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0-6 落雷と添い寝と不埒

「好き」


その言葉が意味するものは何だろうか。


家族として好き。

友人として好き。


それとも、愛する相手として好き。


昨日泣き虫だったリズベットは、今日は別の生き物になっていて…例えるなら男の子だろうか?

彼女は勿論女の子なのだけど、釣りが好きだったり、土を掘って虫を捕まえたり、あどけない笑顔をくれたり、無垢な少年の様で。


だから、私はお姉さんのつもりでいた。

無垢な少年を見守ってあげる役目だと思っていた。


だけど、リズベットにとって私が初めての友人であるように、私にとってもリズベットが初めての友人で、

やっぱりリズベットは男の子ではなかった。


額に触れる。

まだ彼女の体温が残ってる気がする。

ぷにぷにで柔らかかった。

同性なのに、心臓がバクバクする。


不意打ちだった。

唇も。

好き、という言葉も。


冷静になってみれば、彼女がどういうつもりで好きと言ったのか、分からない。

文脈的には、友人として、だと思う。


言葉だけなら、そう受け取っていただろう。


だけど、額に残る熱が、そうとは言ってなくて。


いったい自分はどうしてしまったのか。

初めての友人だからって、こんなに舞い上がるものなのか。

それともリズベットが特別なのか。



彼女はとにかく純粋なのだ。


欲が無くて、他人の事をずっと思っていて、自分の不幸に無頓着で。

だから、こんなに気になってしまうのだろう。


彼女を見ていると自分が卑しく思えてしまう。

今はまだ、彼女に隠したままの自分の下心。


いつかはバレる。その刻限は迫っている。

もし、その時に、彼女に拒絶されたら。


早く朝になって欲しい。

朝になれば、リズベットと会える。

リズベットの笑顔に癒されたい。


閃光で室内が照らされて、遅れて轟音。

どうやら嵐が来たみたい。


雨音は次第に強まり、窓に叩きつけられる水の粒がその激しさを物語る。


その荒々しい曇天は、私の心模様の様で

リズベットに会いたいな…


「リズベット…」


口に出してみると、飢餓感が増す。

衝動が強くなる。

このままリズベットの部屋に押しかけて、コトを済ませて…



「ひゃい!」


リズベットが居た。

雨音で気づかなかったのだろうか…


枕を持って、可愛らしいパジャマ(私が選んだ)を着て、いっぱいに涙を溜めて、居た。


「どうしたの?怖い夢でも見た?」


さすがに子供扱いが過ぎるかもしれないが、リズベットの心は少し不安定な所があって。

ふるふると首をふる彼女に歩み寄る。

泣きそうなリズベットは痛ましくて、それでいてどこか官能的。


抱きしめても嫌がられないだろうか?


過度なスキンシップは良くない、と思いとどまって、頭を撫でてあげる。


「どうしたの?」


何か言いたげな彼女をよしよしと落ち着かせて、あとは待てばリズベットが口を開いてくれる。

その時を、髪の毛の感触を楽しみながらまって。


「……お願い権………一緒に寝よ」


短い、2つの言葉。


「えっいいの?」


反射的だったとはいえ、なんて返し。

これじゃあまるで私がリズベットに不埒な事をするかの様で。


その時また轟音。

稲妻が落ちた、その副産物。

リズベットの肩が、ビクリと跳ね上がる。

ブルブルと震えて、

ここでやっと理解した。


「大丈夫よ…大丈夫……」


ゆっくり、頭を撫でる。

次第に震えが収まる。


そのまま、私のベッドに寝かせて、その隣へ。


すぐ隣にリズベットがいると思うと落ち着かない。

彼女のお日様みたいな匂いがして、毛布が彼女の震えに合わせて僅かに動いて、そこにいるんだと教えてくれる。

ベッドは大きくて、2人が寝転がってもあまりある広さがある。

だから、こうして2人で入っても触れあうことは無かったのだが。


ゴロゴロ、と再度落雷。


「ひゃう!」


この悲鳴は、リズベットのもの。


「っ…お…わ…」


このうめき声は、私のもの。


飛びついてきた。ベッドの中で。

薄い寝間着越しにリズベットの体温がする。

私の胸に顔を埋めて、手が、彼女にしては珍しく、強く腰に巻きついていて。

リズベットからのハグ。

可愛いいやら、嬉しいやら、予想外やら、リズベットは思ったより肉がついてて柔らかい部分はしっかり柔らかいんだななんて思って。

出たものか私のうめき声。


腕の中でカタカタと震える存在は、やっぱり弱々しい。

優しく、背中をさする。

だんだんと落ち着いていく様子を感じる。

嵐はしばらくはこの周辺を襲う様で、何度か繰り返すことになるだろう。


そう思っていたけど、リズベットは安心したのかすぐに寝入ってしまう。

しかも、私に抱きつきながら。


無論、嫌ではない。

だけど、一度湧いてしまった不埒な発想が頭に残っていて、それをするのはリズベットを裏切るのと同義でそんなこと出来なくて。

ただ、悶々と過ごして、気づいたら寝ていた。

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