2-4 離れていたから
暇だなぁ…
クリシュラの居ない日はとても退屈だった。
バトラーさんにお願いして、自室の掃除をさせてもらい、それが終わればまた手持ち無沙汰。
やることも無く、ソファに沈むように座るだけ。
クリシュラの為に何か出来ることはないか…思案するがいい案は思いつかなかった。
例えば料理。
クリシュラの為に美味しいものを用意して待つ。
案としてはいいのだが、リズベットに料理の腕も知識もなければ、バトラーさんが普段から作ってくれるものを超える物など作れるはずもない。
じゃあどうしようか、と悩み始めて、結論は出ないまま。
「う〜」
唸っても答えなど出ず。
コンコンと扉がノックされ、バトラーさんがお茶を運んでくれる。
そうだ、思いつかなければ聞けばいいのだ。
リズベットはしたり顔でバトラーを迎えた。
+-+-+-+
所変わって衣装室。
クリシュラのお古(一度も着ていない物も沢山)がずらりと並ぶ。
クリシュラと入った時は彼女に言われるがまま服を着ていたが、今回は自分で選ぶ必要があった。
バトラー曰く、
お嬢様はお疲れになって帰っておいでになると思われます。ですので、お嬢様を癒して差し上げればどうでしょうか?
それとお嬢様は可愛らしい格好を好まれます。
衣装室の服でしたら自由にして頂いて大丈夫ですので着替えるのも手かと。
なるほどと思って衣装室に来たのは良いが、如何せん難しい。
そもそもここに並ぶ服は全部がリズの1年分の給金を遥かに超える値段のものばかり。
手垢が着くのすら恐れ多くて、物色すら出来ない。
「あ、これ」
目に着いた服は、以前クリシュラに着せられたものだった。
短いスカートに、レースのついた純白ブラウスは肩口までしかない。
真っ赤なリボンがアクセントの少し露出の多い服。
思い出されるのは可愛い可愛いとすごく褒められて、恥ずかしくて、とっても嬉しかった記憶。
これにしよっと。
着替えて、姿見で自分の姿を見やる。
服は可愛いが、そのせいで自分なんか釣り合って無いように思える。
それに、ノースリーブだと黒く変色した腕が目立つ。
その中央に巻き付けられた真っ白なリボン。
やっぱりやめようかな
逡巡したが、どのみち手を隠せる様な服はない。
結局この服にすることにした。
+-+-+-+
またしても暇である。
クリシュラはまだ到着しない。
そして、色々悩んだ結果、あまりの寂しさに耐えきれずクリシュラの部屋に来ていた。
服が皺にならないように気をつけながらクリシュラのベッドに侵入する。
枕を手に持ち、左右をみて誰もいないことを確認してから、顔を埋める。
クリシュラの匂いがした。
「クリシュラぁ…クリシュラぁ…」
呼吸をする度に、彼女の香りが鼻腔を充たして、ハグされている時を思い出す。
だけど、やっぱり残り香では物足りない。
「クリシュラぁ…まだなの?」
深呼吸をしながら待ち人への想いを焦がす。
寂しさを枕で紛らわす中、冷静な自分もいた。
もし、こんな所クリシュラに見られたら。
きっと、笑われるだろう。
そうなったら恥ずかしくて生きていけない。
「クリシュラぁ…クリシュラぁ…」
「……………………………どうしたの?」
残り香が返事をした。
枕でリズベットの頭がトリップした…訳ではなく。
顔を上げると、バルコニーから窓越しにこちらを見るクリシュラと目が合う。
目があって。
急激に顔に熱が籠る。熱くて熱くてたまらなくなる。
取り繕って、お帰りを言おうと、枕を置けば。
クリシュラの全貌が目に入る。
今朝見送った時のドレスはズタズタで、特に胸の部分、ハグの時にいっつも気持ちいいところが、もうモロ見えなのだ。
綺麗だな、なんて思ってる間もなく。
顔に集まる熱は限界を超えて、目も合わせられなくなる。
だけど、クリシュラもそれは同じだった様で、すぐに綺麗で大きなそこは隠されてしまう。
ちょっぴり気まずい空気の中。
それでも待ち人に会えた嬉しさは本物。
「……お帰りなさい」
「……うん、ただいま」
挨拶を交わせば、嬉しさが込み上げてきて。
ぱっと顔を上げれば、胸を隠す恥ずかしそうなクリシュラ。
真っ白な肌のせいでよくわかってしまう頬の赤さは羞恥の証。
目が合えば朱は勢いを強めて。
「ごめんねリズ、ちょっと目閉じてて」
とりあえず、目を閉じた。
+-+-+-+
なんで服がボロボロなの?
なんで窓から帰ってきたの?
色々聞きたいことはあったが、それよりも自分はクリシュラを癒す為に着替えたり準備したのだ。
だから疑問は後回しにして。
「クリシュラ」
「何かしら?」
「お疲れ様」
ソファに座るクリシュラに、いつも自分がしてもらう様に、その頭を優しく抱きしめる。
身長的な問題で、何だか襲いかかっているような姿勢に見えなくもないが、そこは気にしない。
胸を押し付ける様な姿勢も、かなり恥ずかしいが、我慢する。
「ちょっ…」
頭をよしよしして。
背中をとんとんする。
「よくは分からないんだけど…とっても頑張ったんだってね…」
バトラーさんから何となくは聞いた。
かなり厄介な相手に話をしてきたとか。
そのせいでかなり疲れているはずだと。
だから恥ずかしさを捨てて、ねぎらう気持ちでクリシュラを甘やかすのだ。
「凄いね。偉いね」
やがて、クリシュラの身体から力が抜けていく。
私に全部預けるように。
……それととって変わるように、胸元に感じる鼻息が強くなった気もする。
クリシュラの髪に指を這わせると、絹よりも滑らかでふわふわでずっと撫でていられる。
「よしよし」
クリシュラは無言でされるがままだった。
何だかそれが無性に可愛らしくて、もっと甘やかしたくなる。
「えと……チュー……する?」
「する!」
「ひゃっ…ん」
急に元気よく返事されて、胸元にかかった息がこそばくて変な声が出てしまう。
「…したい、けどもう少しこのままがいいわ」
「…ぅひゃ…うん」
私の貧相な体でもクリシュラには気に入って貰えたみたいで、恥ずかしさを堪えている甲斐がある。
ゆっくりと時間が流れる。
クリシュラのぬくもりを感じる。
癒されて欲しくて、なでなでする手は止めず。
たっぷり30分はそのまま。
やっとクリシュラが動いた。
膝に私を座らせて、顔と顔がすぐに近くで。
言葉は要らなかった。
唇と唇が重なる。
いつもみたいに激しいチューではない。
くっつけるだけのチューから、クリシュラの唇が動く度にその動きを受け入れていく。
甘えるクリシュラに甘やかす私という構図は普段とは違って。
だけど、そんなクリシュラはやっぱりとっても可愛かった。
ねちっこいキスは続く。
離れ離れの時間を埋める様に。
ただの数時間程度の別れにも関わらず、2人の熱は留まることを知らず。
そのまま2時間ぐらいキスし続けて。
惚ける私。
いつしかクリシュラに責められるだけになっていて。
「私の為にお洒落してくれたの?可愛いわよ、とっても」
むき出し太ももを撫でられて、ぞくぞくぞくとした初めての感覚が脳を麻痺させる。
しゅるり、という音は胸元を飾っていたリボンが解かれた音。
ぶちっ、ぶちっ、という音はボタンの上2つが外された音。
血を吸うのかな、と思いきや、その手は第3ボタンへ。
「なん…で、脱がすの?」
「………」
無言のクリシュラは何となく有無を言わせぬ圧があった。
ブラウスのボタンが全て外される。
きっと、甘やかす決意がなければとうに逃げ出していただろう。
「もう1回ぎゆってして」
クリシュラの口がそう告げる。
今日の私はクリシュラのおねだりを断れない。
だから仕方ないのだ。
「今日だけだから…」
先程とは違って、クリシュラの肌と吐息が直接肌を撫でる。
びっくりするぐらい恥ずかしくて、気持ちよくて、しばらくそのままでいた。