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3話 メインキャラたち

俺はベッドの下から引っ張り出した本を手に取った。

「これはあれだよな!島崎優介のアルバム!これならまず秋と俺と安井先生の関係とかもわかるんじゃないか?」

俺は島崎優介のアルバムをベットの下から発見した。俺は期待を込めながらページをめくった。最初は小さい頃の秋と島崎優介が二人で遊んでいるところばかり写真に写っていたが、しばらくめくっていくと安井先生らしき青年が少しづつ出てきた。先生の写る写真では2人がよくおんぶをされていたり、手を繋いでいたりするものが多かった。

「やっぱり、俺が予想した通りかな…先生は最初からいなかったけど途中から知り合ってお世話されるほどの仲になったのかな」

アルバムをめくっていくとともにこの3人は本当に昔から仲が良かったのだと思うような写真が沢山でてきた。たまに島崎優介が嫌がりながら先生に抑えられたりしている写真もあった。他には嫌がる島崎優介に笑いながらキスをする先生の写真があった。

「いやそりゃ…島崎優介もあんな態度になるわ」

口の悪い島崎優介が特に先生には当たりが酷いのはもしかしてこれが原因ではないのかと感じながら俺は、アルバムを閉じた。そしていくつかのアルバムを見終わり俺は次の本を見ることにした。しかし、特にそれ以上の情報は得られず俺はしばらくしてアルバムを閉じた。だがとりあえずは3人の関係はこれで確定した。先生への接し方も昼休みの時にわかったし、そう考えていると部屋の前で足音が聞こえた。

トントン

「優介、ご飯よ」

「あぁ、わかったよ、今行く」

俺は島崎優介の母さんの呼びかけに応えてしばらくして俺はドアを開けて下のリビングまで行った。

「おう、優介、早く席に座りなさい」

そう言いながら俺の方を見て話しかけてきたのは島崎優介の父さんだろう。とても優しそうな父さんだった。

「あぁ、うん」

しばらくして母さんも席に座った。この家族は父さんと母さんと島崎優介の三人家族なようだ。全員揃ってからご飯を食べる家族なのだろう。席に3人座ったあと、個々でいただきますと言い食べ始めた。俺もその後にいただきますを言い食べ始めた。朝も思ったが、ここの家の飯は美味しかった。今日の俺には身に染みて特に。箸の音とテレビの音だけが部屋の中に響いていた。そして黙々と飯を食べる俺に島崎の母さんが俺に話しかけてきた。

「優介、ふふ、今日はお腹すいてたの?美味しそうに食べてくれてお母さん嬉しいわ」

そんなふうに優しい笑顔で話しかけてきた。俺は思っていたより顔に出ていたらしい。素直に美味しいご飯が嬉しかった俺は

「いや、いつも食べてるけど美味しいなって」

「あら?いつもそんなこと言わないのに、作ったかいがあるわね!」

そんなふうに笑う島崎の母さんを見て、俺はしばらくしてハッとした。自分の家のご飯を食べて母さんにそんなこと言うやつなんて居ないかと気づいた。しかしまぁ、これくらいの素直ならたまにあってもおかしくないよな?と自分のミスをカバーするような考え方をするようにした。

「今日の優介は素直だな、いい事だ」

そう言いながら島崎の父さんはうんうんと頷きながら味噌汁を啜った。しばらくして飯を食べ終わってすぐに島崎の母さんが

「優介ご飯の後すぐだけどお風呂もう入っても大丈夫だから好きな時に入りなさい」

そう言って島崎の母さんはキッチンに向かい食器を洗い始めた。俺は

「わかった、今入る」

そう言って、部屋に戻りラフな部屋着らしきものと下着を取り部屋を出て風呂場に向かった。リビングを出てすぐ近くに風呂場があったので分かりやすかった。俺は風呂場の鍵を閉めた。俺は風呂に入る前に洗面台の前で止まり、まじまじ自分の顔を見た。正確にいえば島崎優介の顔だが。

「こいつの顔整ってるよな…まぁ、少女漫画の登場人物だし当たり前か」

そう呟きながら服を脱いだ。しかし俺はこの男にひとつ不満がある。

「こいつ顔は整ってるし、別にいいけど…もっと鍛えてもいい気もするこの体よ…」

そう華奢な体つきなのだ。筋肉が全くないとまでは言わないが、秋やヒロインの周りの同じクラスの登場人物の男は割と身長高めのスマートかつほど良い筋肉の持ち主が多かった気がする。それに比べてこの島崎優介は身長は割と低めの165センチと言ったとこだろうか。髪は明るめの茶髪だ。髪型は少女漫画でありがちイケメン髪型だ。そしてこの整った顔。かっこいい系の顔と言うよりは

「可愛い系だな」

洗面台の前でいろいろ考えていたがしばらくして、風呂に入った。そして俺は風呂から出てスッキリし髪を乾かしたあと、洗面台にあるコップごとに別れてさしてある歯ブラシをとった。わかりやすくコップに名前が書いてあってすぐにどれが優介なのかわかって微笑ましくて少し笑い歯磨きをした。島崎の母さん父さんにまだ寝ないが、おやすみを伝えて部屋に戻った。

「はぁー、疲れたわー」

そう言うやいなや俺はベットに潜り込んだ。寝る気はもちろんまだなかったが疲れていたのだろう。そこで俺の記憶は止まった。


ジジジジ

「…ん…うるさ…」

俺はどうやらあの後すぐに眠って1度も起きずに寝ていたようだ。慣れない手つきでベット横の棚の上にある目覚ましを停めて俺は起き上がった。そして俺は落胆した。

「…夢じゃなかったのか…元の世界に戻れるとか少し期待したんだけどな、はは」

そうして俺はやはりここは夢ではないのだと改めて感じた。寝ればまた元の世界に戻るとかそういうありがちな俺の生々しい夢ならどれだけ良かっただろうか。そんなことを考えながら俺は制服に着替えて、部屋を出て洗面台に向かった。鏡を見て流石と言うべきか、漫画の世界のイケメンキャラは朝から対して髪も乱れずイケメンだった。顔を洗い髪を少し整えてリビングに向かった。

「おはよう優介、昨日は遅かったから今日はちゃんと起きれてよかったわよ」

そう言いながらテーブルに朝食を並べて席に着くように促した。

「ほらほら、食べなさい。」

朝ごはんは1人分しか用意されていなかった。俺は思わず島崎の母さんに

「父さんのは?」

そう言うと島崎の母さんは不思議そうに答えた。

「ん?何言ってるのよ。いつもお父さんは先にご飯食べて仕事に出てるでしょ?ほら寝ぼけてないで食べちゃいなさい!」

「あ…そうか!」

この時間に食べるのは俺だけで母さんは父さんと朝一緒に食べてるようだ。食べてないなら俺と今一緒に食べてもいいもんな。そう考えながら俺は黙々と飯を食った。しばらくして、出る時間になったのだろう。

「今日いつも通りに出られるわね。行ってらっしゃい。優介」

そう言って島崎の母さんは笑顔で弁当を渡してきた。俺はそれに答えるように

「うん、行ってきます」

ガチャ

俺はドアを開けて外に出た。そうすると秋は家の門の前で立って待っていた。

「おう!優介おはよう!今日はいつも通りだな!」

「あぁ、昨日はごめんな」

「おー?謝るなんて珍しいな!気にする事はないぞ!さぁ行くぞ」

こうやって少しづつ相手から情報を取っていこう。俺はそう前向きに考えることにした。言葉遣いが多少いつもと違くても何とか誤魔化そう。そう考えながら俺は秋の隣を歩きながら学校へ向かった。


それから、学校につき俺と秋は教室に向かった。すると

「ねぇーあたしの話聞いてる?」

「うん、聞いてるって、夏希が行った昨日のカフェの話でしょ?」

「んー!そそ!あそこすーごく美味しかったのー!ねぇ?今日一緒に私とそこに行かない?ゆーいー!」

「夏希昨日も他の子と行ったのにまた行きたいの?んー、仕方ないなー」

「やったー!約束よ?何頼もうかなー?」

思わず俺は声を出しそうになり口をおさえた。あそこの教室前の廊下で話している2人はこの漫画のメインキャラとしてよく出てくるこの少女漫画のヒロインの佐藤結。そして隣で元気よく昨日のカフェの話をしているのはヒロインの幼馴染の山本夏希だ。確かあの二人は同じクラスだ。俺と秋のクラスの隣の隣の2年C組だったはず。

「ん?優介どーした?口なんておさえて?具合が悪いのか!?それはたい…、むぐ!!」

「ちょ!大きな声出すな!悪くないから大丈夫だ」

俺は秋の口をおさえた。ここは廊下だ、よく響く。ここで目立つのはまずい。漫画のストーリーにない話を作るのは俺が元の世界に戻れる可能性を何だか下げてしまいそうで非常に避けたい事態。どうやって戻るのかすらまだ分からないがとりあえず下手な行動はできない。

「ふぉ?そへわよかった…むぐ!」

「秋?すまないが少しの間だけ大きな声を出さないと誓えるか?」

秋は不思議そうにしていたが、俺の真面目な顔を見て納得いったのか大きく頷いた。

「うむ!」

俺はそっと秋の口から手を離した。すると

「よく分からないが!しばらく大きい声を出さぁ…むー!」

「ちょ!ば、声でかいって!」

俺はこいつといる限り目立たない行動をするのは不可能なのではないかと頭に過った。どこまでいってもこいつ漫画のキャラだと言うことを忘れないようにしよう。そう俺は心に誓った。そして俺はハッとしてこちらにあの二人が気づいていないかそっと見た。

「ふーよかった…」

「むー?」

どうやら割と大きな声で秋が話していたが振り向くなどの動作もなく話続けてるのを見る限りこちらの話をされているわけでもなさそうだ。それを見て俺はほっとした。しばらくして、ヒロインの佐藤結と山本夏希は自分のクラスに入っていった。俺はそれを見て一息つき秋の口から手を離したあと秋を引っ張りながら教室へ向かった。秋は不思議そうにしていたが何だか終始ニコニコしていた。それを見た俺もまた不思議になったがこいつについて考えるのはやめよう。多分たいして考えなくても大丈夫だ。そう俺は秋については何故かそこまで考えなくてもいいやと少し投げやりになった。


そしてしばらくして朝の時間のホームルームが始まった。俺は昨日のように朝のホームルームの時間に先程の事件について考え始めた。今日俺が思ったことはまず、俺と秋のこのやり取りは漫画に影響するのだろうかということだ。ヒロインを中心に描かれている少女漫画で俺とこの秋のやり取りは漫画の一部として影響してしまっているのだろうか。俺はそこに疑問を抱いた。俺がどんなに目立たないようにしても物語として、俺と秋が出てしまっているのならそれは今の俺の行為の意味がなくなる。そう考えているうちにホームルームが終わった。


「優介ー!1時間目は体育だぞ!着替えるぞ!」

「あーそうか」

どうやら1時間目から体育らしい。俺は机の横に体育着らしきものを発見し秋と一緒に着替え、校庭に出た。早く着替えて出てきたためやることも無く秋と話していた。

「今日は合同授業らしいぞ!2年C組とな」

「今日はなんの体育なんだ?」

「サッカーらしいぞ!楽しみだ」

秋は嬉しそうに話していた。話し方や見た目からもわかる通りこいつは体育大好きそうだ。そう考えていると、授業のチャイムがなり合同の授業が開始された。合同授業はサッカーでチーム対抗戦のように戦うようだ。ひとつのクラスで2チームに別れて合計で4チームになり、戦うようだ。チームはAからDのアルファベットで振り分けられていて俺はAチームだった。秋はBチームになり別々になった。

「優介と別になってしまったな、だが!手加減はしないからな!」

「はいはい」

そう軽く秋の暑苦しい言葉を流していると他クラスであるC組の方から大声が聞こえた。

「ああー!!奏!取られた!!てか、もう優勝決まったもんだろー」

「よっしゃぁ!!Dチームはもう勝ったも同然だぜ!ふははは!」

そんな声が聞こえた。どうやらC組では1番奏と言うやつが強いらしい。

「Dチームに矢口くんがいるのか!今度こそ勝ってみせるぞ!優介見てろよ!」

「ん?よく負けているのか」

そう聞くと秋はいつもに増して興奮気味に答えた。

「なんだー優介!いつも見てるだろ?サッカー部のエースだとわかっているが1度くらいボールを取ってみたいじゃないか?そうだろ?」

「…エース?」

「矢口奏くんだぞ?スポーツ全般上手いがやはりサッカー部エースなだけあって、サッカーは特にうまい!」

俺はその秋の熱意の籠ったセリフを聞いて思い出した。2年C組の矢口奏。サッカー部のエースでクールな性格。ヒロインが好きな相手だ。なぜ今まで思い出さなかったのか。こいつとはあまり深く関わってはいけないキャラだ。

「優介見ろ!どうやらCチームとDチームで、同じクラスのチーム同士が最初に戦うらしいぞ!」

俺は秋の隣に座りサッカーのコート外で観戦することにした。流石エースと言うべきか見事なドリブルだ。見てるだけでわかる。明らかに誰よらも上手いことが。そうして秋と観戦していると体育館の方で叫び声のようなものが聞こえた。

「「「キャーーーー!!」」」

「奏くんよー!!今日もかっこいいわ!」

「あーすき、サッカーしてる時の奏くんが1番かっこいい…」

そして矢口奏がゴールを決めると、黄色い声援が俺の耳に響く。

「「「キャーーーー!!」」」

女子に圧倒的人気の奏と同じチームの男が笑いながら矢口奏の肩に手をやった。

「カー!相変わらずの人気だなーおい!奏さんよ」

「少しうるさいけどな」

「お前相変わらずなんか冷めてんなー…誰か好きなやつでもいんのかー?」

「…別に」

「くそ、俺も女の子とキャッキャしたいわ切実に」

そんな会話が聞こえた。矢口奏はクラスでは全体的にみんなと仲が良いみたいだ。漫画の中でも女にモテるが男子にだからといって嫌われるという訳でもないキャラだったはず。そうしてると、体育館の方でバレーやっていたらしい女子が数名サッカーの試合が終わった矢口奏に駆け寄った。

「おつかれー!奏くん!かっこよかったよ!」

「うんうん、応援してたんだからね」

そう言いながら矢口奏お構い無しに話しかけた。そうするとため息をついた。

「はぁー、授業中だ。女子はバレーだろ?早く戻れ、あと応援しなくていい」

そう冷たくあしらうと、女子達は笑った。

「やーん、冷たいなー奏くん」

「でも応援しちゃうからね!」

「いいから戻れ」

「「「はーい」」」

そう言って女子達は体育館の方に戻って行った。冷たくされてるという自覚があるというのにこの女達は全く気にしないようだ。俺はイケメンパワーを目の当たりにした。そうしていると、体育館の方から叫び声が聞こえた。

「結!あぶない!!!」

体育館と校庭が近いためよく声が聞こえた。この声は確か山本夏希というヒロインの結の幼馴染の声だったはず。なにか起こったのだろうか。そう考えていると、体育館の方からの山本夏希がヒロインを抱えて出ていくのが見えた。どうやら倒れたようだ。

「ゆーい!待っててね!今保健室連れてく、から!んーー!」

そう言いながら、運んでいるようだが、なかなか女子ひとりじゃ力が足りないのだろう。大変そうに運んでいる。

「あれC組の子か!怪我をしたのか!大変だ俺が運ん…うお!」

「大丈夫だ、行かなくても、矢口くんが向かうだろう」

そう言って、俺は運ぶのを手伝おうとする秋の服を引っ張って止めた。そうすると秋が不思議そうにこちらを見た。

「ん?なぜそう思うんだ?」

「いやだって、それはそーいう…シーンだろ…」

「シーン?」

しばらくして、その様子に気づいた矢口奏がヒロインの方に駆け寄った。

「おい、夏希!こいつどうしたんだよ」

「いや結ぼーっとしてたみたいでバレーのボールが当たっちゃったのよ」

「…そうか、貸せ。俺が運ぶからお前は戻っていいぞ夏稀」

「え?んーそう?大事に運んでよ!!奏!」

「…大事に?…わかった」

矢口奏のその返事を聞いたあと山本夏希は頷きそして少し心配そうにヒロインを見たあと夏希は体育館へ戻った。その様子を見守ったあと奏はヒロインをお姫様抱っこした。

「これなら夏希も怒らないだろ…」

そう言って気絶しているヒロインを運んで行った。

「おー、本当に矢口くんが運んでいったな!優介の言う通りになったな!」

秋はそう言って俺に笑いかけた。俺はこのシーンを確かに知っている。だから運びに行こうとする秋を無意識ながら止めた。つまりここの世界は最新巻の続きの話ではなく、過去の漫画の話だということがわかった。つまりここの世界ではまだ島崎優介は描かれていない頃だ。確かこの話は5か6巻くらいの話だったはずだ。俺が来てからもこの世界はあの漫画通りに進んでいることがわかった。確かこの後は保健室に着いたあと矢口奏がヒロインをベットに寝かし、寝ているヒロインの頭を撫でてなにかセリフを行ったあと保健室を出ていくとかのシーンだったはず。しかしこの世界に俺が来たことによって何か物語に影響してしまっているのではないか、という不安がぬぐえず俺はいてもたってもいられず、立ち上がった。

「ん?優介どーした次の試合は俺たちだぞ!頑張っていこう!」

「秋ごめん!俺ちょっと体調悪いから保健室行くわ!じゃ!後はよろしく」

「お前もか!それは大変だ俺が運んでや」

「いやいいから!先生に言っといてくれ!」

「…そうか?わかった!しかし優介と戦うの楽しみだったのにな」

「いやまた体育あるだろ?その時にな、じゃ!」

そう言って俺は矢口奏とヒロインの佐藤結が向かった保健室に向かって走った。体調悪い設定でいる俺だがもうそこは気にしないで走った。


そして俺は保健室の前に着いた。本来なら俺はここにいてはいけないキャラだが漫画の通りに行われる会話を聞かないと安心できなかった。そして俺は保健室に入ることなく保健室の前で聞き耳を立てた。声だけでも漫画のセリフ通りなら物語はあの通りに進んでいるということが分かる。

「結、起きてるか?」

「…」

「…まだ寝てるか、いつも危なっかしいなお前…お願いだから心配かけさせるなよ」

このセリフ確かに記憶にある。つまり物語通りだ。このまま矢口奏がヒロインの頭を撫でれば完璧だ。そうして聞き耳だけではその状況は分からないためドアが少し開いていたためその隙間から軽く覗いた。

「次は気をつけろよな…」

この次だ。確かこのあと頭を撫でれば完璧だ。俺はその光景を最後まで見ようと思い釘付けになっていると、聞き覚えのある声が廊下から聞こえた。

「安井先生ありがとうございます。保健室だけでなく他の授業の採点までしてもらって」

「いえいえ、大丈夫です。また何かあったら声掛けてください」

「あー助かります。ではありがとうございました」

「では失礼します」

保健室は職員室から近く安井先生こと蒼夜と女の教師が話しているのが見えた。俺はこんな場面を知らない。この矢口奏とヒロインのシーンに安井先生は出てこないはず。今先生がこちらに来て扉を開けようものなら物語が変わってしまう。それはまずい。俺はなぜこのようなことになったのかわからないが、とりあえず、こちらに気づかないように願った。しかしその願いも儚く散った。こちらに気づいた安井先生は俺に声をかけようとした。しかしここで大きな声で俺が呼ばれるのはダメだ。先生の声で先生が保健室に向かっているのだと分かれば、矢口奏がヒロインの頭を撫でようとするのを辞めてしまうかもしれない。声を出す前におれが駆け寄りそして保健室から遠ざけなければならない。俺は考える暇もなく静かに走り出していた。

「こんなとこでおま…む!」

「蒼夜…静かにして、あと少し用があるんだ。来てください」

俺は先生の口をおさえたあと先生の手を引き保健室とは真逆の方向に小走りで連れていった。その間先生静かに俺に付いてきてくれた。しばらくして、保健室とはだいぶ離れ校庭の方に出た。

「ここなら…大丈夫か」

「んー?優介」

「え、あ」

保健室から離れることをとにかく優先的考えていたため俺は先生を連れてきた用を全く考えていなかった。

「なんか保健室の方にまだ戻る予定じゃわなかったんだけどさー保健室の前でお前がしゃがんでいるから体調でも悪いのかと思って声をかけようとしたが、俺に用があるのか?優介?」

「へ?俺が保健室の前にいたからこっち来ようとしたのか?」

「当たり前だろ?お前は生徒であり俺の大事な優介なんだからなー」

俺があの場所でしゃがんで聞き耳を立てたり覗いたりしていたため物語が変わりそうになったようだ。俺が原因だったようだ。つまり俺があそこに行かなければこんなことは起こらなかった。しかし、俺は回避したからいいやと思いつつ、この状況を脱するにはどうすればいいの考えていると。

「優介」

「ん、え、何…?」

「授業中抜け出してまで俺に話したいことがあったのか?」

俺はもうどうにでもなれと思い、勢いで話を通すことにした。

「…そ、そうだよ!話したかったから来た!そ、それだけだ!」

「…へ?」

本当に自分でも何言ってるか分からない言い訳をしてるということはわかっている。しかしとにかく押し通すことにした。

「今話したかったから…あ、えー会いたかったからだ!」

先生はポカーンとしていた。そりゃそんな顔になります。俺でもあんたの立場ならなる。しばらくして、先生が口を開いた。

「えーと…授業中だけど俺と話したくなって抜け出してきて保健室の前で俺を待ってたってことか?」

とんでもない男に聞こえるがとにかくそれで押し通すことに決めた俺は頷いた。

「優介…お前…」

「…いやうん今日眠いんだわ…気にし」

「俺の事そんなに好きなのかー!あー何この子、最近はデレ期なの?優介」

「な!ちょ、はなし!」

「えーやだ」

突然抱きつかれた。予想外の展開に俺は困惑しながら離すようにうながした。しかしなかなか力も強く離れることができなかった。

「俺に会いに来てくれたんだろ?」

「違、いや、とにかく離してくれ!」

これは島崎優介じゃなくても声を出すだろう。そんなことを考えていると声が聞こえてきた。

「おーーい!蒼夜兄ちゃーん!優介ー!」

秋の声だった。校庭だったし、俺の嫌がる声も大きかったため秋が気づいたのだろう。駆け寄ってきた秋に俺は助けを求めた。

「あ、秋、助けてくれ」

「ん?また蒼夜兄ちゃんと遊んでるのか?なんだー体調の方は治ったのか!良かったぞ!」

「いや遊んでな…」

「んー治ってよかったね、優介、俺に会えて治ったんだよなー?」

「??」

秋は不思議そうにこちらを見つめた。俺はとにかく物語を守れたからこれはこれでもういいやと思い。しばらく先生に捕まっていた。



3話終

登場人物

島崎優介(主人公)

原谷秋

安井蒼夜


佐藤結(漫画の中のヒロイン)

山本夏希…ヒロインの幼馴染

矢口奏…ヒロインが恋している相手


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