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0-9 キスか吸血か

「お話があります!」


「どうしたの?私のリズ」


「ちょっ!チューはなし!」


1つのベッドに向かい合うように座る。

自室に戻ろうとしたら、クリシュラの部屋に連行されたのだ。

だけど、私には言わないといけない事がある。

早速、と顔を近づけてくる彼女を押しのける。


「チュー禁止!」


「えっ…なんで…」


「なんでって……そういうのは恋人がするもんだし…」


「ん?リズは私の寵姫なのよね?」


「えっと…うん」


そういえば寵姫がどういう意味なのか知らない。

深く考えずに言ったのだ。

クリシュラの望むことならなんでもするつもりだったからそれで問題ないと思っていて。


「まさか、寵姫の意味分かってない?」


「その…えへ?」


「…リズ………あなたね……」


「でも、大親友とかそういうのなんでしょ?だったらいいかなって」


「寵姫っていうのは…吸血鬼に血を吸われて変容した人間のことよ。普通は吸いきって殺すからあまり生まれないのだけど…吸血鬼が少しだけ血を吸って、その分血を入れれば人間も吸血鬼に近い寿命を得られるの」


そういえば吸血鬼は無限に近い寿命を持つんだとか…なるほど。


「ただ、寵姫は滅多に生まれないわ。吸血鬼にとっても人間を不死にするのはリスクだから…一生ずっと一緒にいたいと思った相手にしかしない。」


何となく、理解して。

自分が言ってしまったことの意味の大きさを今更自覚して。

頬が熱い。きっと耳まで真っ赤に染まっている。


「人間で言うところの夫婦。かしらね」


「うぁ………」


「知らなかったとはいえ、ナシにはしない約束よね?」


「それは…うん」


「じゃあキスして、リズから」


クリシュラも真っ赤になっていた。

ただ、その瞳が不安そうに揺れていて。


ダメなんて言えるわけなく。


唇に狙いを定めて、顔を近づける。

緊張して、心臓がうるさくなる。

恥ずかしくてとりあえず目を閉じて、そのまま前に。


ちゅ、と微かに唇が触れて。


「おしまい!」


「えっ…これだけ…」


残念そうなクリシュラの声がするが、その顔には不安の影はもうなくて安心する。

心臓がバクバクうるさい。

クリシュラは不満そうだけどこれが多分今の許容限界なのだ。

理解してもらわないと、せっかくのイチャイチャも辛くなってしまう。

だから、勇気を持って。


「その…これがね限界なの…」


「えっ…ちょ」


彼女の手を誘導して、心臓の鼓動が聞こえるところへ。


「分かる?」


「思ったよりも柔らかくて…」


「なんの話…?心臓がね…もう限界なの」


「…そっちね…ええ…すごくドキドキしてるのね…」


「…うん。だからね…これ以上ドキドキされることしたらもう困っちゃうの…」


「………」


「だからね…頑張って慣れるから。クリシュラのして欲しいことなんでもしてあげるから。それまでゆっくりして欲しいなって…無理矢理舌入れるのとかちょっと怖かった…」


「…………………」


言えた。

クリシュラはなんだか感動している?のか目頭を抑えてて。


「ごめんね。ゆっくりね。わかったわ」


「…うん!」


「じゃあ、キスしていい?」


「今日はもう…明日なら…」


「わかったわ…なら添い寝は?」


「変なことしない?」


「………もちろん」


「なんで渋ったの…いいよ。一緒に」


ということで一緒に寝ることになって。

結局ベッドの中で手を繋ぎながら寝ることになった。

それだけでとっても幸せで、私は満たされて。


「リズは?」


「何?」


「リズは私にして欲しいこと、ないの?」


もちろんある。

ハグとか。

ただ、キス規制をしておいてあんまり大きなことは言えない。


「頭…撫でて欲しい」


色々選択肢があるなか、私が選んだのは、彼女の手で頭をなでなでしてもらうことだった。


「仕方ないわね」


なんて、言いながらクリシュラの手が頭に触れて。

幸せな感触が訪れる。

よしよし、とクリシュラ声がして、それも心地よくて。

結局そのまま寝付いてしまった。

とっても幸せな時間で、満たされる。


「ねぇクリシュラ」


「んー?」


「私の血、吸わないの?」


「………いいの?」


「いいよ」


「キスはダメなのに?」


「血くらいいいよ。飲みたくて仕方ないんでしょ?」


どうやらクリシュラの中では血を吸うことはキスよりも凄いことらしい。

でもそのバランスは私の中では逆だからどうってことない。


肩紐をずらして首筋をあらわにする。

ごくっと唾を飲み込む音は間違いなくクリシュラから聞こえて。


「いいのよね?」


「どうぞ」


痛いのには慣れてる。

だから、痛みに耐えるだけ。


なんて、考えはただの勘違いだった。


首筋を舐められて、


「ひゃっ!」


そのまま牙が突き立てられる。

チクリと傷んで、牙が肉に沈む感触がして。

血が流れる。クリシュラがそれをちゅうちゅうとすい始めて。


「えっ…ひゃぁ…くぅっん…や♥」


全身に未知の感触がきた。

頭を撫でられているような気持ち良さが全身に巡って、あまりの気持ちよさになんにも考えられなくなる。


自分の口から、自分でも聞いたことない声が漏れて。

恥ずかしいのに、それがどうでも良くなるぐらいに気持ちよくって。


「ご馳走様…傷口は治しておくわ」


クリシュラが離れていく。

あの暖かい感触が無くなる。寂しい。


「やだぁ♥もっとぉ」


「だめよ…これ以上吸ったらリズが辛くなる」


物足りなさで、とりあえずくっつきたくなる。

クリシュラに抱きついて、髪に顔を埋めてみる。

いい匂いがして、幸せだけど足りなくて。


「……くりしゅらぁ…ちゅーしよ?」


「えっいいの?」


「んちゅー♥」


「なにこの子可愛い…ちゅっちゅっ」


急に眠くなって、意識が薄れていく。

クリシュラの唇の温もりを感じながら意識を手放した。



翌朝、ツヤツヤのクリシュラに教えて貰った。

吸血には強い酩酊効果があるらしい。

だから、まず間違いなく痴態を見せてしまうのだとか。

だから、キスよりも遥かにハードルの高い行為で。


昨日のリズとっても可愛かったよ。


なんて言われたけれど、結局恥ずかしさでその日1日まともに話せなかった。


だけど、思う。

幸せだなと。

この時が永遠に続けばいいのにと。


序章 了

序章終わりです。

ここまでお付き合い頂いた方、誠にありがとうございます。

いかがでしでしたでしょうか?と言えるほど書いてませんが、イチャイチャ部分はこのテンションのままのつもりです。

まだ見ぬダーク要素と能力バトル要素がここからぶち込まれる予定となっています。


次回予告のようなものを。


第一章から学園モノになります。


クリシュラと共に魔族用の学園に入学するリズベット。

ただ、魔族の価値観は人間のそれとはまるで別物。

クリシュラの横を歩むと決めたリズベットは自分に足りないものを理解する。

一方、クリシュラはクリシュラで厄介な事態に巻き込まれる。


魑魅魍魎跋扈する学園で果たして百合の花は咲くのか。

咲かせます。

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