スキル判定
この世界にはスキルというものがある。
それは人の持つ特殊な能力で、15歳になった時に
初めて発現する。
特殊能力といっても、そのほとんどが<乗り物酔い耐性>や<歩行速度向上>という、地味であったら便利という程度のスキルだ。
だが、それを授かるだけで人生を左右するといって良いほど大きな効果をもたらすような、強力なスキルも存在する。
僕の父親のゴーシュの<勇者>というスキルがその最たる例で、スキルの効果は闘志を抱き続ける限り、何度死んでも蘇るというものだ。
更に、死ぬたびに身体能力がどんどん強化されるというとんでもない効果もあった。
心が折れない限り負けることはないこの最強のスキルにより、ゴーシュは長年アストラル王国を侵略していた魔王軍を退けるという功績を残した。
そんな英雄の息子である僕、レリウスは民衆から多大な期待をかけられていた。
強力なスキルをもつ者から生まれた者は、同じく強力なスキルをもつ可能性が高いとされているからだ。
「きゃー!英雄様ぁ」
「あの時助けてくれてありがとな!」
「こっち見てー!」
「平和に暮らせているのはあんたのおかげだぜ!」
ゴーシュは男女問わず投げかけられる声援に、手を振るなどして応える。
ゴーシュは人前に立つのをあまり好まないため、英雄を一目見ようと、僕がスキル判定をする教会には多くの人が押し寄せていた。
ゴーシュにばかり気を取られていて、僕のスキルに対してあまり興味が無さそうな雰囲気に少しムッとしたが、英雄の息子のスキルなのだから強いに決まっているだろうという、父親に対する絶大な信頼感からくる態度だと思うと、あまり悪い気はしない。
「さあレリウス様、その水晶に両手をかざすのです」
司祭に促されるままに手を当てる。
すると水晶は朧げな光を放った。
その光を見た司祭は一瞬驚いたような表情をし、言い淀むように口を小さくパクパクとさせた。
……なんだかすごく嫌な予感がする。
「えー、レリウス様のスキルは……<物理耐久低下>でございます」
……あぁ、終わった。
僕がそう思ったのには理由がある。
スキルというのは、スキル名が抽象的である程強力とされる。
なぜなら、スキル名が具体的であればあるほど効果が限定的だからだ。
例えば先ほど述べた<歩行速度上昇>について言うと、名前の通りあくまで"歩行速度"が上昇するだけであって、走った瞬間にスキルによる加速は失われてしまう。
僕の授かったスキル、<物理耐久低下>はどう考えても局所的なものだ。
「……<物理耐久低下>?名前からして汎用性低そうじゃね?」
「<勇者>の息子の癖に、どっかで見たことあるような感じのスキルじゃん」
「……いや、<勇者>の息子なんだぞ?もしかしたら私たちが思っている以上に強いのかも……」
民衆の反応のほとんどが落胆に近いものだった。
「……ちなみにどんな効果なんです?」
名前が貧相なだけで、実際の効果は字面より強力であるという僅かな可能性を信じ、縋るような思いで尋ねる。
「このスキルを受けた物体や人物は、スキル使用者の物理的接触による損傷が、本来与えるはずの損傷より大きくなる……です」
長ったらしい説明だったが、効果はまさしく<物理耐久低下>という感じで、一切の汎用性を感じられない。
「……っ」
その説明を聞いた途端、僕は居た堪れなくなって教会を飛び出した。
背後から僕を呼び止める父の声、そして嘲笑と擁護が入り混じった民衆の声が聞こえるも、構わず走り続けた。
どこに向かっているかなんて分からない。だがこの場所から一刻も早く抜け出したくて、がむしゃらに走り続けた。
いわゆるテンプレ設定の小説を書こうとして生まれた作品、特にプロットを練らず書きたいように書いていきます