ダグラ船長
カンカンカンカン
金属の足場をユールは走っていく。
「はっ…、はっ…、はっ…」
「ユール! ダグラ船長が呼んでたぞ!」
「はい! 今向かってる所です!」
「寝坊か? 良い言い訳でも考えとけよ!」
「はい!」
走るユールに船員が笑いながら声をかけた。
「もっ、もう少し…」
少し前に扉が見える。
「はっ、はっ、…はぁ。 着いた…」
その扉前まで来たユールは息を整えた。
「…よし、ふぅー」
緊張した様子で扉を開ける。
「ユール・ハネット! 只今見張りの交代に来ました!」
ぴしっと、精一杯に背を伸ばしながら彼は大声で叫んだ。
「ユール、遅れた理由は何かあるのか?」
直立している彼に低い声でダグラは問いかける。
ダグラは短髪の筋肉質な体つきの巨体で、いるだけで威圧感を放っている。
「はい!ダグラ船長! それが…装備の手入れに時間がかかってしまって…。その…」
「ほう?」
目が泳ぎながら話すユールにダグラは一言だけ返した。
「そ、その…。それで…」
「…」
「すみませんでした!寝過ごしました!」
変わらず無言で見つめてくるダグラにユールは折れた。
「…はぁ。 そんな事だろうと思ったぞ、お前は只でさえ分かりやすいんだ。 無駄に嘘をつこうとするんじゃない。 誠意をもって謝るんだ」
「は、はい。すみません」
そう諭すダグラにユールは、申し訳なさそうに返事をする。
「さて、お前には後で罰を受けてもらうとして…」
「うぇぇ」
「そんな嫌そうな顔をしても駄目だ」
抗議の表情をするユールにダグラは言い切った。
「それで、どうしたんだ。 本当に寝過ごしたのか?」
「それが…変な夢を見たんです…。 ジグにも聞かれましたが思い出せなくて…。水の中に居たような…」
「船乗りが水に落ちる夢か? 演技の悪いことだな」
歯切れ悪く言うユールにダグラは、豪快に笑いながら言った。
「まぁ、夢の事など気にしても仕方がない。 それより見張りに行け」
「船長が聞いてきたんじゃないですか…」
ユールは疲れた顔で言った。
「今見張りはエミルが代わりにやってくれているからな、後でちゃんと謝っておけよ」
「へっ!? それを先に言ってくださいよ!」
ユールは飛び上がって走り出した。
「では、見張り行ってきます!」
「おう、気を付けろよ」
扉の前で言うユールにダグラは言った。
ばんっ、と言う扉の音と共にユールは走り出した。
暫く走っていると先ほどダグラから呼び出されていることを伝えてくれた船員が話しかけてくる。
「ユール! 言い訳は通じたか?」
「ギリムさん! もっと良い作戦はなかったんですか!」
言い訳は失敗だったとユールはギリムに抗議した。
ギリムは長身ですらっとした体つきをしている。
その顔はいたずらに成功した子供のように笑っていた。
「ははは、やっぱり駄目だったか」
「騙したんですか!」
「騙してなんか無いさ、俺はお前の可能性を信じてたよ」
手をひらひらとさせながらギリムは言った。
「それより、ここで時間を食っても良いのか? お姫様が待ってるんだろ?」
「あっ、そうだった!」
はっとしてユールは走り出した。
「それとあいつはお姫様なんて柄じゃないですよ、女王様の方がよっぽど似合います」
「ははっ、違いない」
走り去っていくユールにギリムは言った。