第十六話
結局「オサマラヌイカリ」をもらえなかった隆志は、自分の日常に戻った。
淡々と生活を繰り返すだけだった。結局、人は孤独なんだと思うしかなかった。自分の力の限界を思うとともに、今やるべきことに集中するだけだった。
そんな折、仕事現場が「夢の中研究所」の近くだったので、帰りにちょっと寄ってみようと思った。
「夢のなか研究所」のビルに近づく。すでに看板は外されており、廃業しましたという空気が漂っていた。
『神崎さんは大丈夫かな。うん?あの明かりは・・・』
隆志は急ぎ足で、5階にある「夢の中研究所」まで来た。やはり事務所の明かりが点いている。
「隆志です。神崎さん、いますか?」
何の反応もない。ドアを開けてみる。
『ん?開いてる・・・』
この静けさに嫌な予感がした隆志は、奥の部屋まで進んでいった。
「神崎さん!」
神崎さんは机に座って、あるものを見つめていた。
隆志は少しホッとした。それとは別に、神崎さんは振り返り、「ああ、隆志さん」と普段の口調で言う。
隆志は、言葉を返す。
「神崎さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい。」
「はあ〜、もう心配しましたよ・・・」
神崎さんは我に返り、「隆志さん、すみません。ちょっと考え事をしてまして・・・」
「変なこと考えてないですよね。」
「いや、これなんですけどね。」
そう言うと、ある包を前に出す。そこには、見覚えのある名前が。
ーーNPO法人 飛龍会ーー
隆志は聞く。
「これは何ですか?」
神崎さんは答える。
「実はね、もうこの事務所営業してないんですが、さっき片付けをしていたら、この包みが届きまして。」
「企業さん(お客さん)は、営業が終わっていることを知らないんですか?」
「お客さんにはすべて通知シてあるんですが・・・なんというか・・・この包みの送り主は、初めての依頼で・・・実は、ここの会長は、僕の父なんです。」
隆志は驚いた。「NPO法人 飛竜会」・・・自分が毎月振込みをしてる法人、そして、山岡のいる施設の親であった。その会長のお子さんが、目の前にいる神崎さん。隆志はその事実を口にできず、戸惑っていた。
すると、神崎さんは言う。
「父と言っても、もう何年も会ってません。これは返送します。」
隆志は慌てて言う。
「ちょっと待って下さい。中身を見てみましょう。」
神崎が動かないのを見て、隆志がその包みを開けた・・・
やはり、薬らしきものが入っていた。そしてそこには、
『ハハノイノリ』
と書かれていた。
神崎は鼻で笑って、「何を今さら。こんなもん、捨ててしまいましょう。」と言った。
隆志は、「ちょっと待って」と言いながら、説明書きか手紙なんかがないか探した。しかし何もない。
神崎は、「こんな危険なもん、だれが飲むもんか。もしかしたら毒かもしれませんね。」と包みを掴もうとした。
その時、とっさに隆志が薬を取り出し、口の中に入れた。
「た・・隆志さん、正気ですか?病院に行きましょう。成分も何も書いてないんですよ。」
隆志は、口に入れたその薬をなにか味わう感じで、しまいには、ガリッ、ガリッっと噛んで飲み込んだ。その様子を見ていた神崎は、目が点だった。
隆志はまるで味わうようにその薬を飲んだ後、言う。
「これは、お菓子のラムネですね、多分ですけど。。。」
神崎はそれを聞くと、顔色が変わり、薬を手に持ち匂いをかぐ。そして口に入れた。
ボリッ、ボリッ・・・神崎の目には涙が浮かんでいた。




