3ページ目 優しくされました。
頁の色が寒色系のままだわぁ……
ピンクとかに変えてみようかなぁ……(-×- )o
本当の年齢を告げると、カガリさんは零れ落ちんばかりに両目を丸くしていました。が、そこは騎士様、すぐさま我に返られたようです。
「ま、まあ、19はまだまだ青いからな。餓鬼は素直に大人を頼ればいいさ。うん」
「この世界でも19は子どもなんですか?」
「いや、15で成人だ。だがお前はちんまくて子どもくらいしか背がないから、餓鬼だ」
「えぇ……?」
なんだか理不尽なことを言われていますが、今の私は身寄りがない状況です。下手に突き放されでもすると、どうしようもありません。なのでここは、大人しくカガリさんの意見を聞いた方がよいのでしょう。
こんこんっと音がして、今度は女性が戸口に立っていました。ウェーブのかかった綺麗な金髪をしたお姉さんです。
「ああ、起きたの? 具合はどう?」
「おかげさまで……」
「そりゃあよかった! カガリが桃の海から女の子連れて来たときには、こっちもびっくりしたからねぇ」
彼女はカガリさんの頭を追いやると、私の前に膝を突きました。カガリさんが何か文句を言っていますが、お姉さんの耳には届いていないようです。
私は頬や額に触れて来る手にされるがまま。かなり心配をかけていたようで、お姉さんは芽吹き色の目を柔和に細めています。
「本当は医務室が開いていたらよかったんだけど、この間から改装で営業してなくてねぇ。真面な空き部屋がなかったとはいえ、こんな小汚い部屋に2日もいさせて悪かったよ」
「ふつか……?」
あれから、一体何日経ったのでしょう。少なくとも2日は眠っていたということに、私は愕然としました。
慌ててリュックサックからスマホを取り出すと、見事にバッテリー残量0、電源を押してもモニタが真っ暗です。モバイルバッテリーに接続し、もどかしく再起動させます。
「なんだい、それ」
「お前、ちょっと戸を閉めて黙ってろ」
カガリさんとお姉さんが何か喋っていますが、それよりも点いた画面をなぞり、ロックを解除して。
「うそ……」
モニタに並ぶ数字は、最後に見たものと3日はずれていました。自覚すると急に頭がくらくらしてきました。
「なんで……」
「桃の海は人体に不特定多数の影響を及ぼす成分があってな。病を患った奴を回復させることもあるが、健康な奴の夢を蝕んで堕落させることもある。お前も睡眠関連で何か作用していたみたいだぞ」
まさかあのショッキングピンクが、本当にショッキングなピンクだったなんて。そんなところに、ほぼ1日も身を置いていたなんて。
カガリさんに拾って貰わなければ今頃どうなっていたのやら……想像しかけましたが、怖いのでやめておきます。
「いい加減にあんたの名前を聞いておこうかね。私はセレン。ここの食堂で働いているんだ」
「わ、私は、フゥリ、です」
「ああ、春先の雪花と同じ名前だね」
綺麗なお姉さんに可愛い名前じゃないと言われて、何だかくすぐったい気分です。照れていると、カガリさんが視界の端でふっと遠い目をしていましたが、何故でしょう。
「寝ている間に荷物はちょっと調べさせて貰ったんだけど、流石に弁当の残りは臭いとかあるから捨てておいたよ」
「す、すみません……」
「いいよいいよ! 間違って食べて腹下してもいけないからね!」
空のお弁当箱と包みはそれぞれ洗って、今はセレンさんのお部屋で干してあるそうです。その上、私の洋服も洗って下さったんだとか。わざわざそこまでして貰って、私は恐縮しきりです。
確認で、他の中身を並べることにしました。
まずノート5冊組に、シャーペンの替え芯、三分の一だけ残ったペットボトルのお茶。手帳、参考書に、家の鍵、自転車の鍵。ペンケース、サニタリーポーチ、飴玉ポーチ、メイクポーチ、ハンカチ、ティッシュ、スマホ、モバイルバッテリー、笛、キーホルダーライト……あれ?
「私、アルミシートを被っていたと思うんですが……」
「俺が見つけた時には、何も被ってなかったぞ? なんかの白い破片はそこらにいっぱい落ちてたがな」
それは、アルミシートの裏地の白いヤツ(名前わかんない)では。え、アルミニウム溶けちゃったんですか……?
桃の海って、一体全体なんの成分が漂っているのでしょう……
何はともあれ、私は『身寄りのなくて遥々遠い土地からやって来たカガリさんの遠い親戚のフゥリ(14)』ということで騎士団に置いて貰えるようになりました。最後の(14)が余計な気もしますが、私の背丈は大体この世界の13、4歳の平均身長なのだそうです。日本女性の平均身長よりちょっと低いくらいなのに。
少なからず不服でセレンさんにも実年齢を訴えてみたのですが、騎士だからといって誰も彼もが清廉潔白なのではないと、カガリさんを指差しながら諭されました。変なちょっかいをかけられても困るだろうから、未成年ということで保護者をはっきりさせておいた方がいいだろうと。
ちなみに、このごちゃごちゃしているお部屋はカガリさんのお部屋だそうです。2日もベッドをお借りしてしまったことに申し訳ないと思いましたが、同時に騎士に対するイメージが大分変ってしまいました。ひとそれぞれと言ってしまえば、それで終わりですが。うーん。
「遠いところから来てしまって不安だと思うけど、私でもカガリでも、頼ってくれていいんだからね」
「俺もかよ」
「流石に食堂の調理師の身分だけじゃあ、ここには置いとけないよ。あんたが拾って来たんだから、ちゃんと世話みてやりな」
「ったく……しゃーねーなぁ」
カガリさんもセレンさんも、特に詮索もなくそう言ってくれました。怪しいことこの上ないのに……異世界トリップだなんて私も碌に説明できないので、正直訊かれても困りますが。
「よろしく、お願いします」
帰ることはできないとは口にしないふたりの優しさに、私は縋ることにしました。
桃の海はペンのインクとかによくあるとっても目に刺さるピンクで,ショッキングな感じの森で,
甘い幻覚作用のある木の実が時々たわわになっていて,下手に遭難すると永遠に帰って来られない森です.
3話を3日連続で投げるって,白猫的に何年振りで驚きですよ.