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上内司法 03

 そんなやり取りを経て、僕らは午零時という普段ならとっくに下校しているはずの時間に僕らは東校舎の屋上に経っていた。

 当然、警官たちは下に少数いるばかりで、明かりもないこんな時間にこの場所を創作する人間などいない。

「で、なんで屋上なんですか?」

 僕は半ば強引にこんな真夜中に連行され、警察の目をかいくぐり、不法侵入してから、ようやくそんなどうでもいいこと尋ねた。

「いくら暗いとはいっても、下には警官がいるからな。さすがに堂々と調べるわけにはいかんさ」

「でも、ここって殺人現場と全く無関係じゃないですか……」

「うん?なぜそう言い切れる?」

 そう言い切れるも何もない。

 現場を見た僕なら少し考えれば直ぐに思いいたる事だ。

 出血量の多さと服についた血の量から考えれば、あの場で首を切り取ったのは明白なことだ。

 それに、死体の損壊具合から考えるに屋上から投げ落としたとは考えにくい。第一、首を切り取った上に、死体を落とす意味もわからない。

 ここは関係なと見るのが妥当な判断というものだ。

 それを承知の上でシホ先輩はそんな質問をしている。

 本当に、この人のやることは嫌らしい。

 嫌らしくて、掴みがたい。

 僕はシホ先輩の質問に対して良い回答が思い至らなかったので、代わりに糾弾することにした。

「シホ先輩」

「ん?」

「探偵なら探偵らしく、助手にやっていることの説明をしたらどうですか?」

「何を言ってるんだ?探偵役はイチジ君の方だぞ?」

 いつの間にか、面倒事を押し付けられていた。

 言い出したくせに責任感皆無だ、この人。

 忍び込んだことまで責任転嫁されないといいが。

「僕が探偵なら、迷宮入りってことで、早々に退散しますよ」

「友人が死んだと言うのに、あまりにぞんざい過ぎないか、それは」

 友人が死んだ。

 死んだのか。

 正直、そんな感覚がない。

 麻痺というよりは、認識ができていない感じ。

 僕はそもそも、死ぬということがどう言った事かが分かっていないのだ。

 哲学的なものでもなければ、医学的なものでもない。

 死に対して、どう向き合えばいいのかを。

 どうするのが、一番正しいのかを。

「まぁ、悩むのは勝手なんだが、私の質問にも少しは答えてくれないかな、イチジ君」

「答えてほしかったら、もう少し難易度低い質問にしてください」

「これ以上低くすると、ほぼ自明的な話なんだが……」

 そう言ったきり、シホ先輩は黙ってしまった。

 流石にネタ切れになったのだろうか、そんな事を考えながら、僕は手持無沙汰になり、東校舎の屋上から正門を鳥瞰する。

 とはいっても、日頃通っている風景から推測しないと何が何やらさっぱりなんだけどね。

 でも、分かることがある。

 大体僕が見下ろしている地点の真下。

 そこが、理取未の死体があった地点。

「…………」

 特に感傷に浸りたった訳でも、そうしたい訳でもなかった。

 ただ、そこにいるだけで、考えるのを止めてしまいたくなる。

 考えていたら、それこそ意味のない感傷に浸りそうで。

「あぁ、そうだ。忘れていた」

 と、唐突に静かにしていたシホ先輩が、僕に近寄って来た。

「君と理取未は恋人関係にあったのか?」

「ぶっ!」

 思わず吹き出してしまった。

 どこの誰だろうか、その笑えない冗談をいったのは。

 もちろん目の前にいる上内司法だ。

 その上内司法という人物はこういった類の事を口にするような人間だっただろうか?

 答えは、否だ。

「この偽物めぇっ!」

「貴様は馬鹿か?」

「すいません、あまりの衝撃発言に取り乱しました」

「まぁ、いいが……。で、実際のところ、どうなんだ?」

 それでもシホ先輩はまだ僕に尋ねてきた。

「実を言うというと、昨日、いや一昨日になるのか、複数の生徒が君と理取未のキスシーンを目撃しているんだ」

 …………。

 あれ、見られてたのか……。

「別に付き合っているわけじゃないですよ。キスしたのは事実ですけど」

「つまり、遊びの関係と?」

「…………違います」

 頭痛がしてきた。

 この人がこんな事を言う人だとは……。

 不意打ち過ぎる。

「もう帰ってもいいですか?」

「何を言っている。今日はここに泊まりだぞ?」

 衝撃発言二つ目。

「はい?」

「夜ここにいても意味ないだろう?早朝にここを調べるために、わざわざここに来たんだ。帰ったら意味がないだろう」

 そんな説明受けた覚えはない。

 というか、探偵役は僕のはずだ。

「そんな事をしても無意味です。帰りましょう、助手さん」

「何を言っている。私がいつ君の助手になった?自意識過剰も大概にするんだな」

 忘れられていた。

 鳥頭め……。

「残るなら、一人で残ってください。僕は帰ります」

「不法侵入として、警察に通報してもいいなら構わないぞ」

 この人はやるといったらやるタイプの人だ。

 そして僕なんかよりも、よっぽど物事の切り抜け方がうまい。

 結論としてすべての責任は僕に押し付けられることになるのだ。

「はぁ……」

 僕はため息と共にその場に腰を下ろす。

「物分かりがよくてとてもうれしいよ」

 シホ先輩の嫌らしい笑顔は、宵闇にまぎれて見えないことにしておいた。


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