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馳せる  作者: 南田あさひ
2/15

生意気な子供2

 帰り道、沈黙を破ったのはアサカであった。

 

 「ハセル?だっけ。お前の心力はなんだ」


 尋ねると少し迷って彼は答えた。


 「・・バネ」

 「へー、いい能力だな。で、どれくらい跳べるの?」


 今度は驚いたような顔をした。


 「知らない、けど」


 (知らない?)


 アサカは言葉の意味を吟味する。


 「知らないっていうか、わからないって感じか」

 「うるせーよ」


 ハセルは少し戸惑い、拳を握りしめて俯いた。


 「別に悪いことじゃない、明日にでも確かめよう」


 (にしてもさっきから随分と静か、というか・・・)


 アサカは戸惑っていた。


 「あんたはどうなんだ」

 「なにが?」


 初めて話しかけられたことと言葉の意味に、アサカは三秒の間に二度も困惑させられることになる。

 「心力だよ。俺の監視についたってことはそれなりに強いんだろ。なんだクマにでもなれんのか、それともゴリラか・・・いやわかったゾウだ!」


 (なるほど。静かだったのはこれを考えていたからか)


 子供というのは良くも悪くも一直線だ。そこに迷いも穢れもない。


 「それはまた今度だ。それより着いたよ」


 入ったのは何の変哲もないマンションの一室。だが割といいマンションなのだろう。一人部屋にしては広い。


 「必要なものは追々買い揃えよう。取り敢えず食事ね、何が食べたい?」

 「俺は要らねえよ」

 「そういうわけにもいかない。お前を飢えさせでもしたら大変だ」

 「そんなこともねえだろ。生まれてこの方、俺を必要とする人間なんていねえ」


 過去のトラウマか、いやきっとこれがハセルにとっての当たり前だ。


 (だけども、必要とはされたいってか)


 アサカは何度目かのため息を吐いた。


 「お前は現状、危険人物二歩手前でもあり、保護対象でもある。俺たちはお前の情報が何であれ知りたいと思う。これはお前を必要としていることになるか」

 「んなの、俺じゃなくて俺の情報を必要としてるってことだろ!俺自身じゃねーよ」

 「・・・そうか。それなら俺が必要とされているのも俺ではなく俺の能力だ」

 「っ恋人とか、親とか、仲間とかいんだろ」

 「ならそれも同じだ。俺の顔やら内面やらを見て俺の側にいる、俺自身じゃない。それから親はいない」

 「そんなの屁理屈だ!」

 「筋は通ってるだろ。逆に言えば、顔も中身も情報も、自分自身の一部ってことだ」


 考え方は様々だ。何を基準にするかは人それぞれだが、アサカとしてはハセルの考え方は気に食わない。


 「一人で不幸全部抱え込んだみたいな顔してんなよ。お前の過去がどうであれ、そこから目を背けて逃げるんなら、逃げ切れるだけの力をつけろ。逃げた先が奈落の底なんて落ちはごめんだろ」


 過去は変えられない、なかったことにもできない。過去を糧に生きるか、目を背けるか。


 「はい!夜ごはんにしよっか。何食べたい?」


 パチンッとアサカは手を叩いて言った。

 さっきの怖いくらいの迫力と、やけに頭に響いた言葉は何だったのかというくらいに、纏う雰囲気を変えたアサカに、ハセルはたじろぐ。


 「・・・肉」


 その日の夕食はステーキになった。ちなみに出前だ。


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