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神童ですから!

素人でも玄人でも冒険には必需品がある。武器?魔導書?もしくは知識や勇気?確かにそれ等は必要だ。でも待って欲しい。まだ足りない物があるだろう?傷を癒し、時にもう一つの武器となる薬。エリクサーとポーションだ。

これはその二つの薬を作る少女の冒険譚

「本当に作ってもらえるのだろうか…たったこれだけの素材で…」

駆け出し冒険者の青年リクは、目の前にある店の看板を見て悩む。

ファルナ帝国の繁華街の裏路地、そこに怪しげな店が一件。


「どんな素材でも持ち込み可能。お望みのエリクサー及びポーションを作ります。お値段均一で2000ミル…って怪しさ凄いな。そんなに凄い技術なら、わざわざ路地裏に店を構えてるのも変だし」


正直これが本当なら今すぐにでも作ってほしいものだが、この手の店は低価格を謳い、粗悪品をわざと作り、イチャモンをつけて法外な値段を請求してくる、そんなイメージがあるのだ。しばらくうろついていると、店の扉が開いた。出てきたのはリクより年下に見える、長い茶髪の女の子だった。


「おお、おおお!久しぶりのお客様!どうぞ入って入って!用があるから来たんでしょう!?そうでしょう!?」

リクは店の中に引きずり込まれた。


「さぁさぁ!持ってきた素材をお見せ下さい!決して手抜きの作業はしませんので!早く早く!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!君がこの店の店主?僕より年下じゃないか!本当にエリクサーとか作れるの!?」

「おっとお客様?こんなちんちくりんな女の子だと不安ですか?いやーその気持ちはよく分かります!ですが御安心を!私、巷では神童と言われていますので!」


その子はドヤ顔を決めつつ、そう言って胸を張る。そしてリクが集めた素材を吟味し始めた。

確かにこの子が店主だとしたら天才かもしれない。

見た目は子供頭脳は大人みたいな感じなんだろう。

まあ、中身までそうなのかわからないが。


「ふむふむ、薬草が少々にサソリの毒尾、そしてイノシシの牙ですか…はっはっはー!余裕すぎて笑えてきますね!ちなみにエリクサーにしますか?ポーションにしますか?どっちもお手の物ですよー!」

「えっと…じゃあ回復薬の方を頼めますか?」

「了解です!ご注文入りましたー!エリクサー一本です!と言ってもこの店私しかいないんですけどね!」


女の子は笑い声を上げながら調薬を始めた。神童とかなんとか言っていたが、不安要素しかない。しかし、その手際を見ていると実にスムーズだ。この不安は杞憂に終わるかもしれない。リクはその様子を見ていることにした。

「あ、待ってる間暇だと思いますし話しかけてもいいですよ?この程度の調薬なんて半分寝てても出来ますし!」

確かに聞きたいことはたくさんある。そもそもまだ自己紹介すらしていない。

「今更だけど、僕はリク。まだまだ駆け出しの冒険者。君というかこの店のこと、最初は怪しいって思ってしまって申し訳ないよ。君、相当な実力者なんだね」

「そりゃ当然です!私はユーカ、人呼んで神童のユーカ!14歳です!」

再びドヤ顔を決めるユーカ。


「ちなみにさ、エリクサーとポーションって何が違うの?僕、魔法の知識にはまだまだ疎くって…」

「簡単に説明するとエリクサーは回復用の薬で、ポーションは攻撃と防御に使う薬ですね〜でもリクさんって見た感じ剣士ですよね?使う機会なんて天地逆転しても来ないと思いますよ?ポーションは魔力を使って起動する薬ですし」


さりげなくバカにされた気がしたが魔法の才能が無いことは事実。グッと堪える。無駄話をしつつもユーカは手を止めず、テキパキとサソリの毒を抽出し、イノシシの牙を煮込んでいた。


「サソリの毒は一定の割合で薬品と割れば、猛毒から麻酔、麻酔から回復薬に変化します。イノシシのエキスは活力の回復に効果があるのでこの2つだけで怪我と疲労に効果のあるエリクサーが出来るって寸法です!あとは薬草を混ぜて魔力を注げば…」


素材を入れた鍋が白く光り出す。ユーカは驚くリクをニヤつきながら見ていた。まるで私を褒めたたえなさいと言いたげな顔で。


「完成!無難なエリクサーです!はぁーこんな仕事じゃ張り合い無いですねぇ…」

「いやいや!めっちゃドヤ顔で僕の事見てましたよね!しかも結構ウザい顔で!」


一度平手打ちでもしてしまおうか、とすら思わせる顔だが、その完成度は非の打ち所がない。あの少ない素材で出来る最高峰のエリクサー。ユーカは本物の神童と呼ぶに相応しい調薬師だった。しかしリクは一つの疑問を抱いた。こんな技術を持っていて、何故こんな路地裏に店を構えたのか。


「あーそんな事ですか。単純に言えば私、まだまだ子供じゃないですか。だから商売をしようとしてもこんな誰も来ない様な路地裏に押しやられるんです。ガキの作った薬なんて信用できるか!ですって。酷い話だと思いません?」

「えっ、じゃあ巷で神童って言われてるのは…」

「だってこの歳でこんなに凄い調薬が出来るんですよ!?誰が見たって神童って呼びますよ!はっはっはー!」


…それはもはや自称神童と呼ぶべきだろう。しかし彼女の言ほう通りだ。14歳でこの技術力は確かに神童と呼べる。それはまさしく埋もれた才能だ。国民や冒険者への不満を露骨に顔に出しながらユーカはエリクサーを瓶に注ぐ。


「それじゃリクさん、お支払いなんですけど…まあこの国で売る最後のエリクサーなんで値下げしときますね!お値段たったの1000ミルぽっきり!」

「あ、ありがとう…って最後ってどういうこと?」

「こんなにシケた所で店を続けても私の才能が無駄になるだけですので!これからは世界各国を旅する調薬師になるんです!そうすれば自ずと名声が広まって…街を歩けば弟子入りを志願され、冒険者にはエリクサーを売ってくれと人集りが出来て…は〜人生薔薇色って訳です!」


あまりにも世俗的で所々下衆な考えが見えるが、ここで目立たずに店を続けるよりはマシだろう。ユーカのエリクサーが広まれば、まだ見ぬダンジョンも魔物も制覇出来るはずだ。

それにこの国に流通しない素材だってある。それを集めれば集めるほど、才能の有効活用が出来るというものだ。ユーカにはまだまだ成長の余地がある。自分を高める為に動く行動力もある。

リクは見習わなければいけないと悟った。この子はなりたい自分が見えている、それを追いかけている。なんとなくじゃダメなんだ。


「ユーカちゃん、僕も君みたいに頑張るよ。立派な

冒険者になってみせる。その時は常連になってもいいかな?」

「お得意様になってくれるんですか!?これはもう将来安泰です!たっくさんいい素材取ってきてくださいね!期待してますから!」


店を出た時には夕方になっていた。リクはエリクサーの入った瓶をポーチに入れ、帰宅する。帰ったら剣の鍛錬をしよう。やる気が満ち溢れていた。


次の日、ユーカは旅の身支度をしていた。

「薬草関連はこの袋に入れて…動物の素材はこっち、魔物や魔法石はこっちに入れてっと。ふふふ…神童ユーカの名前を世界に轟かせる計画!その名も『色んな国を渡り歩いてエリクサー売っちゃうぞ作戦』!いや〜私ったら天才過ぎて自分で自分が怖いくらいです!」

身支度を終えたユーカは早速身体強化のエリクサーを飲んだ。


「さあ!偉大なる神童ユーカの輝かしい未来の第一歩!踏み出しました〜!まずは100km先の冒険者の集う国、バレントスに行きましょう!」

こうして、ユーカの冒険が始まったのであった。


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