1話 ここはどこ
「ん…眩しいな…」
いつもならスマホの目覚ましのうるさい音で朝を迎える俺が今日はなんと自分で起きれたようだ。そう思いながら目覚ましがなる前に先に止めようと考え頭の上をまさぐりながらスマホの目覚ましを探した。だがなかなか見つからなく俺は起き上がった。
「なんでないんだよ。俺のスマ…え」
何となくスマホを探してる時になんかいつもとベットの形が違うような気がしたけど、そういう話ではなかった。もう部屋の内装もベットの形も何もかも変わっていて困惑した。
「え?な、ここどこ…てか誰の部屋…あ、あれ…でも」
俺はこの部屋に見覚えがある。確かに見た記憶がある。しかも凄く最近に。だがしかしそれはありえないことでそんなはずがないのだ。なぜなら
「ときめきラブの島崎優介くんの部屋まんまやん…」
妹の少女漫画に出てくるヒロインに恋する男の一人の島崎優介という男の部屋にそっくりなのだ。最近妹に勧められて見てた漫画だったからよく覚えていた。
「え、妹のドッキリ…もしかして…いやとりあえず、部屋出るか…」
ガチャ
「…」
ガチャ
「…いや…え何!?え、部屋以外も変えてきてるのあいつ!?」
開けたドアをすぐ閉めて俺は部屋の中で叫んだ。部屋の中だけならまだしも部屋を出ても全く見慣れない廊下があった。いや見慣れてはいないが見たことは確実にある。やっぱり島崎優介の家だった。起きてから初めて大きな声を出した時に俺はひとつ気づいた。
「俺声変わりしてね?」
明らかに聞きなれた声ではない声が耳に入ってくるものだから困惑した。それから色々自分がおかしいことに気づいた。
「…髪…少し長いな…足ツルツルやん…寝てる間に俺剃られたの…え、嘘だろ」
そう考えているとベットの下に鏡が置いてあることに気づき拾いあげた。
「おいおい、こんなとこに…ドッキリだったとしても置くなよーふんのぼってこわしち…ま……!?」
「うわぁぁっーーー!?!?」
ガチャ!
「ど、どうしたの優介!」
「どぅ!え!?ゆ、優介!?俺のことか!?」
「そうよ!どうしたの!?お母さんびっくりして部屋に入っちゃったわよ!?」
そう言ってお母さんと名乗る女は早く着替えてご飯食べちゃいなさいと言って部屋をあとにした。
「…え、あのお母さん…は…優介の母さん…俺の母さんじゃない…待ってくれ、ということは今の俺は…え」
信じられないことに直面すると人ってこんなふうになるのかと考えながら手元の鏡をまじまじ見つめた。
「…島崎優介…の顔だ…」
そう俺は呟いた。そしてひとつの結論に至った。
「あーーーこれあれだ夢だ。生々しい夢なんだ。そう夢だから、つねっても…痛くな…いや痛いな」
夢ではない。それがわかった瞬間俺はどうしたら元の世界に戻れるのか考え始めた。それと同時にこんなに自分が冷静を失うと動揺することに謎のショックを受けながら、とりあえずこの世界の島崎優介という男でいる間は島崎優介を演じることを心がけた。
しばらくして島崎優介の母さんの声が部屋の外から聞こえてきた。
「ごはん!食べないのー??早く着替えておりてきなさーい!」
とにかく俺はここでしばらく過ごさなきゃいけないことは変えられない事実だ。とにかく周りに合わせて行動して島崎優介という男の性格を思い出すだけ思い出すしかないと考えた。
「はーい!今行くよ!」
そう声を出しながら見慣れない廊下を歩き階段をおりてリビングに向かった。慣れない自分の声が今も違和感でしか無かった。
急ぎご飯を食べ俺はそうそうに島崎優介の母さんに
「ほら!外で秋くんに待ってもらってるんだから早く行きなさい!」
と言い背中を押されながら玄関の前に連れてこられた。
「え、秋くん?」
「なーに言ってるの!とぼけてないで早く!ほら行ってらっしゃい!」
ガチャ
「うお!」
バンッ
思い切り外に出されドアを閉められた。島崎優介の母さんは良い母さんなんだろうが今の俺にはもう少しソフトな母さんの方がいろいろやりやすかったなと考えながら声のする方向に目をやった。
「何玄関の前でぼーっとしてるんだよ!お前眠いのか?ほら行くぜ。」
「え?あ、うん」
「?」
不思議そうにこちらを少しばかり見たあとしばらくして、何事もなかったように元気な声で
「よし!行くか!」
と言い走り出した。俺のせいなのだろう。遅刻しそうな時間まで待ってくれてたのか。そしてこの時思い出した。こいつの名前は原谷秋だ。個人的に好印象なキャラだったから割と覚えていた。
「てか、こいつ…はや…はぁ、はぁ」
The体育会系すぎて追いつくのが大変だった。いつもこの島崎優介はどうやって追いついているんだ…同じ体のはずなのにと考えながら少し離れ前にいた秋がスピードを落として俺の横に来た。
「はは!相変わらず体力ないな!優介は!でもいつもより調子が違うから仕方ないのか!ほら急げ急げ!」
そう言って彼は俺の手を引いてさっきよりスピードを落として走ってくれた。それより調子が違うという言葉が気にかかった。大した会話もしてないのになにか気づかれたのかと。でも当然なのかもしれない。確かこいつは島崎優介の幼馴染であり親友キャラだったはず…うん多分…だから些細な違いも気づいてしまうのかなと考えながら走っているうちに学校の校門の前に着いたようだ。
「はぁ、はぁ、疲れた…」
息つく間もなく秋が
「急ぐぞあと3分でなるみたいだからチャイムが☆」
「うえ?ちょ、待っ…」
いつぶりだろう。こんなに走らされたのは。漫画っぽい展開だがもう二度とこんな展開はごめんだと思った今日この頃の俺だった。
そうして俺と秋は2年A組と書いてある教室に入っていった。息を切らしながら入る俺とは相対的に秋は大して疲れていない様子で教室を開けて
「みんなおはよ!いやー優介が久しぶりに寝坊したみたいでな」
そう言いながら教室に入る秋を見てクラスのムードメーカーでもあるということがだいたいわかった。
とりあえずそのまま流れ的にも俺も笑顔のひとつくらい添えて挨拶すべきなのかと思い
「みんなおはよー」ニコッ
「「「「え?」」」」
「え?」
何事だ。俺が挨拶しただけでこのリアクションは流石に酷くないか?こいつなんかしたのか。いやそんな話は漫画にはなかったはず。やばい何かやらかしたのか。優介の独特の挨拶方があったのか、もしかして…おはっぴーとか…いや多分違うわ。そんな思考を巡らせてると
「ゆ、優介!お前…みんなに挨拶できるようになったのか!」
そう秋は大きな声で俺に満面の笑みを向けてきた。今この瞬間島崎優介というキャラを大きく変えしまったのかもしれないという焦りが出てきた。そうこう焦っているうちに担任と思しき人物が教室に入ってきてみんな席に着き慌てて俺も空いた席に座った。ひとつしか空いてなかったためどの席が優介の席か見つけやすくて助かったと思いながら
「はーい。号令ー」
そして秋が号令を始めた。
「起立!礼!」
「「「おはようございます」」」
ホームルームが始まるやいなや俺は、情報を整理する必要性を感じたため朝のホームルームを聞かずこの時間を使って、今日の出来事をふまえながら島崎優介について考えることにした。まず秋は学級委員長らしい。そして島崎の幼馴染であり親友だ。性格は気さくなやつで元気と言ったとこか、そして島崎優介についての性格情報はまだ掴めていない。とりあえずみんなに挨拶するタイプの明るいキャラではないことは確かだ。さっきのクラスのリアクションと秋の反応で明らかだったしな。
なぜ俺がここまで島崎優介知らないのか。正直それは仕方の無いことだった。このキャラは『ときめきラブ』に確かに出てきていてヒロインに想いを寄せる男の一人だ。しかし、まだそこまで登場シーンが最新巻でも出てきたばっかで、あまりに少ないキャラなのだ。前から学校自体にはいたが、ヒロインとの出会いがなかったのだ。つまり新キャラみたいなものなのだ。俺は呟いた。
「クソ…まずここは俺の知らない最新巻の続きのように繋がっている世界なのか…それとも俺が読んだ過去の漫画の数巻ある中のどこかの話なのかだけでも掴めれば…」
そう、それだけでも分かれば動きやすくなる。ヒロインに恋した後なのか。それとも前なのかによって俺の行動も変わってくるからだ。恋に落ちるだいぶ前だと分かれば俺はヒロインに近づかない。なぜなら割と最新の巻で島崎優介はヒロインと出会い恋に落ちるからだ。もしこの世界でまだヒロインと島崎優介がまだ相手を認知し合っていない世界なら俺はここでヒロインにすれ違うことはあっても、なにかアクシデントを起こしては決していけないのだ。起こした瞬間漫画と違う内容になってしまうからだ。だが俺がいちばん困るのは結局は最新巻の続きの世界に飛んでいるとしたらだ。なんの情報もないまま俺のストーリーになるだけだからな…。俺がこの世界に来て最初の願い事は、『ヒロインと島崎優介が出会う前で俺が読んだことのある漫画の世界でありますように。』ということだ。これならヒロインのヤツらの周りで俺関連のアクシデントを起こさない限り漫画のストーリーとして書かれることは無いだろう。それならそっと生活しながら、現実に帰る手立てを探せばいい。そうこう考えていると担任であろう先生が話を終えたようだった。
「…ということで、ホームルームは終わりだから次の授業の準備するんだぞ」
「「「はーい」」」
俺は考え事をしていたせいで、全くホームルームを聞かずに朝の時間は終わっていた。
1話終
今回の登場人物
島崎優介…主人公(長谷悟)。島崎優介としてこの世界に飛ばされた男
原谷秋…気さくで元気いっぱいな学級委員長。島崎と幼なじみで親友。
時間がある時に少しづつアップしていきたいと思います。これからBL展開になっていきますのでそこをご注意ください。