第九話
「お母さんってなに?」
隆志の担当だった山岡はその質問に戸惑った。
「なんて答えたらいいか難しいね。」
当時、幼稚園に通っていた隆志からの突然の質問に、山岡はなんて答えたらいいかわからなかった。でも、ウソはついてはいけない。余計に隆志を傷つけることになる。
山岡は、丁寧に言葉を選びながら答えた。
「お母さんは、隆志を産んでくれた人の事だよ。」
「それは誰なの?」
「隆志のお母さんは、隆志のことを想って、今離れたところにいるんだよ。」
「そうなの?なんで離れてるの?」
「お父さんとお母さんで話したんだ。そしたら、ここに隆志がいたほうが幸せだから、今、隆志は預けられているんだよ。」
「そうなの。よくわかんない。」
山岡は、隆志をギュッと抱きしめた。もう言葉では説明できない。子供には酷すぎる。
「大丈夫だよ、僕が守るから。」
山岡は、抱きしめたまま小さな声で言った。
隆志は、赤ちゃんポストに入れられ、山岡のいる「星の家」に入ることになった。そして、お母さんも知らないで、他人に育てられた。でも、その悲しみを知ることもできない。なぜなら、この世に産まれて、一度もお母さんに会ったことがないのだから。
山岡はこの純粋な子供、隆志に何ができるだろうと自分の不甲斐なさに悔しさが溢れるばかりだった。