上内司法 04
正直なところ、かなり危ないと思った。
少なくとも風邪くらい引いていても何の不思議もない。
「いやぁ、実に清々しい朝だ」
というのも、ここで伸びをしながら、全身に朝日を浴びているシホ先輩が何の防寒具も用意していなかったことが原因だ。
こういった場所に泊まるのだから、ブランケットくらい用意してくれているものだとてっきり思っていたが、僕の考えが浅はかだった。
屋上にそんなものが落ちているはずもなく、一切寒さをしのげるものがないまま、屋上に雑魚寝して僕らは一晩を過ごした。
結果、寒い、痛い、寝不足という嫌な三拍子を獲得してしまったわけだ。
「もうこんなこと、二度としたくないです」
「何、人間は意外に丈夫にできているものさ。それに、夜空がとても綺麗だったろう?」
事もなげに笑うシホ先輩。
この人を見ていると全てが馬鹿馬鹿しく、言っても無駄に思えてくる。
結局疲労は取れるどころか溜まっただけだし、踏んだり蹴ったりだ。
「で、こうして泊まった以上、本当にここを調べるんですか?」
「勿論。でもフェンス近くは調べるなよ?分かると思うが発見の可能性が高いからな」
そう言ったにもかかわらず、フェンスの方に近づいていき、見えるか見えないかギリギリの位置に立ち、
「じゃあ、そちら側の方はよろしく、イチジ君」
残りの部分を僕に押し付けて、自分は早々にしゃがんで、何やら調べ始めた。
手を地面に当て、違和感を探っているようだ。
「集中しているところに水を差して申し訳ないんですけど」
「申し訳ないと思うなら話しかけないでくれ」
にべもない。
でも、構わず話を続けた。
「もう警察が調べて、証拠は何も残ってないと思うんですけど」
「いや、それはないな」
話しかけるなと言いつつも、ちゃんと応答するシホ先輩。
変なところで律義な人だ。
「昨日、ここにきている警察の人員はかなり少なめだ。おそらく、現場のみしか捜索に当たれていない。屋上まで人を割けないだろう。だから、今日調べられる前に先に調べておく」
「警察の中にシホ先輩みたいな変り者がいたらどうするんですか?」
「変わりものとは失敬だな。いや、まだオブラートに包まれている方か。どちらにせよ、その程度で私の本質は変わらないが」
シホ先輩は少しずつ横に移動しながら、普段通りに喋る。
「仮に調べられたとしても……」
と、唐突に立ち上がり、フェンスに近づいた。
見上げれば、確実に発見される位置。
なのに、先輩は全く臆せずフェンスによじ登った。
「動かせない隠せない証拠というのもあるのさ、イチジ君」
シホ先輩は僕を手招きする。
いつ見つかるか分からないので、僕は無抵抗にそちらに近づく。
音をたてないようにゆっくり慎重に昇る。
「見てみろ」
そして促されるままに、シホ先輩が指さした場所を見る。
シホ先輩が指さした場所、フェンスの上部には何か細いもので切られたような跡があった。
「これは?」
「さぁな」
「さぁな、って……」
「それはこれから考えることさ。だが、恐らく、事件と関わりはあるだろう」
そう言って、シホ先輩は鳥瞰する。
そこにあるのは、事件現場。
ここはおおよそ、そこから真上と言っていい場所だった。
「さて、そろそろ潮時だ。撤収するぞ、イチジ君」
軽々とした動作で、音なくフェンスから離れるシホ先輩。
僕も先輩に続いて離れようとしたとき、
「あ」
ばっちり警官と目が合った。