第十五話
山岡は「飛龍会」の本部のある、東京へ電車で向かっていた。
車内でぼんやりとしていると、自分が一職員として働いていた時のこと思い出した。
*
「山ちゃん、山ちゃんはなんで働いているの?」
その時、唯一、山岡を山ちゃんと呼ぶ中学生がいた。
「そうだな、生活するため・・・というと夢がないな。お前みたいな坊主を一人前にするためだ。」
「そうか、俺一人前じゃないか?」
「まだまだ、世間は厳しいぞ。」
「じゃあ、一人前になる。一人前になるにはどうしたらいい?」
山岡は、その純粋無垢な質問に、真剣に答えようと考えた。
「うーむ、難しいな・・・」
すかさず、その中学生が話す。
「じゃあ、山ちゃんは一人前か?」
「もう正直に言うよ。俺は一人前じゃない。」
「どうしたら、山ちゃんは一人目になるんだ?」
山岡は、この質問攻めにもう正直に答えるしかないと腹をくくった。
「隆志、俺が一人前と思うのは、この施設のトップ、いや、その親「飛龍会」のトップになって、お前らみたいな坊主らをみんな救うことだ。」
「どのくらい救うんだ?」
「もう日本中だ。日本中の子供を救ってやる。」
「そうか、じゃあ俺もそれを手伝うよ。」
山岡は、そういう気持ちを持ってくれて嬉しいと気持ちだけ受け取ったつもりだった。しかし違った。
その中学生・・・隆志が学校を卒業する時、進路面談が行われた時だった。衝撃の言葉が隆志から出た。
「これ、初めて通帳ってもんを作ったんだ。」
隆志が通帳を嬉しそうに見せた。
「ってことは、働くのか?隆志は、頭いいのに。奨学金制度もあるそ。」
「いや、勉強はもういい、働く。ちょうど電気工事の仕事受かりそうでね。」
山岡はちょっと驚きながら言った。
「いつもやること早いな。それもいいだろう。その通帳にお金を貯めていけ。必ず役に立つ。」
「いや違うんだ、山ちゃん。これにお金を貯めていくから、あるところに毎月振込みして欲しいんだ。」
「・・・?」
「飛龍会だよ。山ちゃん、トップになるんだろ。手伝ってやるよ。」
「お、おまえ・・・」
山岡はハッと現実に戻り、笑った。
「隆志、いいんだって。お前の力を借りなくても、飛龍会はでっかくなる。大丈夫だ。」
その言葉に、隆志はキリッと顔色を変え、睨みながら言った。
「山ちゃん、手伝うって言っただろ。山ちゃんがトップになれば、日本中の子供たちが救われる。」
その真剣さに、山岡も緊張感が走った。しかし、少し考え、言葉を選んだ。
「わかった。その手続きは俺がする。でもな、いつでも変えられるようにしておくからな。これから、お金が必要になる時が来る。その時は言えよ。」
*
山岡は、電車の中から窓の外を見ていた。
歯を食いしばり、これからの戦いに士気を上げていた。佐々木のもとに行かなければ、今はそれに集中しよう、そう自分に言い聞かせていた。