで本当につくのかなって思ったけれども、止まることなく、暗くなりかけの高速道路を只管走っていく。

あの子への殺意が走ってきた距離と比例するかのように強くなっていく。殺す、殺す、殺す。この時の僕はどう殺すかなんて考えもしないで、ただバスに乗っていた。

こんなに狭いバスの中でスマホいじるのも緊張する。隣の人もスマホ見てるけどなんかイヤホンから音が漏れてて嫌な感じ。


ふと、気づいたんだ。殺す?殺し方はどうしたらいいんだろう?と。

あの子は元アイドルだ。

ただ殺すといっても、綺麗で可愛いあの子のまま死んでほしい。

僕も一緒に死ぬんだからどうせなら綺麗なままのあの子の隣で死にたい。

あの子からDMは返ってきていない。

北海道に僕が行くんだよ?楽しみだろ。毎日毎月JamanzやPOIPOIを送っていた僕が、会いに行くんだから。

モンスタのDMはたまにしか確認しないって言ってたな。確かにあの子が北海道に行ってからは更新頻度も落ちたしな。

相互フォローの他の男たちとはやり取りしてないって言ってた。

僕だけが、あの子を守れるんだ。


3時間目


バスは走る。ただただ走る。

あと2時間くらいで1回目の休憩があるらしい。そこまで一眠り、とも考えたけれども、とてもじゃないが眠れない。あの子の殺し方も決まらない。DMも返ってこない。何も、何も変わらない。

殺意だけがただ強まっていく。

夜の高速をバスは走る。桜前線が北上していくように。


4時間目


DMが返ってきた!

DMが返ってきたんだ!

あの子から


気をつけてね!お土産何かなぁ?


って返答が来た。

お土産かぁ。特に何も用意してなくて困ったな。あの子の好きな特茶をケースで抱えて行ったら笑いが取れたかな。

だめだ、だめだ。僕はあの子を殺すんだぞ?お土産のことなんて気にしても意味がない。

今はお土産のことより、殺し方を考えなければならない。

隣に座っている奴がトントントントン膝を叩いてる音がうるさすぎて集中できない。

あの子のために殺し方を考えなくてはいけないのに。


5時間目


1回目の休憩。トイレに行かなくて良いように水分は控えていたけど、狭すぎる車内から少しでも解放されたくて外に出た。

大体の乗客が降りてきたみたいだ。まだ熟睡って時間でも無いしトイレはやっぱり行っておきたいもんな。

四月だって言うけど、夜はやっぱりまだ少し肌寒い。あの子のそばにいたら温もり感じられたかな。あと12時間、バスはひたすら北を目指して走る。

桜がSAに咲いていた。満開って言って良いんだろうな。

桜前線北上中。

殺意前線北上中。


6時間目


そろそろ宮城かな?

あの子の殺し方、決めたよ。決まった。

綺麗なまま殺すために溺死にしよう。

北海道ならきっと大きな川もあるだろうし、溺死なら少し苦しんでも綺麗なまま死んでくれるだろうから。

彼女を水際に呼んで、彼女を抱きしめながら一緒に入水自殺すればいいんだ。

死ぬ瞬間、一緒にいれる1番の殺し方を僕は思いついた。

胸のつかえが一つ取れた気がした。スッキリと頭が冴えてきた。

桜の季節に桜が咲く土手がある川で死ねたら綺麗だよな。

眠気も無くなってしまったから、あの子がアイドル時代の動画を見ながら行こう。

隣のおじさんにスマホ覗かれた気がする。なんなんだよ、気持ち悪い。集中しよう。

動いているあの子を目に焼き付けておこう。


ーーーーーーーーーーーーーー

2025年4月10日

北海道大民報より抜粋

この日朝方、東屯田川遊水池を散歩していた主婦が水辺に浮かぶ遺体を発見したと言う記事が書かれている。

ーーーーーーーーーーーーーー


7時間目


可愛い。やっぱり可愛いな。

17時間は長いと思ったけど動画や写真を見てたらあっという間に過ぎていくな。このまま一気に北海道に着きそうなくらい集中してる。

この笑顔が見たくて僕はあの子に沢山尽くしてきたんだ。

最期くらい僕のためだけの笑顔にしてもいいだろ。あの子には綺麗なまま、可愛いまま死んでもらいたい。

僕だけの笑顔を残しながら。

バスはカーテンも降りて車内は静かだ。

ただ隣のおじさんがトントン、トン、トントンと一定のリズムで指を叩いている音だけ響いている。

本当にうるさいオヤジだな。


殺すぞ。


9時間目


一瞬ウトウトしてしまったみたいだ。記憶が少し飛んでいる。

僕はあの子の夢を見た。

あの子がまだアイドルをしていて、僕はあの子に会うためにステージに通っていた時の夢だ。

沢山のオタクの中、あの子は僕にだけ微笑んでくれた。気持ち悪いオタクとは一線を引いた僕のことは、印象的だったに違いない。

他のオタクたちはみんないらないけれど、グループの存続のためにはお金を払う馬鹿たちも必要だからな。


あの子はやっぱりステージが似合う。ステージ衣装を着て踊り歌うあの子を見てるだけで元気が勇気がもらえるんだ。

数分間の微睡の中で僕はあの子に会えた。

あの子と撮ったチェキ、あの子の誕生日イベントの写真。全部僕の宝物だ。

個人的にDMやりとりしてるのも僕くらいじゃないか?本当は返信したらいけないのに、僕にだけ返事をくれたんだ。

あの子が僕の女神なんだ。僕が、僕だけが。

外の様子は分からないけれど、バスは走る。

あの子に会うために、17時間の道程を。

そう言えば隣のオヤジのトントンが消えたな。コレで動画に集中できる。


10時間目


連絡が来た。まだ起きてたんだ。明日会う予定なんだからゆっくり休んでほしいのに。


もう寝るねー。気をつけてきてね。あと会いに行く交通費がないからPOIPOI送っといてくれるかな?10000円でいいよー。


分かったよ。コレが最期の送金になると思うけど、送っておくね。ちゃんと会いにきてもらわないと、殺せないから。

コレで何回目の送金だろう。もう、わからなくなってる。このお金を工面するために、朝から晩まで働いて、僕は倒れて、身体を壊して。

でもいいよ。君のためなら僕は死ぬ気で、いや、本当に死ねるから。

隣のオヤジがこっちに体重をかけてきて邪魔すぎる。いくらなんでも失礼すぎるだろ。

反対側に少し押し込んでしっかりと座らせた。シートベルトの位置がズレてたみたいだな。シートベルトも直しておこう。

あと2時間くらいで2回目の休憩らしいから、少し休んでおこう。


11時間目


眠い。少し、寝よう。



12時間目



13時間目


バスが止まった。最後の休憩かな?

降りたいけれど隣のオヤジが動かないから出られない。

仕方がないけど、本当にムカつくな。

イスに深く座ってるくせに、足を投げ出して。

本当に邪魔だ。あの子は僕だけのものなのに。邪魔だ。邪魔だ。邪魔だ。

カーテンを少し開けて外を見てみた。街灯に照らされてるのは桜…かな?

そう言えば、桜の樹の下には死体が埋まってる、んだったっけな。


14時間目


僕にあの子を殺すことが出来るのだろうか。

こんなに好きで、こんなに追いかけたあの子を。


ーーーーーーーーーーーーーー

2025年4月11日

北海道大民報より抜粋

昨日発見された女性の遺体は損傷がひどく特定に時間がかかる模様。顔を中心に鈍器のようなもので殴られた様子。何十回と殴ったのではないか、と警察の談話が書かれている。

ーーーーーーーーーーーーーー

15時間目


あと少しで北海道に入る。いよいよ、だ。

殺意は時間と共に強まるはずだったのに、今はあの子を救ったと言う気持ちになってしまっている。

殺意が、殺意が、消えていく。

いつしかバスは桜前線を追い越して、北国に踏み入れていたんだ。


16時間目

僕は決めた。

あの子を殺すなんて出来ない。

やっぱりあの子を信じよう。

僕がもう少し頑張れば、働けば、あの子が笑顔になるなら、それでいい。

僕が守らないと。僕なら守れるから。それを証明出来たんだから。

せっかくここまできたんだからあの子に会って帰ろう。

個人撮影会の分のお金はあるから、これで180分、あの子の時間を買おう。今までと同じことを北海道でするだけだから。

そう決めた途端、涙が出てきた。


17時間目


バスが札幌に着いた。


そして、僕は、捕まった。


ーーーーーーーーーーーーーー

2025年4月8日

テレビ北北のニュースより抜粋。

本日東京発札幌着の夜行バス内で男性の遺体が発見されました。状況から隣に座っていた乗客がシートベルトで首を絞めて殺害した模様。その場で緊急逮捕となりました。本人の認否は不明。

ーーーーーーーーーーーーーー


あなたは、なぜ彼を殺したんですか?


私の問いかけに彼はこう答えた。


変態は殺さないと。

あの子のストーカーだったんですよ。アイツは。

僕のスマホに映るあの子を見て、どんな関係だ、とか私の推しだ、とか。騒いでいたので。

それなのに、あの子は殺されてしまった。

僕が捕まって守りきれなかったから。

あの子が殺されたのには理由があるんです。

僕が捕まって守りきれなかったって理由が。

ーーーーーーーーーーーーーー


2026年4月15日

あれから1年が経つ今も、犯人はまだ捕まっていない。


ーーーーーーーーーーーーーー


北海道元アイドル殺人事件

〜17時間の殺意の道程〜

もし良ければ感想や評価、ブックマークよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ