不来坂空 02
似たもの同士、仲のいいもの同士、くっついてしまいそうな位に寄り添って話をしている。
そんな連中を見ながら、この世にはどうしてこんなに人が多いのかと鬱になってみる。
……下らないことでニヒルぶってみたくなる年頃なのだ。
教室から出て行こうと歩き出せば、誰かにぶつかり、軽い誤り文句と同時にお互いに距離を取る。
本当に鬱陶しい。
本当に煩わしい。
南極大陸に隕石でも落ちて、人口が半分に減らないものだろうか。
たぶん死ぬほうの半分の中に、僕は含まれてるんだろうけど。
まぁ、そんなやっかみみたいなものは、その辺に捨て置いといて。
クラスメイトの誰からも話しかけられない孤独な僕は、携帯電話でメールをチェック。
別に拗ねてるとか、いじけてるとかじゃない、本当に。
僕には僕の友達がいる。
ただ、同じクラス内にはいないだけだ。
現にこうして、携帯には『受信一件』の文字が表示されている。きっと放課後にどこかに行こうという誘いのメールだ。
しかし残念ながら、心苦しいことに僕はそれを断らなければならない。
イマダさんの世話という大仕事があると知れば、きっと分かってくれるはずだ。
その旨を伝えるため、携帯電話を操作してメールを開く。
……不来坂からだった。
やるせない……。
メール一つでここまで感情が上下する俺がひどくやるせない……。
これじゃあまるで、僕が友達がいないのに見栄を張ったみたいじゃないか。
ちゃんといるのに、いないみたいじゃないか。
やるせない気持ちと、虚無感の板挟みを感じながら、投げやり気味にメールを開く。
件名、なし。本文は短く、以下の通り。
『来てます』
何がだよ。
貴様はサングラスをかけた超魔術使いか、このやろう。
要らないボケはおいといて、意味がとれるように翻訳すると次のようになる。
『今日は学校に来ています』
訳ってほどでもない。
が、補足量は半分以上だ。
推測にしては多すぎるが、内容は間違っていないはずだ。
別に幼馴染み特有スキルとか、阿吽の呼吸とかではない。
不来坂との間にそんなものが成り立った日には、僕は舌を噛み切ってやる。
僕が不来坂の言わんとしていることが分かったのはただ単に、朝出したメールの返信だからだ。
* * *
僕のクラスがある南校舎をでて、東校舎へと移動。
入学当初も思ったが、標津高校は割と個性的な構造をしている。
まず、東西南北四つの校舎が『口』の字を作っており、それぞれの校舎に一学年ずつが入っているのだ。
僕が普段授業を受けている南校舎には一年生。
今日昼食をとった西校舎には二年生。
そして、夢オチであってほしかった悲喜劇が繰り広げられた北校舎には三年生。
そういった並びになっている。
その三つの校舎の作りはみな似たようなもので、一階には脱靴場、二階から四階までは教室、五階には各学年の職員室、そして屋上。大まかに説明すればそんな感じ。
唯一違っているのは東校舎。
一階には学校の顔である正面玄関、二階にはほとんど使われることのない図書室、三階から五階までは授業別の特別教室がある。
分かりやすい作りではあるのだけれど、少し無駄の多い作りでもあった。主に金銭面で。特にワンフロア全て使っている巨大図書室。
その東校舎三階、一番北側には情報科特別教室――生徒たちにはコンピュータルームと呼ばれている教室が存在する。名前の通り、コンピュータが並んだ部屋だ。
そこが不来坂と会う約束をした場所。
入学式当日、不来坂が逃げ込んだ、もとい、占拠した部屋でもある。
僕の必死(本当に死にかけた)のネゴシエートの結果、授業中は解放されているが、放課後は未だに占拠状態。
いくら静観主義が売りの標津高校でも普通、それだけの事をやらかせば停学、最悪退学だってあり得るのに、不来坂には何のお咎めもなし。
後日、本人の話によると、なんでも不来坂の実家から多額の寄付金と引き換えに、示談が行われたとか。
…………財力の格差って怖いよな。
不来坂もコンピュータルームなんて、よく使うか使わないか微妙なところじゃなくて、誰も使わない図書室あたりを占拠しろよ。そうすればお金だって無駄にならずに済んだのに。
幸い、終日占拠は授業が本格的に開始される前だったので、この事件は誰も知らないうちに終わったのだが。
つまり、俺の活躍は誰も知らない訳である。
損な役回りだな、僕。
それにしても入学一ヶ月でこれだけの事件を起こしたのだ。
本当に無事卒業できるか心配になってくる。
不来坂じゃなくて、僕が、だ。
案外、夏休みが明けた辺りで、ぱったり事件なんか起きなくなりそうだけど。
ちなみに、噂の純粋無垢に育てられている子息、または息女とやらの一人じゃないかと言われていたりするのも不来坂だったりする。
本当に昔から噂の多いことで。