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東洋の楽劇隊  作者: 伊藤 黒犬
5/23

05 片側

 サングラス越しの茶色がかった空に白い雲が浮かんでいる。

 額に手をやり、太陽は濡れた紺色のハンカチに触れる。


「あっ」

 木陰で横になっている太陽を見てキヨラは声を上げ……表情が緩む。

「良かったぁ……ずっと寝てるから、起きなくなっちゃったかと思ったよ」

 手を突き、身を起こそうとして太陽は小さく声を漏らした。右手で左肩を押さえる。左肩にきつく巻かれた布には血が滲んでいたが、広がる様子は無い。

「……この布は」

 片側の糸がほつれている布に視線を落とす。

「血が出てるからって、尹が」

「尹……?」

 怪訝そうに太陽が繰り返した時、草むらの向こうから駆け寄って来た尹があっと声を上げる。更に急ぎ足で二人の元へ走って行く。

「あ。丁度良かった、この人が尹だよ」

 キヨラに紹介され、尹は手に持っていた濡らしたハンカチを横に持って軽く頭を下げた。肩から手を離し、太陽は頭を下げ返す。

「ありがとうございます」

 裾が僅かに破かれた尹のマントに目をやる。

「あ、いや。礼なんて……ところで、熱の方はどうだ?」

「熱?」

 聞き返した太陽に、あれ、と尹はキヨラの方を向く。

「高熱でぶっ倒れてたんだんだが……まだ聞いてなかったのか」

 尹の説明を聞いて太陽は膝に落ちていた濡れたハンカチを拾った。濡れた前髪に風がそよぐ。少し茫然と眺めた後、太陽はキヨラの方を向いた。

 気まずそうにキヨラは俯く。

「……ごめん。私のせいだよね、川に落ちた時の……」

「ああ、お前のせいだな」

 手に力を入れて微かに眉間にしわを寄せながらも太陽は立ち上がった。え、と声をこぼして尹は歩き出した太陽の後を追う。

 尹が止まると太陽も立ち止まり、後ろを振り向いた。

「え、ああ……」

 思い出して持ったままだった濡れたハンカチを差し出す。

「いや、そっちじゃなくて……」

 ハンカチを受け取りつつも否定する尹に、え、と太陽は左肩に巻かれた血の滲んで乾いた布を見る。そうだったと呟いてキヨラも駆け寄った。

「あのね、実は尹も一緒に来ることになったんだ」

「は」

 即座に太陽は尹の顔を見た。

 一瞬固まり、尹は改めて頭を下げる。


 眉を一層ひそめて、太陽は鋭くキヨラを睨んだ。

「そもそもお前の世話をすると言った覚えは無い」

 先ほどから戸惑いっぱなしの尹は驚いた表情でキヨラを見た。

「あはは……私も」

「じゃあ何故ついてくるんだ」

 言われてキヨラは笑う。困惑した様子で尹は二人を交互に見ている。極めて迷惑だと言うような表情で太陽はキヨラを見ていたが、ふと視線を自身の目元にずらし、金の紐で縛り付けられているサングラスの支えを見た。

 再びキヨラに視線を戻す。



 草むらを風が撫でた。

「……名前」

 呟いた太陽にキヨラと尹は顔を上げる。

「名前? 誰の……」

「私の名前は稲葉太陽だ」

 目線をそらして太陽は言った。

 えっと声を漏らしかけて、尹は口を押える。僅かに視線を上げて太陽は尹を見た。

「……分かったなら、さっさとどっか」

「たいよう!」

 突然名前を呼ばれて歩き出しかけた太陽は振り向いた。目を開いて、満面の笑みでこちらを見ているキヨラを見た。

「太陽、分かった! ずっと名前分からなくて呼ぶ時変だったから、聞けて良かった」

 にこにこと笑顔のキヨラを茫然と太陽は眺めていた。

「太陽って、あの……殺人鬼の」

 だが呟いた尹にはっと視線を向ける。

「え、殺人鬼……?」

 繰り返してキヨラは尹の顔を見て、再び太陽の顔を見た。

 太陽は目を細め、口を開く。

「ああそうだ。それで間違いない」

 言って、太陽は振り向き歩き出した。唇を固く閉ざす。

 草むらを進む太陽の背姿を二人は立ち尽くして眺めていた。


「……いやいやいや。絶対何かの間違いだろ」

 片手を横に振る尹に、太陽は、は、と息を漏らして振り向いた。

「だって写真思いきり別人だし。同姓同名の冤罪か何かに決まってる」

「えっそうだったの、何だ、びっくりしたぁ……でも一緒ってすごい偶然だね」

 腕を組んで力説する尹にキヨラはほっと息をついた。立ち止っている太陽に駆け寄り、にっこりと笑う。

「じゃ、行こう!」

「あ、俺も。よろしくな」

 笑顔の二人に、太陽はサングラスをかけた目を細め


 ……何も言わずに歩き出した。微かに眉間にしわを寄せる。



 淡い水色の空に細く雲が流れていく。ガサガサと音を立てて草むらが揺れた。

 尹はちらりと太陽を見て、フードの首元を直す。

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