仕事帰りのサラリーマン
彼女は何から逃げようとしているのか。
街灯が点々と灯るいつもの帰路。
今日も残業。終電一つ前での帰宅だ。もう妻と子供は眠ってしまっているだろう。
駅から俺の家までは徒歩十分。ああ、早く帰ってビールが飲みたい。疲れてはいるが、自然と早足になる。
五十メートルほど前を女性が歩いていた。彼女も残業か、それとも合コンで遅くなったのだろうか。
コツコツとヒールがたてるリズミカルな足音があたりに響いている。
しばらくして、彼女が後ろを振り返った。ちょうど街灯の間だから暗くてよく見えないが、何度かこちらを見返しているようだ。
そして次の瞬間、彼女は突然タッタッと走り出した。全力で逃げていく。
あーあ。俺、完全に不審者と思われたな。
最近この辺で、通り魔に襲われて服を切られたっていう事件があったと聞いた。
仕方ないけど、なんか凹む。
少しだけ歩くスピードを落とす。
突然動きを変えたり、立ち止まったりとかすると余計怪しくなる。気付かれない程度に歩幅を小さくして距離を取る。
彼女が十字路を曲がった。彼女の白いスニーカーが塀の向こうへと見えなくなる。
…良かった。
俺はあそこを直進するから、これで不審者と思われる事もないだろ。
コツコツコツ…
あれ?…足音がまだ聞こえてくる。
しかも俺のすぐ真後ろから…。