13ページ 騎士団はホワイトでした。
*2018/03/16更新分が誤爆感満載だったので,
最後の方をこちらに回して前話もいくらか打ち直しています.
ぽふぽふと、ウサギさんが私の頭を撫でます。
「迷子に、なりました。魔女さんの魔法に間違って、引っかかってしまって、周りが霧で真っ白になって。どんなに歩いても、ローナさんはいないし、表通りには出られないし」
「魔女の呪いだからな。しゃーない。それで?」
「通りかかったひとが助けてくれました。魔女さんのお友達さんで、表はこっちだよって。ちゃんと、ローナさんに会えるところまで、連れて行ってくれて」
「ちゃんと礼は言ったのか?」
「いえ……」
ローナさんに抱き締められた時、通って来た道は霧ひとつなく、白い美人さんもいつの間にかいなくなっていました。それどころかローナさんもラルドさんも、そんなひとはいなかった、私はひとりで立っていたというのです。
なので、お礼をいう間もなかったのです。
つらつらとウサギさんに話している内に、落ち着いてきました。もう大丈夫ですと笑って見せると、ウサギさんの耳の間からカガリさんが神妙な表情を覗かせます。
「魔女は俺らとは違う枠組みで生きてる奴らだからな、魔女の友人ならそいつも真面な人間じゃない可能性もある」
「ああ……そうかもしれません」
とても浮世離れして綺麗なひとでしたし、ひとでないのなら色々と納得です。
「魔女さんがいるんですから、もしかしたら妖精さんとかですかね」
「この世界に妖精なんぞおらん」
「そうなんですか? 髪も服も真っ白で、お伽噺に出て来そうな雪や氷の精霊かと思いました」
「……白?」
今思い出しても、美人さんはとても綺麗なひとでした。悔しいくらいお肌もすべすべで、でも男のひとらしくしっかりと厚みがあって……敗北感が燻りますね。
持って来たポーチにハンドクリームが入っていたので、まだそれを使っているんですが……アキノさんのお店でクリームも見てきたらよかったかもです。ケースの中身が無くなったらまた検討してみましょう。
手帳の今日の欄に、訪ねたお店の店主さんの名前と何の店であったのかを書きます。
こちらのお店には名前がないところが多く、誰それのお店とか何屋さんという区別をしているそうです。上位階級御用達のお店などは、デザインを兼ねて店名を表示しているお店もあるようですが、私には用がないのでこちらを文字を見る機会はありませんでした。
「そいつ、髪も白だったのか?」
「え? はい、正確には白っぽい銀髪でした」
意識が自分の手元に戻っていたので、私は反応が鈍くなりました。振り返りながらそうだったと肯定すると、カガリさんの眉間にしわが寄っています。あれ?
「……目の色も、薄い奴か?」
「よくわかりましたね、氷みたいな色してましたよ」
アルビノだと血の色が透けて紅くなる筈ですが、空色というか、銀色というか……とにかく、不思議な虹彩でした。日差しに弱そうで、日焼けしたら肌も目もとても痛そうですね。
「もしかしてカガリさん、美人さんとお知り合いですか? 美人さん、どんな異世界人種さんですか?」
「期待させといて悪いが、そいつ普通の人間だ」
「え」
「この上の階に住んでるぞ」
「えっ!?」
まさかまさかの騎士団の方だったんですか!? でも私、あんな美人さん1度も見たことありませんよ!?
愕然と今までの記憶を探ってみても、あんな白いひとなんていません。
「あんな美人さん、1度見たら絶対に忘れない筈なんですけど……」
「執務部で滅多に外に出ん上に人混みが嫌いだから、食堂なんぞ殆ど行かんからな」
「引き籠りさんですか?」
「違う。執務部は万年人手不足で食堂に行く暇すらないんだ」
カガリさん曰く、執務部は名前の通り事務系のお仕事をしているそうです。が、以前聴いたようにそもそも識字能力が低いこの世界、執務部の人材もなかなか集まらない……集めて教育しようにも、逃げられてしまうんだとか。
「なーぜか上は、折角引っ張って来た野郎の転属ばっかり受け入れやがる。俺だってもっと楽な部署行きたい」
「カガリさん、執務部のひとだったんですね」
「一応な。お蔭で毎日呑んでなきゃやってられん」
「だからって毎晩うるさくするのはどうなんですか?」
「……善処する」
業務規程により、余程のことがない限り執務部のひとたちは決まった時間までしか働けないんだそうです。これは他の部署……詰め所によくいる警邏や総務、食堂も同じ。時間超過は原則として禁止されています。
「異世界ってコンプライアンスがちゃんとしているんですね」
「お前、時々可笑しなこと言うな。法律を守るのは当たり前だろ」
「ブラックという言葉が、私の国にはありましてね……」
「何が黒だって?」
その後小一時間、私はブラック企業に関してカガリさんに説明する羽目になりました。
経済や法律は専攻分野でありませんでしたし、アルバイトくらいしか就労経験のない大学生なので、そう詳しく説明できませんでしたが。
お蔭でカガリさんに、『日本は妙に学力は高くとも法律や倫理観が破綻して荒廃した色々残念な国』と認識されたようです。
「うちの餓鬼いるかー?」
昼下がりのことです。失礼な呼びかけをしてきたのは、もう随分と聞き慣れた声でした。
食堂は一番忙しい時間が終わって、妙に間延びした空気が流れている頃のことです。
珍しく食堂に顔を出したカガリさんに、テーブルを拭いていた私は眉を顰めました。布巾を持ったままの手を腰に当て、カガリさんを睨めつけます。
「フゥリです、フ・ゥ・リ。餓鬼じゃありません」
「考えてみろ、うちの娘とか聞いたら、俺に子どもができたみたいだろ」
「なら私はカガリさんのこと、おじさんって呼びますよ」
「俺はまだ24だ。おじさんじゃない」
「……私だって、もう19です」
そもそもフゥリって名前をくれたの、カガリさんなのに。ぼそっと不満を口にすれば、頭をぐしゃぐしゃに撫でられました。むー。
「まあいい。お前、姉役かセレンは何処だ」
「ローナさんは今日は季節風邪でお休みで、セレンさんは表で牛の解体ショーやってます」
ここの食堂、お肉をパーツではなくほぼ丸々を頭数で仕入れていました。消費量が多いので、その方が安く済むからだそうです。
今日は若手肉係の研修も兼ねているそうで。他の係は自由参加らしく、さっき見たら人垣ができていました。
ちなみにこの世界の牛は見事な黄金色なんですよ! 毛並みがつやっつやで、牛までもがブロンドかと衝撃を受けましたね!
とても縁起が善い動物だそうで、その毛皮でロルトの手入れをすると金運に恵まれるんだとか。
「仕方ない……」
何の用なんでしょう。カガリさんはそう言って、いつもよりもひとが少ない厨房に入っていきます。
それよりも、私も今の作業が終わったら解体ショーを見に行っていいと言われているのでした。日本にいたらなかなか見る機会に恵まれませんし、早く終わらせてしまいましょう。
────なのに何故、解体現場が遠ざかっているのでしょう……?
テーブル拭きが終わるや否や、私はカガリさんに食堂から連れ出されました。
「おら、きびきび歩け」
「牛が……解体ショーが……!」
解体ショー、結構前から楽しみにしていたのにぃ……っ! なのにカガリさんは残酷で、涼しい表情で悲痛に喚く私の手を引っ張っていきま────ああああぁぁぁぁ……食堂の建物さえ、見えなくなってしまいました……!
「あんなの、何が楽しいんだ?」
「楽しいっていうより、見たことがないので興味があるんですよ……飽くなき探究心ですよ……」
カガリさんはこういうの興味ないんですかって訊いたら、昔セレンさんに手伝わされてやったことがあるって返ってきました。にゃろう。
今更ながらですが,ブクマして下さっている方がおいでるー!
(*'ω'*)ワーイ! アリガトゥゴザイマスヨーゥ!
更新頻度がずれてきていて申し訳ないですよ……