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不来坂空 01

 六限目が終ったのを見計らって教室に戻ってみると、そこは局地的に暴風雨にでもあったかのような有様に仕上がっていた。

 こういうとまるで、僕の教室は瓦礫の山になっているような状況を誰しも思い浮かべるだろうが、実情はそんなことは違う。

 局所的、というのは僕と机周辺のみに限る、一メートル四方のことだ。

 僕の机の中身は全て吐き出されて散乱し、何度踏まれたかも分からないほどに一つ残らず蹂躙され、まだ使えそうなものはいくつかあったが、相当使いがたい形状へと変化を遂げていた。

 四月に購入したばかりの教科書、ノート、その他諸々の文房具は、二十年間毎日使いつづけてもこんな酷い状態にはならないと思わせるほど。

 この分だと、いくつか買い換えなければなるまい。

 提出物とかどうしよ……。

 先生も少しは同情の余地が有るとして、延期ぐらいはしてくれないだろうか。

 そんなことよりもまずは買い換えるお金が問題だ。

 先立つものが無い。

 バイトをするにしたって、早々すぐ貯まるものでもないし、貯金も無い。

 親に頼むにしたって、説明の仕様が無いし……手が無い。

 どうしよう。

 本当にどうしよう。

 ユラ先輩に去年のを借りるのは――駄目だ。去年から教科書が変わったんだった。

 思いつく限りの良案は尽きたか。

 うぅ……本当に嫌だけど、不来坂に借りるか。

 あいつなら無利子無担保で貸してくれるはずだ。

 とりあえず、それで教科書の問題は解決したことにしよう。

 先送りにしただけだから、その内バイト探さないと。

 が、不思議なことに、教科書がこれだけ荒らされていたにもかかわらず、それらを入れていた机に、新しい傷が増えたような形跡は無い。

 おおよそ、机の中身を全部引っ張り出した後、不必要だと思って捨てられたんだろう。

 机が無くなったては、勉強が出来なくなってたところだし、不幸中の幸い。

 現状確認終了。

 大体理解できた。

「ごめん。騒がした」

 散らかしたのは僕でもないし、騒いだのも僕ではない。

 でも、原因は僕。

 僕の過失だ。

 僕がみんなに謝るのが筋。

 とりあえず、責任が何処にあるかは、今、問題ではない。

 まずやらなければならないことは、机を元の状態に戻すこと。

 担任教師に見つかっていろいろと問われるのは面倒だし、何よりこのままではホームルームもろくに受けられない。

 そうするとみんなに迷惑がかかるし、それだけは避けなければ。

 僕がしゃがんで教科書を片付け始めると、みんなが一度、被害者を哀れむような目で見る。それから一拍、遅れるようにして、周りのクラスメイトが静かに手伝い始めてくれた。

 そのおかげで一分とかからず、復旧作業は終了。

 普通なら引くところなのに、そこはさすが標津高校生、校外以外の人間には排他的だが、その分仲間意識は高かった。

 すばらしき友情だ。

 まもなくして、担任教師が教室に入ってくる。

 よかった。

 もう少し屋上で寝ていたら、放課後に職員室に呼び出されるところだった。

 剣呑剣呑。

 先生が教壇に立ち、ホームルームを始めたと同時に、僕も思考を開始する。

 もちろん、先生の連絡思考は聞き流し、全く別のことだ。

 この事件を起こした犯人はイマダさんだろう。こんな奇行をするのは、彼女以外に思い当たらない。

 だとしたら今日の教科書類散乱事件の僕の過失は、割と大きい。

 ユラ先輩から世話を言い付かっていたのに、イマダさんから目を離してしまうなんて何たる失態。

 弁当のことだけでも十分なのに。

 イマダさんがこういう事を初めてではないのだし、もっと深く考慮するべきだったのだ。

 しかも、それは僕が目を話したときに限定されているなら尚のこと。

 すっかり忘れていた。

 気を抜きすぎだ。

 なら、今現在もどこかで予想だにもしない行動を取るかもしれない。

 早くコンタクトを取らなければ。

 器物損壊ならお金で済むが(お金にしたって大変な出費なんだが)、人身災害になるとイマダさんは間違いなく退学処分だ。

 世話役としてそれは防がなければならないこと。

 イマダさんの居場所は、たぶん保健室のベットの上。

 九割方、それで間違いない。

 騒いで、荒らして、乱して、壊して、そして疲れて寝る。

 それがこういうときのイマダさんの行動パターンだ。

 本当に難儀な性格の奴。

 もし保健室にいるんだとしたら、運んでくれた人に感謝しなければなるまい。

 でも、保健室で寝ているんだとしたら、わざわざ探さなくても当分動けないよな。

 どうしよう。

 イマダさんを探して学校を回ると言うのも、あまりいい行動ではないし、それがイマダさんの耳に入ったら逆に逃げ回られそうだ。鬼ごっこか何かと勘違いされて。

 案外、待っていたほうが早く見つかるかもしれない。

 そんなことを考えているうちに連絡事項を全て伝え終わった先生が、解散の合図を出す。

 起立。

 礼。

 中途半端にさようなら、と何人かが口に出す。

 ステレオタイプな挨拶が終らないうちに、クラスに喧騒が訪れた。


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