変身
ベッドの下に入れておいた袋を取り出し、中身の確認をする。
ピクルス、干し肉等の保存食。
使いなれた弓矢と獲物さばき兼戦闘用のナイフ。
蝋で防水加工を施したマント。
仕留めた獲物の毛皮やら爪やらを週に一度やってくる行商人に売って貯めたらお金。
野宿用の鍋と火打ち石。
塩等の調味料が少々。
予備の服。
包帯や消毒薬などの応急処置セット。
うん、全部揃ってる。
最後に、クローゼットの奥からこの日のために仕立てた、男物の服を取り出す。胸を潰すための布も忘れずに。おかしな所がないか、一回着て確認しておいた方がいいだろう。でも、その前にもう一つやることがあるから、その後で。
ベッドの上に並べた袋の中身からナイフを取ると、「艶やかで美しい」と評される髪をうなじの後ろでばさりと切った。部屋の隅にある鏡を見ながら毛先の調整をする。切った髪はまとめて縛り、他の荷物と一緒に並べる。
「できた。」
割れかけの鏡に映るのは、(元)家族の誰にも似ていない(当たり前だ)、少しくすんだ銀色の髪と藍色の瞳。整ってはいるものの、元々「可愛いげがない」と称される顔は、短い髪と相まって、「男装」という言葉を少しも匂わせない「少年」の顔になっている。
用意した服と合わせてみれば、そこにはもう、『リーナ』はいない。
「絶望なんか、絶対しない。酷い目にも、あってやらない。」
ざまあみなさい、前世の自分。あんたのストレス解消なんか知ったことじゃないんだから。