プロローグ2
カタカタッとあれほどうるさかった多用途ヘリ(UH‐60J)のエンジン音が頭上を通り過ぎ、次第に静かになるとそれが逆に心細くなる。
広場には遺体を収容した袋が横に何列にもわたって置かれて行く。
その光景からはどれだけの民間人が凄惨な犠牲になったかを物語っていた。
あたりは何かが焼けた様な異臭が漂っており辺りは真っ暗で冷たい空気が自衛隊員たちの肌に触れる。
それもそのはず月はもう11月であり時間はもう深夜の十二時を過ぎている。
土田 定は片手に持った懐中電灯を頼りに付近を照らす、そこに照らし出されたのは、建物が崩壊して散乱した瓦礫の山だった。
その瓦礫の山の一つには「品川」と書かれている一つの青い標識がある。
今日この日、自衛隊と消防隊との瓦礫撤去作業及び行方不明者の救助作業が行われていた。そうと言っても本格的な救助活動はこの日が初めてだった。しかも怪獣大戦が終わって約一年後である。理由は簡単だ怪獣の対処に覆われていたため救助する暇が無かったからだ。
今思えばふざけた話だ。土田は陸自に入ってからまだ一年目でまだ怪獣との実戦経験が無い新米だった。そしてこれが土田にとって最初の任務だった。土田の周りには複数の隊員が同じように捜索を続けていた。土田は一つの瓦礫の山を乗り越えると目の前に一台のピンク色のワゴン車があった。土田はそのワゴン車に近づく、そのワゴン車は窓ガラスは割れて車体にはかなりの破損が見られ、フロントガラスの破片は車内に散らばっている。どうやら外からの衝撃に耐えられず内側に破片が飛び散ったようだ。土田はそのワゴン車の中を懐中電灯で照らすが助手席や運転席、後部座席にも、行方不明者はいなかった。しかし土田の鼻に何かが焼き焦げた臭いがした。それもかなりの刺激臭でまともには嗅げない臭いだった。すぐに懐中電灯を外に向けた。照らした。照らしてしまった。
そして懐中電灯に照らされた光景を見た瞬間、土田は言葉を失った。
この感情は後悔にも似ていた。
土田は今、目の前に広がっている光景を信じたくなかった。
そして無意識にも懐中電灯を握っていた手の力が緩くなると、スリッとすり抜けるように懐中電灯を落ちて間もなくして懐中電灯がコンクリートに固められた地面に叩きつけられた音が無情に響く。
その光景には男女か性別が分からないほど全身が黒く焼き焦げた大量の屍が積み重なれるように累々と瓦礫と瓦礫の間に密集していた。
これがあの異臭の原因はこれだろう土田はそう確信した。
状態からして逃げてる最中に炎に襲われたのだろう。
その散らばった屍の中には身長が低い奴もある、身長からして子供、巻き添えを食らってしまったのだろう。
死屍累々とした残酷な光景を目の当たりにして実に数秒間は動揺していた。だが、この数秒があまりにも長く感じてしまった。
土田に途端に胸に何かが急速に込み上げてくる感覚と共に猛烈な吐き気が襲う。
すぐに手で口を覆うと姿勢を低くして四つんばいになり嗚咽と共に目から涙も流れる、
その涙は、吐き気で苦しいからでは無く助けらられなかった屈辱の感情からだった。
「土田二等兵、大丈夫か?」
すると後ろから声が掛けられる。土田は後ろに振り返るとそこにいたのは、身長が高くて筋肉質、図体のでかい男がいた。
筑波 宗次。筑波は土田より2年年上で階級は曹長であり怪獣との実戦経験が豊富で部下からの信頼も厚い人物だった。
「すいません曹長・・・あまりにも残酷過ぎて・・・」
「気にするな誰が見たってみなこうなる、そうやって涙を流せるお前が一番まともだ」
すると筑波は一息入れると
「俺なんてもう涙の一粒も流れやしない・・・」
土田は筑波の言っていることが理解できなかった。だが、土田がその言葉の意味を知ることになる。筑波は土田の前に立つと
「作業を進めよう俺達自衛隊が護りきれなかった国民のために」
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