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ありがとうが言えなくて

作者: 岡村

災害級の暑さとはよく言ったものだ。

暑い。

というか痛い。

ピリピリする。

右手で左腕に触れる。

しっとりしている。

カントリーマアムくらいしっとりしている。

いや、私は嘘をついた。

カントリーマアムどころじゃない。

こりゃどん兵衛だ。どん兵衛のお揚げさんだ。

だしも吸ってないのにこのザマだ。

いや、このサマーだ。


私は朦朧としていた。

センス溢れるダジャレが飛び出してしまうのも無理からぬこと。

こりゃダメかもしれない。


大丈夫ですか?


誰かの声。


あ、私・・・ですか?


はい、顔色が良くないようでしたので、大丈夫かなと。


地獄に仏。

正直今の私は相当やばい。


あの、見ず知らずの方に大変申し訳ないのですが、

かなりキツくて・・・

お金は後ほどお支払いしますので、お水を買って来ていただけないでしょうか・・・?


背に腹は変えられない。

不躾なお願いであることは重々承知だが私は見知らぬ若い女性に水の調達をお願いした。


あ、ちょうど今水持ってるので、よければどうぞ。


地獄に仏。

彼女が取り出したペットボトル。

そのラベルには、白いローブを着たヒゲのおじさん。

天に向かって指を立て、後光が差していた。


あの、この水は・・・?


大丈夫です。


大丈夫なんですか・・・?


大丈夫です。

ご祈祷いただいた本物です。


仏じゃなかった。

なんか変な神様だった。


あの、大切なもののようですので、別の水をお願いしても良いでしょうか・・・?私は市販の、あの、ただの水で大丈夫ですので・・・


そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!

命がかかってるんですよ!


怒られた。

腹式で怒られた。


気にしないで飲んでください!

パワーとかも入ってるんで!


いや、あの出来ればパワー抜きで・・・

今弱ってるのでちょっと重いかななんて・・・


じゃあこっちのコーヒーっぽい色のやつ飲みます?


コーヒーでは無いんですか?


コーヒーっぽい色をしてます。


ラベルなんて書いてます?


ダークネス・ヘブン


水でお願いします。

パワー入りでもいいです。


割ってみます?ヘブン割り。


割らなくていいです。

水でお願います。


じゃあ水どうぞ。


すみません、いただきます。


パワー入りの水を流し込んだ。

常温

ものすごく常温。

そんなことはどうでもいい。

500mlの水を一息に飲み干した。


どうですか・・・?


はい、だいぶ落ち着きました。

ご親切にありが・・・


あの、そうじゃなくて、

パワー的なものとか感じました?

なんか味が変とか・・・


いえ、普通の水に感じたんですが・・・


よかった!

さっき駅前で配ってたんですけど、デザインがきもいし説明がなんか怪しいしで飲むかどうか迷ってたんですよ!

捨てるのも勿体無いからどうしようかなと。

結果的に人助けできてよかったです!


会釈して風のように去っていった。


なんだろうか。

私は間違いなく彼女に助けられた。

助けられたのだが、この胸に残る澱はどう処理すればよいだろう。

私の選択は正しかったのだろうか。


ひとまず助かったことを喜びつつ、不安を拭うように近くの自販機へと駆け寄った。

毒も極限まで薄めれば水である。

いや疑うわけではないが少なくとも不安は拭っておきたい。薄めておきたい。パワーを。


新商品と思しきコーヒー飲料が目に飛び込む。

ダークネス・ヘブン


こっちが正解だったか・・・。

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