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16ページ目 ちょっと深刻なお話でした。

引っ越しって諭吉さんがいっぱい消えていきますね……

初期費用なしに異世界で生きていられている冬璃めっちゃ幸運やわぁ.

「この世界に数字がないのは知っているよね?」

「はい……桃の海と同じくらいには驚きました」

「そうか、あれくらい衝撃なのか」


 それは興味深いことを聞いたと、シバさんは楽しそうです。私は全然楽しくありませんが。


 シバさんは思っていた以上に不思議な方のようです。カガリさんよりしっかりしてそうですけど、それはタヌキ的な意味が強いかもしれません。付き合い方に悩むタイプです。


 お茶で口の中を潤しつつ、内心でそんなことを考えていた私ですが、不透明な眼差しに一度思考を停めました。代わりに、以前カガリさんに聞いた常識を確認します。


「この世界は、財産管理がそんなにきっちりしていないんでしたっけ?」

「ロルトを見て、残金がどれくらいかは気にするけどね。そもそも、自分で計算しようという考えがない。この常識は君たちの世界と違うんだろう?」

「個人ならまだしも、帳簿をつけない組織なんて信じられませんね」


 もしここが日本なら、ネコババ横領し放題です。それに勤勉に見えて何処かずれた人種だから、下手に予算のことを考えすぎて逆に立ち回れなくなるひととか多そう。よく目的と過程を取り違えやすいですし。


 カップの中で揺らめく双眸を冷めた気持ちで眺めていたら、視界の隅でポットが持ち上げられました。注ぎ直されるお茶から、仄かに湯気が立ち上がります。


 シバさんは穏やかな声は、私とは対照的に澱むことなく流れるがまま。


「でもそれが、この世界の当たり前だ。曖昧な記憶に頼り、綿密に先の計画を立てているようで立てていない。君たちに比べて面倒で不便な文化が、当たり前なんだ。だがそんな当たり前を、私たちはどうにかしたいと思っている」

「……今更、変える必要があるんですか?」


 今まで必要がなかったのに、わざわざ導入する理由がわかりません。ないのが当たり前の常識なら、数字なんてなくても問題はない筈です。

 寧ろ煩わしいだけでしょう。利便性に対する期待感よりも、混乱の方が大きいかもしれません。そもそも、受け入れられると本気で思っているのでしょうか。


 胡乱に思って睨み付けても、微笑したままの美貌は崩れません。でも……遠い目ってこういうのを言うんでしたっけ?

 私の困惑が伝わってしまったのでしょうか、カガリさんが珍しく疲弊気味です。


「そう難しい表情するな。俺らは本当に、いい加減に面倒なだけなんだよ、過去の碌な記録もなしに適当に予算を分配するのが。そう大それた問題じゃない」

「確かにこれほど大きな組織なら、苦労しそうですね……」


 執務部、実働部、食堂部、衛生部……その他にも派出所や地方の方も合わせて、毎日千人単位の人間が、騎士団で働いています。今では私だってその一員です。


 考えなくてはいけないのは、単純にお給料だけではないでしょう。実際に業務に関わること、間接的にしか関与しないこと、従業員の処遇に関すること……私がざっくり以上に深く踏み込むのは、非常に躊躇われる領域ですね。あ、でも福利厚生はちゃんと確認しておかないと。


 はあーっと、シバさんが溜め息を漏らします。なかなか大きな幸せが逃げて行きそうです。


「……それに、王立騎士団といっても予算は無限ではない。ただでさえ忙しいのに、年末に血反吐でも出そうな状態で仕事をするのはもう嫌なんだよ」

「充分に、大それて切実な問題だと思いますよ」


 色々と感覚が麻痺してしまっているのでしょうね、現代日本でもなかなか血反吐はないと思いますよ。それより酷いことは偶にニュースから聞こえてくることは……あるにはありましたが。


 それにしても……どうしようかなぁ。私だけでもイレギュラーなのに、数字まで混ぜてしまって大丈夫なんでしょうか。

 ただの新しい記号だと言い切ってしまえばそれまでですが、一応、歴として、私の世界の文化です。


 地球ではお互いの存在をわかっていて、和洋中に限らず文化の融合はよくありました。しかしカガリさんたちはあちらのことを確認しているわけではありません。


 外来種(わたし)在来種(かれら)に下手な影響を与えたりはしないのでしょうか……?


「おいこらカガリ! 主任はいいとして、お前はそろそろ働け!」


 突然ガラス戸が開き、私は肩を跳ねさせました。ああ、ここで暮らしていくのなら、いい加減に慣れないと。

 ばくばくと煩い胸元を押さえる私を余所に、手で紙束を握り締めたフラムさんは鬼の形相です。何か問題でも起ったのかもしれませんね。


「このままじゃあ、今週分終わらんぞ! お前のが終わらんと俺のも進まん!」

「なんでシバはいいんだよ」

「私は今日の分は終わっているから」


 何がそんなに衝撃的だったのでしょうか。涼しいトーンのシバさんに、カガリさんとフラムさんが愕然と表情を向けます。


「どういう」

「今日も魔女の店に行ってたのにか!?」

「信じられんよな!?」

「まだ終わってない君たちの方が信じられないよ」

「相変わらず厭味な奴だな!」


 ……私を置いて勝手に話を余所に進めないで欲しいです。というか今、私の台詞を遮りましたねカガリさん!


 視線でカガリさんに訴えかけてみますが、机の上にあったお菓子を差し出されました。お皿の上に真っ赤が山盛りはなんなのかと訴える間もなく、そのままお話はお仕事の内容になります。


「…………」


 私だって、もう19ですからね。もうすぐ大人ですからね。いきなり訳のわからない話をされたくらいじゃ拗ねませんよ。仕方がないので、舌の上でもやもやする不満をお菓子と共に咀嚼します。

 お菓子には罪はありませんが、何故こんな真っ赤な焼き菓子を作ろうと考えたのか。甘酸っぱさが振り切れた、多分恐らくレモンクッキーは理解し難いです。


「つか、主任も魔女の店に行くなら勧誘して下さいよ。彼女、物凄い頭いいらしいじゃないですか」

「あの魔女は調合だ、いくら誘っても騎士団には来ん来ん。それよりうちの餓鬼の方が物分かりもいいし」

「――――その当の私を放り出してのお喋りは楽しいですか?」


 おっと、予想以上に低い声が出てしまいました。ぴたりと3人が3人とも、豆鉄砲を喰らった鳩みたいな表情でアホらしいです。


 私はお菓子のお皿を元の位置――――カガリさんの前に戻し、立ち上がりました。若草色の裾を払って、一礼。


「一応私は食堂部の人間なので、用がないのなら職務に戻りますね。お菓子ありがとうございます」

「待て待て待て待て!」


 つんのめったので振り返ってみれば、カガリさんがエプロンのリボンを鷲掴んでいました。ちょうど蝶々結びにしている箇所で、掴むようなところじゃないんですけど。


「ほっぽって悪かった、機嫌直せ、なっ? 『ツック』で何でも奢ってやるから」


 『ツック』――――セレンさんやローナさんたちとの会話で時々聴こえてくるスイーツ店です。なんでも、遠方の珍しい果物や香料をふんだんに用いたお菓子を多く取り扱っているのだとか。

 話に聞く限り、貴族も利用するような、どちらかというと高級志向のお店のようです。平民でも特別な記念日等で訪れることがあるそうですが、城や騎士団で下働きできるような確かな身分の方が殆どだとか。


 それでも、自分へのご褒美にはちょっと敷居が高過ぎる、という意見も聞きましたが。


 私は掴んでくる手を叩き落としました。なかなかいい音です、若干怯んでいるカガリさんに向き直りました。


「金払いのよさが悪いとは言いませんけど! そういう無計画なことをするから! 月末お金に困ったりするんですよっ!」

「おまっ、何言って――――セレンの入れ知恵かっ!?」

「そもそも未成年に50万円も投げて寄越した時点でカガリさんの金銭概念は可笑しいんですっ! 一般的な大学生は1月暮らすのにその半分もいりませんよっ!」

「ゴジュウマンエンって確か金額だな!? ならもうそれ方々から言われた! 主に食堂の連中にな!」


 言われたんですか、もう。恐らく、主にセレンさんとフラムさんの奥さんにでしょうか。


 あちゃーって、フラムさんが額に手を当てていますが、フラムさんも奥さんから色々言われているの知っていますよ。

 月の半ばになると小遣いが全部呑み代に消えてしまっていて、お小遣いを前借りしているらしいですが、もう半年分は貰っていると伺ってますよ。このままいくと、来月はお小遣いなしらしいですよ。





就職して早1月半――――新生活にも大分慣れてきましたが,気が付かなくてもGWも終わってますね!

しかももうすぐ梅雨が来ちゃう!

冬のお布団をお片付けしたいけれども朝はまだ寒いですよ……!


今テーマ文章に肉付けしている段階なので,次回更新は未定です.

謎大学謎学部生(多分理系学科)な冬璃もとーいフゥリの明日はいったいどっちなのか.

全ては私の自活能力とメガミサマの思し召しにかかっていますが……果たして.

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