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7ページ目 姉役ができました。

この調子でいくと13ページでは終わらない可能性が出て来ました……

 あのあと、制服である若葉色のワンピースと白いエプロンを貰って、早速お仕事をすることになりました。靴も支給されて、焦げ色の革靴に履き替えます。髪も結い直して、準備は完了です。


「フゥリの仕事はそう難しくないよ、14歳仕様だから。でも何かあったら、ちゃんと姉役のローナに言うんだよ」

「姉役って、何ですか……?」

「直接世話を見る女性先輩のことを言うのよ」


 横から聴こえて来た張りのある声に視線を向けると、あの青い瞳の女の子がいました。

 座っている時には気付かなかったんですが、背が高かったんですね。165cmくらいあるんじゃないですか……? 彼女は赤みがかったふわふわの長い金髪を払うと、腰に手を当てて私を見下ろして来ます。


「私がローナよ。私も団住みなの、よろしくね」

「フゥリです。よろしくお願いします」


 改めてみたローナさんは、ストロベリーブロンドに瞳とお揃いの青いリボンがよく似合う美人さんです。睫毛までぱっちりきらきらしていて、お肌も真っ白すべすべで、まるでお人形さんのよう。


「ローナは15の時からここで働いてて、もう3年になる子だよ。仲良くね」


 ということは、実年齢私より下なんですか……そうですか……めっちゃスタイルいいですね……

 思わず自分のお腹を触っていたら、セレンさんとローナさんふたりから不審そうにされました。


「何、まだ調子悪いの?」

「いえ……世の不条理を嘆いていただけです」

「何言ってんの? まだ14なら、これから伸びるわよ」


 残念ながらそれは設定であって、現実にはこれ以上伸びることはほぼないんです……! セレンさんがローナさんの死角で苦笑していますが、私にはばっちり見えていますからね!




 私のお仕事は、テーブルの準備と片付け、お掃除とお皿洗い、あと手がいっぱいになってるところの助っ人役、ということになりました。手がいっぱいといっても、やるのは野菜の皮剥いたり切ったりするくらいだそうです。


「掃除道具はここ。次に使い易いように、ちゃんと綺麗に片づけて」

「はい」

「お皿は洗ったら、しっかり水切りしてから拭くのよ。洗剤が無くなりそうになったら、早め早めにセレンさんに言うのよ。セレンさん、備品管理も担当してるから」

「はい」


 言い方は高圧的ですが、ローナさんはなかなか丁寧にお仕事を教えてくれる方でした。張り切っているんですね、いちいち得意げにしている様が、その見た目と相まって寧ろ可愛らしくもあります。


 カガリさんはセレンさんが面倒を見てくれると言っていましたが、当のセレンさんは少し離れたところでお昼ご飯の下準備をしています。ついさっきまでは大量の抹茶色のニンジンの皮むきをしていたのですが、今は早業でカット野菜を大量生産しています。

 私はローラさんと一緒にお皿を拭いていますが、先程からその匠の業が気になって気になって仕方がありません。


「セレンさんって、凄いですね……」

「スープの第二監督係だもの、立場としては騎士一部隊の副隊長と同等よ」

「え、調理師にも階級があるんですか?」

「当り前じゃない。云千人規模の食事の準備をしているんだもの、纏め役がいないとてんやわんやになるわよ」


 なるほど、納得です。私は伸びのついでに、食堂内を見渡しました。

 騎士団は大所帯なのに、席は精々500程です。なので騎士様たちは時間をずらして交代で利用するしかなく、常に誰かが何処かの席に座っています。


「ローナさんは役職とかあるんですか?」

「私ぃ? 特に名前は着いてないけど、強いて言うなら肉係かしらね」

「肉係……」


 なんだか物々しいワードが聞こえて来ました。想像が着かなくて絶句している私に、ローナさんは手を動かしながら教えてくれます。


「その日のスープに使う肉の下拵え全般を担当しているの。仕入れは流石にセレンさんたちがやるけど、捌いたり叩いたり塩コショウをもみ込んだりは私の担当。時々野菜係を手伝うこともあるけど、基本的にスープ部隊の肉係よ」

「スープ部隊の肉係……」

「そう、セレンさんはスープ部隊の副隊長なのよ……」


 遠い目をしてローナさんが語ってくれるセレンさんは、まるで歴戦の猛者のようです。


 ちなみに、私に役職名を着けるとしたら『雑用係見習い』と、そのまんまな名前を言われました。




 休憩時間に、セレンさんにお買い物に行ってみたいと相談してみました。


「買い物? なら今度の休み、合わせてあげるからローナがついてやりな」

「え……セレンさんは……?」

「何よ、私じゃ不満なの?」

「そ、そんなことないです……」


 そんなことはないですが……仁王立ちで凄まれると怖いです。歯切れ悪くなってしまった所為か、ローナさんの目元が険しくなります。


 日本なら何処の街でも買い物ができる自信がありますが、碌に知らない異国というのは出歩くのでさえ不安でいっぱいです。今現在私の行動範囲はこことカガリさんのお部屋と私のお部屋だけなので、尚更です。

 なので、事情を知っているセレンさんについて来て頂きたいんですが……まだお財布ペンダントの使い方もわからないですし。


「ていうか、あんたカガリ様のとこの子なんだから、保護者様について行って貰えばいいじゃない。あのひと、お金持ってるし」

「そんなに親しくない男のひとを連れて、着替えとか下着とか買いに行きたくないです」


 正直にそう言えば、それもそうねと重々しく理解していただけました。

 それにカガリさん、悩んでいたら買い物中なのに飽きて何処か行っちゃいそうなタイプだと思うんですよ。それか適当に見繕われるか。部屋に置いて貰った机やランプからして、センスは悪くないんでしょうけれど。


 なーんて考えていたら、セレンからカガリさんにダメ出しがありました。


「カガリはダメよ。あの男、買い物向かないから」

「え、そうなんですかっ?」

「少なくとも金銭概念がしっかりした男は、引き取ったばかりの女の子に白5つも投げて寄越さない」


 ご尤もなご意見ですセレンさん。お蔭で首がぐんっと重たいですよ、精神的に。


「下手に給料がいいのもあるけど、元々いいとこ育ちのボンボンだしねぇ……大分前に、夜越しの金は持たねぇ主義なんだ、なーんて酔った勢いで言ったアホは確かあのバカだったか……」

「うわぁ」

「呑むのも好きだし、騒ぐのも好きだし……金遣い荒過ぎて、2、3ヶ月に1回は給料日前に貧相な表情してるよ」

「うわぁ……」


 保護された身であれですが、私カガリさんに保護されて大丈夫だったんですか……? めっちゃ先行き不穏になってきましたよ。

 ローナさんなんて、カガリさんのイメージが変わったって愕然としています。


「借金ないだけマシだけどね」


 あ、この世界にも借金という概念はあるんですね。ないに越したことないですけど、借金するひとはするんですね────カガリさんに借金なくてよかった!




 次のお休み、ローナさんがお買い物に付き合ってくれることになりました。




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