襲撃2
「やっと見つけた」
「誰だ!」
二十代半ばの女。ショートカットで無駄に化粧が濃い。
「お前は私と一緒に来るんだよ。ったく、面倒かけやがって」
「お前、まさか・・・!」
女は鎖鎌のようなものを頭上で振り回した直後、ハセルに目掛け伸ばした。
(やばい!とにかく逃げないと)
ハセルは咄嗟に後ろに跳んだ。
「うわぁぁぁああ」
慌てて曖昧なコントロールに拍車がかかったのは言うまでもない。
猛スピードで空中を彷徨っているときにふと考えた。
(これ俺どうやって着地すりゃいいんだ)
下は木ばかりで着地する場所はない。それにさっきまでの上にだけただひたすら跳ぶのとは違う。
【基本的に心力の宿っているお前の脚は他の人間より頑丈だ。だから怖がらず跳べばいい】
(・・・!)
ハセルは態勢を変え、足元から森に突っ込んだ。
「おらあぁぁぁ!」
バサッ、ドサッ。
「ぐっ、うう・・」
ハセルは地面に転がっていた。体中の痛みと、右腕からの出血で数秒悶えていたからだ。
とは言ってもちんたらはできない。こんな命がけのことを二回もやったら本当に死んでしまう。
(とにかく走るしかねえ)
実際のところアサカと合流したかったのだが、真逆にぶっ飛んでしまったハセルには到底無理な話であった。
(ああ、くっそ!あいつが送ってきた女だ。手練れに決まってる)
プランもない、体も思ったように動かない。ただ今は痛みに耐えて走ることしかできなかった。
「よくやった」
聞こえてきたのはここにいるはずのない声。
「なんで、あんたが・・?」
「お前ならやれると信じてたよ」
「アサカ、お前」
意味が分からない、というハセルの表情を見て、アサカは笑った。
「説明は後で。来るよ」
地面を踏み鳴らす音が聞こえた後、現れた先ほどの女。
「手間かけさせやがって」
ハセルには、アサカにも目の前の女にも疑念があった。
なぜ、自分の居場所分かったのか。
ハセルは落下地点から北東に走っていた。簡単に待ち伏せもされなければ、追跡もできないはずなのだ。
「へえ、鎖鎌か」
口を開いたのはアサカだった。
「お前は、そいつのお守りか」
「簡単に言うとそうだね」
「そいつはうちのもんだ。大人しく引き渡せ」
「それはできない相談だ。こっちも上からの支持で動いている。返してほしいなら俺じゃなく上に言ってくれ」
「そんじゃあまあ、力づくと行きますか」
女はそう言って今度はアサカに向けて鎖鎌を振るった。
(森の中でここまで正確にコントロールできるのか)
ハセルは驚いた。しかしアサカが一歩後ろに下がったことで鎌はわずかに届かない。
紙一重、だが確実に避けたはずなのだ。
なのに、
(かすってる!)
アサカの左頬には切られたような痕があった。
「これは驚いた。君の能力か」
「そうだ」
女は勝ち誇った笑みを見せた。
「アサカ、あいつの鎌伸びてるぞ」
ハセルの言葉にアサカはほんの少し目を細めた。
「死ね!」
またしても攻撃がくる。アサカは今度は後ろにではなく下に避けた。
(うまい!これなら長さは関係ねえ)
「ふっ」
「っ・・!」
気づけば鎌はアサカの真横にあった。
咄嗟に後ろに仰け反って何とかかわす。
「どういうことだよ!」
攻撃は止まない。
(こんなの、どうすりゃ・・)
アサカは腰に差していた刀を引き抜くと鎌を弾いた。
「お前、なかなかやるな。二手目で殺せるはずだったんだがな」
訳が分からない、という顔をしたハセルとは違い、アサカの顔はやけに涼しい。
「なるほど。ハセル、あれは鎌が伸びていたんじゃない」
「じゃあなんなんだ!」
「幻影だ」
「幻影?」
「そうだ。俺に幻影を見せ、攻撃を躱したと錯覚させた。といってもほんの数秒、鎌程度の大きさの物しか見せることはできないっぽいけどね」
「ほお、これは驚きだ。あたしの能力をこんなに早く見破るなんてな」
どちらにしろ、近距離戦に持ち込まなければこちらに不利であることは明白だった。
(そう簡単に行くわけがねえ)
「俺が奴の注意を引き付けて―」
ハセルの言葉は途中で遮られた。
「悪いが身柄を拘束させてもらう」
「やれるもんならやってみろ!」
女はアサカの言葉に気分を害したらしい。鎖鎌をぶん回した。