洞窟に潜む魔物?
人を石に変える。 そんな力を持つ女が居る。 やれ怪物退治だとか、薬の原料になるだとか妙な噂を広げられたおかげか彼女の周りには石化した人間たちの姿があった。
「しっかし、増えたのぉ……。 人間と言うやつは何処まで馬鹿なのか……はぁ、邪魔だのぉ〜、部屋が狭くなる……かと言って戻せば首を取りにかかってくるし……砕いちゃったら、それこそ悪い奴だしのぉ……捨てるに捨てられないなぁ……」
親戚から貰った木彫りの像を捨てられないかのように文句を口にして、石像の前に立つ。
「う〜ん。 身長は良い感じ」
剣を振りかざす甲冑姿の男。その兜を外して素顔を晒してみるが、どいつもこいつもキュウリの酢漬けみたいな表情で固まっている。 元の造形がどうであれ、醜い面していやがる。
「……う〜む。 蛙化現象待ったなしじゃのぉ……せめて恋人でも引き取りに来てくれればすぐに返品するんだけど……最近じゃ魔女狩りだの物騒だしなぁ〜」
「……こいつは中々骨のある奴だった。 手強かったなぁ……。 ……コイツもピクルス顔か……石化ってそんなに辛いのか? しかもメデューサ、メデューサってそれ祖母の名前だし。 なんで最近になってこうも人間がわざわざ大挙して押し寄せるのか……家出した姉上が見境なく暴れてるんかなぁ……?」
母親を人間に殺された事もあるが、この女は怒りも感じていない。姉上とは真逆の性格なのである。
「石化させた男の金品盗んで好きに散財してたし、仕方無いと思うんだけど……人間に殺された! って姉上殿は烈火の如くブチギレ晒してたし……ヤダな〜。 引っ越そうかなぁ……でも」
洞窟の外を眺めると白銀の世界が広がっており、一面の雪景色が遠くの山脈まで続く。
「外寒いし……出掛けるのメンドクサいなぁ……うぅ寒い……」
青みがかった白銀の髪に、黄金色の瞳。 透き通るほどの白い肌。 人と変わらない2本の脚。 瞳の形が四角いくらいしか人との違いは無い。
「幸い、食事には困らないから助かっておるが……」
人間の荷物の石化を解くと、美味しいパンと干し肉がいつでも食べられる。 少なくとも数年は狩猟に出なくとも引き込もれる程だ。睨むだけで鹿を確実に仕留められるが、血を見るのは苦手だ。 首だけ石化を解除して断頭するのもできればやりたくない。
「……こうやって入り口から見ると尚の事禍々しい」
奥の居住スペースから溢れた石像を入り口に横倒しで並べているのには理由がある。 取り扱いに注意しなければ簡単に倒れてしまい、砕けてしまうのだ。人殺しも趣味じゃない。
そういう背景を知らない人からすれば、戦士たちの死体の山の様にも見えなくは無い。 そうにしか見えない。
「奥に怪物が住んでるレイアウトですやん……ん?」
動物の気配が空に漂っている。 その方向へと目を向けると手紙をくくりつけたカラスが足元に着地した。
「お、お手紙かい? 寒いのに偉いねぇ……。 よしよし」
日焼けした封筒。 調味料の染みがついているのを見るにガサツな姉上からの手紙だ。
「……したためてしばらく放置してたな。 さては。 さて、なになに」
親愛なるメドーサへ
最近魔王軍なる組織に加入しました。
何年か帰れないと思うので、さみしいからって泣かないでね!
「……就職したんか。 やるねぇ。 しっかしいつの手紙なんだろ……表紙と背中の色が違う。 はぁ……今日も平穏だ。 しかし姉上がOLとはのぉ……同僚石化させてないと良いけれども……まぁ姉上も良い大人、責任は……大丈夫かなぁ……まぁ良いか……いつの手紙だこれ……ん〜カレンダー無いからわかんないな。 そうじゃ、昨日石化させた人間に聴いてみよ」
つづく