力
「なんだ!」
上空と船首から爆発音がした。
「はーい、いっちょ上がりっと。あいつやべえな。あと一秒遅かったら爆発に巻き込まれてたぜ」
「やっぱあの子すごいわねえ」
「まあ、お仲間かばって死んだっぽいけどな」
「アサカ・・?アサカ!」
アサカは己の背後の手榴弾ではなく、ハセルたちに投げ込まれた手榴弾をとばしていた。
「くそおっ!邪魔なんだよ!」
ハセルが叫びながら敵をなぎ倒していく。
「あいつが死んだんなら俺らも参加すっか」
自分たちを囲っていた何かたちをボートに向かわせ、ニーカは海水を操り、ジルは空中から残りの手榴弾をばらまこうとした。
「ぐあぁ!」
「誰が死んだって?」
ジルはボートの上で刺された。
「お前、生きて・・・」
「あんたらの馬鹿みたいにばらまいた人型のあれのおかげでなんとかなったよ」
アサカは何か達を盾にして爆発から身を守っていた。
「ジル!・・くそ!早く戻ってあたしを守りなさい!」
ニーカが大声を上げて何か達に命令する。
けれどそんなもの意味をなさない。
「遅い」
ニーカは声を出す間もなく切り刻まれた。
ジルがその場に倒れ込む。
「お前の急所は外した。聞きたいことは山ほどあるが・・・ちいっ」
またしても首裏の文様が光った。
「今度は電気か。海の上ってことを考慮したってわけね」
ジルとニーカが死んですぐ、何か達は動きを止めた。
「なんだ・・?」
ハセルが突然止まった何か達に困惑の表情を浮かべる。
「おそらくこの二人の指示の下でしかこいつらは機能しないんだろう」
アサカがわき腹を抑えながらハセルたち三人の元へ合流した。
「アサカさん、その傷・・!すぐに手当てします」
「その前に、この船から出るぞ。爆発の影響でもう長く持たない。このままだと沈む」
「しかし、一体どこへ・・」
「あるだろ。丁度いいやつが」
アサカは真っ直ぐ前を見た。
「まさか敵の乗ってきた潜水艦に避難する気ですか」
「そのまさかだけど」
「しかし、まだ敵が乗っているかも・・」
「手練れなら必ず潜水艦から出てきているはずだ。乗っていたとしてもせいぜい操縦士くらいだろう。ちんたらはしていられない。行くぞ」
四人は潜水艦に乗り移った。
「このまま前方へ進んでくれ」
「は、はい!」
案の定乗っているのは操縦士だけだった。
「なあアサカ、あれって人なのか」
賀谷による治療を受けている最中のアサカにハセルが尋ねた。
「さあ、わからない。ただ、考えられるとしたら、精神を操る類の能力者の仕業だろう。人であるかは不明だが、人に近い何かであることは間違いない」
ハセルは苦しそうな顔をした。
優しい青年である。
「人間、なんだとしたらさ、たくさん死んだよな。今も海の中で苦しんでんのかな」
「・・・かもな」
それでも以前のように取り乱さないのは、自分の立場を理解したから、なのだろうか。
人の命の優先順位は、その人間次第で変わってくる。
「アサカは大丈夫なのか、怪我」
「ああ、大したことない」
「大した事です。ったく無茶して」
「はは、ごめんごめん」
アサカは右手で後頭部を掻いた。
随分と威厳のない奴だとハセルは思う。
(俺は、こいつに助けられてばかりだ)
実力は確かで国にも信頼されている目の前の男は、如何せん己の優先順位が低い。
「ハセル、あと数時間で参皿美廼船に追いつく。お前はそれまで体を休めていろ」
「それはあんたの方だ」
アサカの指示にハセルは悪態をつきつつも従った。
「乗り移れそうっすね」
日も暮れた夜、海面に上昇した潜水艦の蓋から四人は顔を出した。
「ハセル俺を持って飛び移れるか?」
余裕かと聞かれれば、余裕ではない高さだ。
「当たり前だ」
しかし、やるしかない。
ハセルはアサカを抱えた。爆発で負った左わき腹を刺激しないように。
「飛び移ったら二人は俺がとばす」
「ういっす!」
「わかりました」
「お前のタイミングでいい。落ち着いたらいけ」
きっとこの男はわかっている。これが賭けなことが。ぎりぎり届くか届かないか。
ハセルは勢いよく飛んだ。
「ぐっ」
届くか・・・
いや、まずい。
「ハセル!俺を蹴飛ばせ!」
「何言って・・」
「いいから、俺を船に届くように蹴れ」
「・・・」
アサカの意図を汲み取ったハセルだが、怪我をしているアサカを蹴るのは酷く忍びなかった。
それでもこれしか方法がない。
ハセルはなるべく衝撃を与えないように蹴り上げた。
「がはっ」
わき腹からだらだらと血が垂れている。着地と同時に傷口が開いたようだった。
「おい!大丈夫か」
「平気だ。それより上着貨してくれ、血が目立つと厄介だ」
「あ、ああ」
ハセルの上着を羽織ったアサカは潜水艦の方を見た。
一人は心配そうな顔を、一人はまるで母親のような怒った顔をしていた。
「あちゃー」
取り敢えず二人を船の上にとばした。
「ったくあなたって人は」
「説教なら後で聞くから。今は夢佐木等ウララを見つけることが先でしょ?」
なんとか賀谷の怒りを収める。
と言っても本当に時間がないのである。
あと、二時間足らずで国境を超える。
「手分けして探すぞ」
四人はそれぞれに散らばった。
用意していた無線で連絡を取り合うが、一向に見つからない。
極秘であるため、公にはできない。
「ルームサービスです」
「頼んでませんが?」
「ああ、し、失礼しましたっす!い、いや失礼しました」
白杉は従業員に成りすまして一部屋一部屋確認するが見つからない。
(切りがないっす!)
ハセルはとにかく走り回っていた。すれ違う人間の顔を凝視しては怪訝そうな目を向けられる。
(ちいっ、見つからねえ)
各々、やれるだけのことはやった。
それでも見つからない
時は刻一刻と迫っている。
(・・・!あれは)
白杉は走り出した。
背丈、骨格、髪型、全てがドンピシャだ。
(あとは顔さえ見えれば)
「あの・・」
女性の肩に手をかけようとしたその瞬間、
『タイムアップだ』
無線から無慈悲にもそんな声が聞こえた。