余命一年
1 正月に訪ねて来た古い友人
「よお、久しぶりじゃないか」
正月早々にアポなしで研究室を訪ねて来たのは同期の萩原だった。
「なんだか急に会いたくなってな」
「でも、僕が大学に来ていないかもしれないとは考えなかったのかい?」
萩原は苦笑いをして首を振った。
「必ずいると思った。学生時代からお前はそうだったから」
確かに、僕はいつも大学の図書館にいた。そして、こうして正月から大学の研究室に来ていた。
「少し、痩せたんじゃないか?」
随分前にOB会で会った時は小太りしていた。それが学生時代に戻ったようにほっそりとしてる。
「色々あってな……」
萩原は目をそらした。
訊いてはいけないことを訊いてしまったようだった。
「実は、余命1年なんだ」
唐突に語った萩原の言葉を聞いて、僕は飲みかけていたコーヒーを変なところに飲み込み、むせた。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、それよりどういうことだ」
萩原は、数ヶ月前に血便が出て検査を受けたところ、大腸癌が見つかり、しかもかなり進行していて、医師に余命1年と宣告されたのだという。
「そんな……」
萩原は大学の同期だ。同い年でまだ40代前半だ。なのに、あと1年しか生きられないと聞き、ショックを受けた。
「何もできないうちに、こんな風に中途半端に人生が終わるなんて……」
萩原は泣き出した。
萩原は作家志望だった。そして学生時代、図書館が僕らの根城だった。彼は小説を書き、僕は研究者になるため勉強していた。大半の学生がサークル活動やバイトや恋愛に興じている時期に図書館にこもっていた僕らは互いに大切な友人として認め合っていた。
だが彼の小説は文学賞を落選し続けた。そこで、彼は大学院に進学し、大学の教員をしながら小説を書こうとした。しかし、文学部の大学教員の道はレッドオーシャンだ。なりたい人は多いが、ポストはわずかしか無い。それに大学の研究者は片手間になれるようなものではない。結局、彼は、研究者の道も挫折して大学院を中退し、民間企業に就職した。
僕はそのまま大学に残った。
彼が商材を売る営業マンに転身してからは、めったに会うことは無かった。
彼はやせ細った肩を震わせて泣いていた。まるで子どもに戻ったかのような姿だった。
僕は彼にかける言葉がなかった。そこで黙って小冊子を渡した。
「なんだこれ?」
「僕が翻訳した北欧の民話だ」
萩原は興味を失った顔をした。
僕は言葉を続けた。
「なあ、老いることも、病気になることも、死ぬこともなく、永遠に生きることができたら幸せか? 望むものがすべて手に入ったら幸せか?」
「何を言っている」
「君に訊いているんだ」
「それは何かの嫌味か」
「違う」
彼は少し怒ったような目をした。
「そんなの幸せに決まっているだろ。俺を見ろ、もう40を越えた。だが何も達成していない。そしてまだ40になったばかりなのに死ぬんだ。地位も、金も、妻も、子もない。たった一つの夢も叶わなかった。何も手にしないでこのまま死ぬんだ」
「これを読め」
僕は生来口下手だった。上手く彼を慰めることができなかった。だから、ちょうど研究資料として訳したばかりの民話を渡したのだ。
萩原は訝しげな目で僕を見ながら小冊子の表紙をめくった。
2 『不老不死になった男の話』
ジョンは、仕掛けた罠に金色に輝く鹿がかかっているのを見て、驚きの声を上げた。
「こりゃ、どういうことだ」
猟師としてこの森で生活して何十年になるがこんな獲物は初めてだった。
ジョンはナイフを抜いた。
罠にかかって動けない金の鹿を仕留めて、血抜きして里に運ぶためだ。
「待って下さい」
その時、鹿が喋った。
「お前、話せるのか?」
「私はただの鹿ではありません。この森に宿る精霊神です」
「神様か? だが、神様ならなんで罠にかかって、しかも罠から抜け出ることができない?」
金の鹿は少しプライドが傷ついた目をした。
「肉体に宿って人間界をちょっと見て回りたくなっただけです。そこでこの鹿に宿りました。でも、人間もそうですが、肉体に霊が宿ると、神通力が失われてしまいます。その状態で肉体を殺されると、霊に大きな霊障が生じます。肉体を脱した後も霊に影響が残るのです。ですから、私を殺さず開放して下さい」
虫のいい話だとジョンは思った。この金色の鹿は高く売れる。金色の角にいくらの値が付くか想像もできない。このまま剥製にしても値がつくだろう。
「もちろん無償でとはいいません」
金色の鹿はジョンが考えていることはすべてお見通しのようだった。
「何をしてくれる?」
「あなたの願いを何でも叶えましょう」
「本当か。本当に何でも叶うのか」
「私も神の端くれです。肉体から開放されれば全能ですから、何でもお願いをきいてあげます」
ジョンは頭を回転させた。
金か?
いや、金をたくさんもらっても、使ってしまえば終わりだ。それに急に金持ちになり、金遣いが荒いと、強盗に狙われるかもしれない。官憲から疑われて、泥棒と間違われるか、脱税で牢屋に入れられるかもしれない。
では、毎日金が出てくる宝箱はどうだ?
それも盗まれるかもしれないし、何より自分が病気になったり、死んだらそれで終わりだ。
ジョンの考えは決まった。
そうだ。不老不死だ。それと人生にとって有益なものを得る力だ。健康で老いることも死ぬこともなく、欲しいものを得られれば、永遠に楽しくやれる。
「よし、開放してやる。ただし、これから言う俺の願いを叶えろ」
「よかろう」
「まずは不老不死だ。もちろん病気になったり身体が怪我で欠損することも無しで願いたい」
「分かった」
「まだある」
「不老不死の上にまだ望むのか?」
金の鹿はあきれた顔をした。
「貧乏で、愛されなくて、惨めな人生が永遠に続くのは勘弁してもらいたい。だから、金や地位や愛する人を得ることができるようにして欲しい」
「よかろう、才能と知識に恵まれて成功し、愛する人に囲まれる人生にしてやる」
ジョンは心の中でガッツポーズをした。
罠を外すと、鹿はジョンの顔をじっと見てから森の奥に消えて行った。
「あれ、俺、騙されたかな」
鹿は何も呪文も唱えなければ、言葉もかけずに行ってしまった。
鹿は上手いこと言ってジョンをだましたのかもしれない。
だが、ジョンは貧しい森の木こりと猟師として生きてきた。家族も無く、村の外れで一人で暮らしていた。
気がつけば老年に足を踏み入れ、最近では目が弱くなり、獲物を弓で射ることもままならず罠に頼っていた。木を切るために斧を振れば肩や腰が痛み、すぐに疲れてしまう。
時折、夜中に寒さから目が覚め、狭い部屋の天井を見ると、このまま一人で死ぬのかと思い涙が出てきた。
それが偶然、黄金の鹿が罠にかかった。
普通、鹿が喋ることはない。
鹿はこの世の理を超える何かであることは間違い無いだろう。たとえ鹿が悪魔でも取引は取引だ。不老不死と冨貴になることができる可能性があるのなら、賭けてみるだけの価値はあるとジョンは思った。
賭けに失敗しても、ジョンには失うものは何もなかった。
その晩、急に高熱が出た。
そして3日3晩生死の境を彷徨った。
ジョンは水すら口にすることが出来ず、寝台の上でウンウン唸りのたうちまわった。体中からベトベトした汗のようなものが吹き出し、皮膚が剥がれた。
(あの鹿め。騙したな、開放してやったのに、罠にかかったことを逆恨みして、俺に呪をかけやがったな)
ジョンはこのまま死ぬと思った。
それほどまでに苦しい思いをした。
3日目に熱が下がり、嘘のように体が楽になった。
「なんだこれは?」
寝間着は血やどろどろとしたもので汚れていた。寝台もそうだ。体中がヌメヌメとする。
ジョンは外に出て水浴びをした。体を擦ると分厚い垢のようなものが血糊と一緒に大量に落ちた。
スッキリしたので、服を着たが、服が身に合わない。
「あれ、痩せたのかな」
ジョンは着替えると、村の中心部に向かった。ここ3日間何も食べていない。それに家には何も食べるものは無かったので、とりあえずパンを買いに行ったのだ。
「こんにちは」
いつもの店に入った。
「いらっしゃいませ。どのようなご用事でしょうか」
いつもなら「お前か、ジョン」とぶっきらぼうな言い方をする店主がジョンに対して、丁寧なあらたまった言い方をした。
「ブラウン、俺だよ。どうしたんだ」
「あのう、どなた様でしょうか?」
ジョンはブラウンの態度に戸惑った。ふと店のガラス窓に映る自分の姿を見た。
「どういうことだ!」
ガラス窓に映る自分は別人だった。30歳くらいの凛々しい青年だった。60歳手前のくたびれたおっさんのはずだったのに、違う人間になっていた。
(まさか、あの金の鹿が……)
ジョンは店を飛び出した。
その瞬間馬車に轢かれた。
倒れているジョンの周りを村人が囲んだ。
立ち上がるが無傷だった。
(不老不死で怪我も病気もしないというのは本当に叶ったのか)
それから、ジョンはあっという間に村の人気者になり、また重要人物になった。
例えば、村長の難病で苦しむ長男の病を治せる希少な薬草が生息している場所をジョンは知っていた。そして、薬草を摘んできて村長の長男の病を治した。
大工仕事を手伝うと、これまでに見たことの無いような立派な家が建った。
何をやっても上手くいった。
お金もどんどん入ってきた。
ある日、ジョンは村の役場で開拓団を募集のお知らせを見た。
ジョンは自分の力を試してみたくて、それに応募した。
ジョンは西の果てにある未開拓の土地に移り住んだ。
開拓団に合流すると、ジョンはすぐにそのリーダーに選ばれた。
そして、未開の土地を開拓をして村を作った、やがて村は町になり、町は市になった。
ジョンが開拓する畑は豊作で、山を掘れば貴重な鉱物が出てきて、どんどん開拓地は発展した。
人口も増え、とうとうジョンは知事に選ばれた。
そして、最愛の人であるメリーと結婚した。メリーはジョンにとって理想の女性だった。相思相愛で毎日が楽しかった。夢のように幸福だった。3人の可愛い子どもも生まれた。
街は発展し、ジョンは豊かになり、また街の人から愛され頼られ、素晴らしい家族に恵まれた。
あの金の鹿を助けてから40年目くらいまではジョンの黄金期だった。すべてが上手くいき、幸福そのものだった。これまで人生で望んだすべてを得ることができた。
そんなジョンの人生に影が差してきた。
メリーが老いてきたのだ。メリーは70歳になった。70歳になってもメリーは愛らしく、ジョンにとっては理想の人だった。
ジョンは40年連れ添っても、メリーと出会った時のままの30代前半の肉体だった。病気も怪我もしなかった。老いも死も無縁だった。
メリーが死ぬ時、ジョンはメリーの手を握りしめ「お願いだ。行かないでくれ」と叫んだ。だがメリーは息を引き取った。
子どもたちも同様だ。
いつしか、自分の方が子どもたちよりも若く見えるようになった。
一人、また一人と死んでゆく。
最愛の家族なのに自分だけ置いてゆかれる。
街もそうだ。開拓した街は我が子も同然で、市民はみな開拓の父であり知事であるジョンを慕い尊敬してくれた。
しかし、疫病が流行り、人口の3分の1が亡くなった。
その次は洪水、地震だ。
極めつけは人口が減り、疲弊したこの国の西部のジョンの街に、隣国が攻めてきて、植民地化したことだ。
市民達はみな武器を手にして戦った。男たちの半数は戦死した。
隣国の支配下になっても、ジョンは殺されることも投獄されることもなく、逆に代官として今の地位にいるように要請された。
ジョンの運は尽きることがなかった。
だが、ジョンは何も愛せなくなってきた。
女性を愛しても、その人は僅か数十年で老いて死んでしまう。子どももそうだ。わずか7、80年で死んしまう。
街も国も疫病や自然災害、戦争で変わってゆく。
でも自分だけは変わらない。
得たもの、愛した者をこうして永遠に失い続けなければならないのかとジョンは思った。
何もやる気が起きなかった。その気になれば、素敵な女性に思われ、愛し合えるし、高い地位にもすぐにつけるし、金もいくらでも入ってくる。何でも買える。何でも手に入る。
でも、何でも簡単に手に入り、時間が永遠にあると思うと、何も欲しいものも、やりたいことも無くなった。
一人で森にこもった。
ジョンは自分ほど不幸なものは無いのではないかと思い始めた。
思い切って首を吊った。しかしロープをかけた枝が折れた。
冷たい湖に飛び込んだ。
でも浮いてきてしまう。
崖から飛び降りた。
でも無傷で、すべり台から降りたのと同じ感覚しかない。
手首を切った。
すぐに血は止まり、傷口は元通りになった。
「神様、助けて下さい」
あの鹿と森で出会ってからちょうど1000年が経っていた。
この数百年は、生きていても何も楽しいと思えたことがない。
すると茂みが動いた。
(まさか)
繁みから出てきたのは、あの金の鹿だった。
「我を呼んだか?」
「はい。お願いがあります」
「なんだ」
「私を普通に死ぬ体にしてください。それに失敗したり思うようにならない元の私に戻して下さい」
「病にもなれば、老いて死ぬ身に戻りたいだと? さらに努力しても思うようにならない普通の身になりたいだと?」
「分かったんです。いつか死ぬから、毎日が輝くのだと。めったに夢は叶わないからこそ、夢を追うことや、夢が叶うことが幸せなのだと。生きている一瞬、一瞬が尊いのだと」
「ほう」
「それに、自分だけがよいのは幸せではないと。皆とつながっていて、皆が幸せでないと幸せになれないと。だから元の普通に戻してください」
「戻すと、お前は老人で、残された時間はわずかしか無いぞ。それに何事も思うようにはならないぞ」
「構いません」
ジョンは光に包まれた。
☆ ☆ ☆
その後、近くの村に越してきた独り身の老人は村人の間で話題になった。名もなき貧乏で孤独な老人は、いつも何かに感謝して、ひどく幸せそうな顔をしているのだ。
村人たちもその姿を見るとつられて幸せな気分になる。
いつしか、その老人のそばにはいつも誰かが来ているようになった。
それを嫌がりもせず、その老人は不器用ながらも村人のために働いた。そして数年後、大勢の村人に見守られて息を引き取った。
村人はこんな安らかな死を見たことがなかった。
最後の瞬間、老人は誰かの迎えに応じるように手を天に伸ばそうとして死んだ。その顔は安堵と幸福に満ちていた。
3 新年最初のゼミ
「この民話を読むと君たちの先輩でもある友人のことを思い出す。それは5年前のことだ」
僕は新年最初のゼミで、ゼミ生に萩原の話をした。
女子学生はその話を聞いて目を赤くした。
「というわけだ」
僕は正月に萩原が研究室に来て、僕が北欧民話を渡したところまでを話し終えた。
「僕達はまだ若くて永遠に生きることができるかのように時間を贅沢に使ってますが、そうではなくて常に死を思えという教訓を先生は伝えてくださったのですね」
ゼミ長で何事においても優等生の神埼がしたり顔で言った。
「萩原先輩の御冥福をお祈りしています」
素直な高木愛理が涙声で言った。
学生たちはしんみりとしてしまった。
僕は口下手だ。訥々と話したのでちゃんと伝わっていなかったようだ。
「いや、萩原はまだ生きているよ」
ゼミ生は、「エー」と言う顔をした。
「でも余命1年だったんですよね」
「それで5年経ったんですよね」
「ああ、もしかして、まだ病院で最後の時を待っているということですね」
「うーん。それが……」
口下手な僕は上手く説明できない。そこで、この北欧民話の翻訳本にいつも挟んである萩原からの手紙を朗読した。
拝啓
挨拶は抜きだ。近況を報告する。俺は最初お前から変な本をもらった時、馬鹿にされたかと思った。ガンになって死ぬ俺は無用で、本を渡して追い払おうというつもりだと誤解した。お前だけは友達だと思っていたが、そういう腹ならもういいと思い、俺は、本を掴み研究室を出た。
帰りの電車で手持ちぶさたなので、本を開いてみた。まずタイトルに惹かれた。不老不死。それこそ今の俺と真逆の話だ。試しに読んでゆくうちに引き込まれた。そのせいで、降りる駅を乗り過ごしてしまった。
本を読み終えると俺は、なんだか生まれ変わったような気持ちになった。死にたくない、死にたくない。そう思っていたが、死ぬこと自体は悪いことのように思えなくなっていた。
それよりも、死ぬまでの限りある生を楽しもうと思った。思うようにならないから人生は面白いのだ。サッカーだって相手チームがいなくて、ただゴールにボールを一人で蹴り込み、100対0で勝利しても何の面白味もない。めったにゴールが決まらないから、ワンゴールに熱狂するんだ。面白いのだ。ゴールを目指す過程も楽しいのだ。
そう思った俺は、その日から、毎日を楽しく過ごし、やりたいことをやった。そして毎朝起きるたびに生きていることを感謝した。まだ目が見えること、飯が食えること、今日まで生かされてきたこと全てに感謝しながら、焼き肉を食べ、ラーメンの食べ歩きをして、担当の看護師を口説き恋人にして、二人で温泉旅行にも行った。血便が出て腹が痛くても気にしなかった。辛いものやトマトを食いすぎたと思うようにした。
仕事も辞めた。金のために生きる時間は一秒も無い。不思議に金がなくてもなんとかなった。
そうして半年が経過した。
最近は腹も痛くないし、血便も出ない。ラーメン二郎を食べても吐きもしない。
おかしいなと思い病院に行ったら医師が真っ青になり、右往左往している。そして「萩原さん、再検査です」と言われた。
これまでに無く体調はいいが、これがろうそくが消える最後のゆらめきかなんかで、すぐに死ぬのかと覚悟を決めた。
でも半年だが本当に楽しい毎日を送れた。そのことだけでも感謝だ。
俺は医師に結果を聞いた。
「萩原さん、私達の手違いか、機器の故障かと思い、何度も検査し直し見直しました」
「はい。それで先生、私はいつ死ぬんですか」
先生は渋い顔をした。
「もう何日も持たないってことですか?」
俺は最後に何を食べようかと思った。そして恋人のマナと最後のデートはどこにゆき、彼女にどう感謝の気持ちを伝えようかと考えていた。
「消えました」
「はい?!」
「萩原さんのガンが消えたんです」
「えっ?」
「こんなことはめったにありません。まあ、もともと健康な人でも毎日がん細胞になる元は生まれて、それを体が処理しているので、自然になくなることもありえないことではないのですが、それにしても……」
「先生、じゃあ、治ったってことですか」
「はい」
そういう次第だ。
思いがけず命を拾ってしまった。
だが、俺は無職で、貯金も使い果たした(笑い)。
さて、これからどうやって生きてゆくか楽しみだ。
きっかけを作ってくれたお前には感謝している。
萩原
「治ったんですか?」
「じゃあ、まだ生きている?」
「ああ、ピンピンしている」
「今、何をしているんですか」
「それが、彼は十代から作家になることが夢だと言っていたろう。その作家になった。しかもベストセラー作家で、最近はユーチューバーとしても活躍している」
「どうしてそうなっちゃったんですか」
「治った後、仕事がないので実家に引きこもり、ガンからの奇跡の生還をドキュメンタリータッチで書いて、ヒューマン文学賞に応募したら受賞して、その後、癌サバイバーとしての講演の依頼が殺到したそうなんだ。それを機に、いろいろ本を出したら、どれもベストセラーになったっていうことだよ」
学生たちは唖然としていた。
「まあ、人生は何が起きるか分からない。僕が新年に伝えたいことはそれだけだ」
僕は教室から出ると、研究室に戻った。
今日は久しぶりに外食だ。
萩原がご馳走してくれる。綺麗な新しい彼女も連れて来るそうだ。
まったく羨ましい限りだ。
【作者からのお願い】
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