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4ページ目 手帳を開きました。

まだテーマに行きつかなーい―ぃー(゜д゜ )

「じゃ、ここ今日からお前の部屋だから」


 そう言って明け渡されたのは、がらんとした隣室でした。間取りはカガリさんのお部屋とそう変わりませんが、ベッドしかないからか、とても広く感じられます。カガリさんのお部屋って、私のアパートの部屋より広かったんですね。


「暫く使ってなかったが、ここ2日は俺が使っていたから風は入れてあるし、シーツも医務室からパクッてきた新しいやつだ。が、あとは知らん」

「あんたねぇ……女の子が使うんだから、ある程度掃除しろって言ったわよねぇ……?」


 窓から差し込む太陽光できらきらと光る埃を見て、セレンさんが頬を引き攣らせています。

 床にうっすらと並ぶ足跡を見ていると、鼻がむずむずしてきました。堪え切れずにくしゃみをすると、流石にカガリさんはバツの悪そうな表情────あ、また。


「っしゅん……ぅううっ」

「────ああ、もう! 日が高いうちに掃除するんだよ!? この季節はまだ夜寒いんだから!」

「だとさ、フゥリ」

「え」

「フゥリは起きたばかりだから、ご飯とお風呂が先! 掃除はカガリがしな。モップは何処へやったの?」


 カガリさんはそっぽ向いて素知らぬ表情をしますが、私は扉の陰にモップとバケツを見つけてしまいました。これは素直に申告すべきか、それとも黙っているべきか。




 ────そんな心配は全くの杞憂で。

 次の瞬間にはそれらはセレンさんに見つかってしまい、結局はカガリさんがお部屋のお掃除をしてくれることになりました。




 セレンさんに貰った新しいワンピースに着替えて部屋に戻ると、床は綺麗な木目調になっていました。窓枠には未だに白いものが見えますが、許容範囲でしょう。鼻はむずむずしません。

 あと……何処から来たんでしょうか。ご飯とお風呂を頂く前にはなかった机と椅子、そしてランプが、窓際の近くに置かれていました。どちらも真新しく、また細やかな花の意匠の施された可愛らしいものです。

 ランプは扉を開ける前から点いているようで、仄かに部屋を照らしてくれていました。暖色光に透ける硝子花は、幻想的で非現実めいて見えます。


 私は椅子を引くと、手帳を広げました。ペンケースから黒のボールペンを取り出し、マンスリーページの眠っていた日付に斜線を入れます。

 コンセントのないこの状況、勿体ないのでスマートフォンは早々と電源を落としてしまいました。なので今の私が元の日付感覚を把握できるのは、この手帳だけです。今度はシャーペンに持ち替え、バーチカルページを開きます。


「えっと、まずは最初の日……」


 2限の予定だった場所に、『異世界トリップ?』と書き込みます。続いて、桃の海で遭難、と。

 本当はあの日の夜に書きたかったのですが、月明かりやスマートフォンのライトだけでは心許なかったので、書くことができませんでした。なので、今日纏めて書こうと思うのです。


 バーチカルは本来、時間メモリ毎に予定、あるいはログを書いていくもの。ですが案内された食堂の隅でご飯を食べている時、周囲から聴こえて来た時間単位は、12時間でも24時間でもありませんでした。

 それに今の私には、授業やアルバイトといった予定はありません。ならばこの欄は、日付を忘れないためにも日記代わりに使おうと思ったのです。


 拾ってくれた、口は悪いけれども中身は案外そうでもない騎士のカガリさんのこと。

 ご飯と服をくれた、優しいお姉さんのセレンさんのこと。

 この世界に馴染むフゥリという新しい名前と、14歳という設定のこと。

 どうして違う世界に来てしまったのか。どうすれば、アパートに帰ることができるのか。


 大学生の深雪冬璃に、何時になったら戻れるのか。


 縦長い枠に文字を埋めていく内に、視界が滲んできました。紙の上に垂れないように食い縛り、目元を袖で押さえ、それでも私は手を動かし続けました。


 そして漸く今日が埋まって。


「…………」


 なんだか、疲れました。3日近くも、眠っていた筈なのに。ぼんやりとシャーペンをペンケースに戻して手帳を閉じると、余計に身体が重くなった気がします。


「…………」


 私は頂いたウサギのぬいぐるみを抱き締めて、柔らかな毛布の中に包まりました。





気を抜くとヒロインが皮肉になっていくのが辛いです.

誰のせい? 私のせい.

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