エントリーNo.1『安慈衛 理依奈』
親ガチャSSRの中二男子が、残念過ぎる美女たちの求婚を断っていくラブコメです。
突然だけど、僕の愚痴を少し聞いてはもらえないだろうか?
僕の名前は『別府 ジョニー』。そう、何を隠そう、あのスティーブン・スピルバーグの再来と言われた超天才映画監督、『別府 城ノ介』を父親に持ち、そして、オードリー・ヘプバーンの遠縁である超有名ハリウッド女優、『ジェニー・ヘプバーン』を母に持つだけの、ごくごく普通の一般的なただのハーフの中学二年生である。
当然、親は滅茶苦茶お金持ち。どのくらいの規模かと言うと、海外も含めて別荘は八つ所有し、飼ってる犬は十七頭、雇っているメイドは五十一人で、今住んでいる東京の家の庭は、校庭の三倍は広い。
しかし、僕はいわゆる親ガチャという物に大成功した、ただそれだけの人間なのだ。幼少期は親の仕事の都合でハリウッドで暮らしていたから、それなりに英語も話せる。家庭教師も幼稚園の頃からハーバード卒やケンブリッジ卒の超エリートが七人付いていたので、勉強でさほど苦労したこともない。コツを掴めば案外簡単な物で、日本語だって、中学の時に引っ越してから、一週間でマスターすることができた。運動だって、母の友達で僕とも仲良くしてくれたスタントマンに、ボルダリングや登山なんかを教えてもらいながら、しょっちゅう身体を動かして遊んでいたので、まあ苦手な方ではないと思う。当然、ピアノや絵画、彫刻やダンスまで、一通りの習い事は納めてきたし、電車の乗り方から帝王学にわたるまで、一通りの教養も叩き込まれてきた。
だから、経済面・環境面において、確かに僕はいつだって最高レベルのものを提供してもらっていたと思う。低俗な表現になってしまうけれど、親ガチャSSRとは、こういうことを言うのだろう。ああ、神様はなんて素敵な贈り物を与えてくださったのか。
……おっと、ここまで聞いて、「何が愚痴だよ、自慢話じゃないか。やってられるか、ブラウザバックだ!」と思われた方もいるかもしれない。
だが、安心してほしい。本題はここからなのだ。
実は最近、完璧と思われた僕の過去をよくよく振り返ると、幼少期からの詰め込み・叩き込み教育の弊害が存在していたことに気づいてしまったのだ。
つまり、端的に換言すると、十四年間生きてきたけれど、僕にはおよそ恋人と呼べるような異性の相手がいなかったのだ!!!!
これはまずいでしょ!!!!思春期の男の子として、人並みの恋くらいしなくては!!!!何が青春だ、バカヤロー!!!
しかし、ああ、神様はなんてものを僕から奪ってしまったのだろうか。それさえあれば、僕は自分の持っている全ての財産を差し出したって構わないとさえ思っているのに。
──なのに、どうして。
どうして、僕にはこうも女運がないんだ!!!!????
いや、違うのだ。好意を寄せてくる女性はいる。いるのだけれど……、まあ、ここからは実際に見てもらったほうが早いか。
……それでは、僕に対して好意を抱いている、最低最悪な三人の女達を、一人ずつ紹介していくことにしようか?
※※※
「ハロー!相変わらず白馬とかで登校しないんだ?ハリウッドじゃ当たり前なのに?」
エントリーNo.1 『安慈衛 理依奈』
通称:アンジェリーナ。
肩まで伸ばした艶やかな黒髪。大和撫子も顔負けの白い素肌。紺色のブレザーがよく似合う彼女は、一見清楚で大人しそうにも見えるけれど、その実態はとんでもなくやべー奴なのだ。
「……君はハリウッドを何だと思ってるんだ、全く……。というか、今日もまた僕が家を出るのを待ち伏せしてたのかい?」
おかしいな……家の門を守る守衛には、こいつが姿を現したらどんな手段を使ってでも追い払うようにと伝えておいたはずだが……?
「まあまあ!きちんと挨拶しておいたから!ムキムキの守衛さん、か弱い女の子に二人がかりで来るんだもの、もう、あたし負けちゃうかと思った〜!」
よく見れば彼女の自転車のハンドルを握る拳には、うっすらと血の痕が滲んでいるような……?慌てて彼女の視線の先、家の外壁を覗き込むと、大の大人が二人して、すっかり失神してしまっていた!
「君は……いったい何者なんだ……」
思わずごくりと生唾を飲み込んでしまうほど、僕は彼女が得意げに見せた力こぶに、すっかり怯えてしまう。
「あはは!まあ幼馴染で家も隣同士なんだし、照れずに一緒に登校しましょうよ!」
そう言って彼女は自転車から降りて僕の隣を歩こうとした……。
おっと、騙されるなよ諸君!
「ふざけるな。何が幼馴染で家も隣同士だ!僕がここに引っ越してきたのはつい先週のことだし、僕の家の隣に君が越してきたのはつい昨日のことだ!!」
何を隠そう、実は僕の引っ越しは二度目だったのだ。一度目は、二週間前。海外から日本への引っ越し。転校生として紹介された僕は、うっかり担任が口を滑らせて、この女に住所を特定されてしまった。すると、何故かこの女が当然のようにその翌日に僕の家の隣に引っ越してきて、それから当然のように、「私たち、幼馴染だよね?」と共に登校することを要求してきたのだ!気味の悪くなった僕は、慌てて別の場所へゆっくりと時間をかけて、誰にもバレないように内密に引っ越したのだけれど、それすら一週間と持たずに、彼女は新しい住所を突き止めてきたのだ!
圧倒的過ぎる行動力と、存在しない記憶の思い込み……、本当に頭がイカれてるとしか思えない。
「えへへ!ジョニーったら、いっつも照れるんだからあ」
「照れてなどいない!今度こそストーカーとして君のことを起訴するぞ!!!」
「あれぇ〜、ジョニーってば。あたしのパパが警視総監だってことを知ってて言ってるのかなあ〜?」
僕の顔を覗き込むようにしながら、逆に脅迫まがいをしてくるアンジェリーナ。こんな奴の父親が警察のトップだなんて、もう終わりだよこの国。
「どうやら君は三権分立を知らないようだな……」
「それで?いつになったらあたし達籍を入れるの?ジョニー、今日の放課後って時間あるかしら?」
「放課後はたしかに時間があるけれど、君のために割く予定は一秒たりともないんだよね」
「そうだね!あたしの為じゃなくて、あたしとジョニー、二人の為だもんね!」
「生憎だけど、僕の時間は僕一人の為のものだ。これまでもこれからも、それは変わらない」
僕がきっぱりと断りを入れると、隣を歩いていたアンジェリーナの歩みが、少しずつゆっくりになって、ついには止まった。
「……アンジェリーナ?」
なんだか急に怖くなって、僕は後ろを振り返った。
「ふぅん……?幼馴染のあたし相手に、そういう態度取っちゃっていいんだぁ……?」
俯いたままのアンジェリーナが、まるで呪詛のように、小さな声で何かをぶつぶつと呟き始めた。聞き取れなくて、僕は仕方なく彼女の隣へと、恐る恐る近付いた。
「あたしとジョニーが結婚したら、まず毎朝お味噌汁と卵焼き作ってあげるでしょ?いや、それともジョニーは目玉焼き派かしら?目玉焼きにはソースかな?醤油かな?焼き魚も健康にはいいわね。納豆なんかもネバネバが身体に良いのよね。朝ご飯の準備ができたら、二階の寝室で眠るダーリンを起こすの。もちろん、あまーい口づけでね?そしたら、貴方は寝起きはぐずるから、あたしは何度でも頬に繰り返しキスをするの。そうするうちに次第に貴方も眠りの世界から幸せな現実に引き戻されていくわ。いや、幸せすぎて目が覚めたまま、また夢の世界に入っちゃったかなと思うかしら?それならそれで良いのだけどね、うふふ♡目が覚めたダーリンをダイニングまでエスコートしたら、きちんと紙エプロンを付けてあげるの。美味しくご飯をあーんして食べさせてあげて、残さず食べたら食後は膝枕で歯磨きの時間。こうして甘えん坊な貴方をしっかり甘やかした後は、今度は打って変わってきっちりと制服を着こなすギャップに、あたしはメロメロになっちゃうの。思わずうっとり見惚れちゃって、どうした?なんて聞かれたら、だってあまりにもカッコいいんだもん!って答えて、思いっ切りハグするの!そうしていつまでも離れないものだから、こらこら、学校に遅刻しちゃうだろ、って貴方が言うの。だって離れたくないんだもん、ってあたしがほっぺたを膨らませて拗ねると、大丈夫だよ、身体は離れていても心はいつも繋がっているから、なんて素敵なセリフと共に、あたしの頭を撫でてくれるの。だからようやくあたしも決心が付いて、行ってらっしゃい♡のキスをして見送ることができ──」
「いや学校行けよ!!!!!!!!」
つい、ダブルミーニングのツッコミをしてしまった。何しれっとサボってんだよ、妄想の中の君は。というか、こんな長文、最後まで聞いてる僕も僕だよ!
ひとしきりぶつぶつ言いながら、妄想を繰り広げ、幸せそうに身悶えするバカ女は放っておいて、僕はさっさと学校へ行くことにした。
アクの強過ぎる彼女に僕は、「一生味噌汁を作ってくれ」なんて口説き文句、口が裂けても言いたくないし、なんなら泥水を啜るハメになろうとも、この子の求婚だけは絶対に受け入れたくないのだった……。
(続くかも)
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