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上内司法 02

「それで、僕に会うのが嫌で嫌で仕方ないシホ先輩が何の用ですか?急ぎの用事でなければ、疲れているので一昨日ぐらいに来てくれると有難いんですけど」

「君もなかなかに毒舌だね、こちらは冗談だと言っているのに」

 精神的になんのダメージも受けていないのに、態々肩をすくめて溜息を吐くシホ先輩。

「まぁ、一昨日来いという古式ゆかしい言葉で言われてしまった以上、早々本題に入らせてもらうよ」

 ようやくシホ先輩は扉から体を離すと、ゆっくりとした歩みで僕近づいてきた。

 眼前一メートルの距離。

 近くもなければ遠くもない、そんな間合い。

 その場所からまっすぐに目を見て、僕に問うた。

「今日学校が休校になったのは何故だ」

 起伏のない、真剣な声。

 それこそ喉元に真剣を突き付けられたかのような緊張感。

「なんで僕にそんな事を訊くんですか?」

「君こそ、なんで私にそんな事を訊くんだ?」

 ジリ。

 靴底がすれるような音。

 どうやら、シホ先輩が近付いたらしい。

「普段の君なら少し考えて分かりえる事柄だろう?」

 ジワリジワリと近づいてくる、シホ先輩。

 圧迫感がとんでもない。

「突然学校が休みだ、などという連絡を受けて、全く誰もが興味関心を抱かないとでも?確認しないとでも?」

 あぁ、そういうことか。

 単純な話だ。

 この人は単なる――

「野次馬ですか……」

「あぁ、勿論。それもとびっきり性質の悪い、な」

 悪びれる様子もなく、僕にさらに詰めよった。

「何か”面白いこと”でもあったのかと思ってわざわざ学校まで赴いてみれば案の定、物々しい刑事らしい人物がちらほら。さすがに中までは見れなかったが……」

 シホ先輩は真剣な表情に嫌らしい笑顔の仮面を乗せて、

「ちょうどパトカーが出て行くようだったから、車内を盗み見てみると、幸運なことにも、君が乗っているじゃないか」

 その上に更に優しい笑顔作る。

「だから、君に何があったのか聞こうと思ってね」

 心底思う。

 本当に。

 本当に性質の悪い野次馬だ。

 良い神経している。

「そうして態々、ここで待っていたんですか?」

「あぁ」

 迷いない、当然と言わんばかりの即答。

 僕は、溜息もつけないほどに呆れて、呆れ果てて、呆れすぎて、

「人が一人死んだんです」

 本当の事を口から漏らした。

「たった、それだけのことです」

 僕はようやくシホ先輩から目線を外した。

 それに伴い、シホ先輩も僕を視線から解放した。

「いやぁ……」

 そして、

「よくできました」

「え?」

 小学生でも褒めるかのように僕の頭をなでた。

 くしゃくしゃと。

 とても雑に、とても優しく。

「ちゃんと言えた君に敬意を表して、言いことを三つばかり教えてやろう」

 呆然としている僕に対して、含み笑いをしながら、シホ先輩はいつもの調子でしゃべり始めた。

「まず一つ。昨晩、完全下校時刻、つまり八時に教員がその事件現場が何も確認した時点で校内に残っていたのは、私、上内司法を始め、情報教室にいた、七宮環、八咲織姫、不来坂空、の四名だけだ。そして、学校関係者でアリバイがないのもな」

 ようやく僕がシホ先輩にからかわれたと自覚した時点では、すでにシホ先輩は二つ目を喋りはじめていた。

「二つ目に、事件は学校だけで起きているというわけではない、ということだな」

 つまりこの人は、

「現在、『被害者の理取未』の首から下”だと思われる部位”は『理取』と刺繍の入った二年生の制服を着ていたということだ」

 事件の内容なんてとっくの昔から知っていて、

「三つ目に、理取未の姉である理取響も同様に何らかの事件に巻き込まれた可能性があり、行方不明だということだ」

 単純に僕をからかいに来ただけ、ということだ。

 本当に嫌らしい。

 嫌らしすぎる。

 ついでと言わんばかりに、僕の知らない情報をおいて行ったがそれはまぁ、いいとしよう。

 この際、この人がどうやってこの情報を入手したのかも。

 どうせ、不来坂伝いに聞いたか、警察内部の知り合いから聞いたなんていう胡散臭い返答しか返ってこないのだから。

 それよりもだ。

「いったい、興味本位で僕に何をさせたいんですか?」

 そこだ。

 わざわざ情報を僕に与え、挑発じみた事をし、どう言った行動を起こさせようとしているか。

 そこが肝心要なところ。

「くっくっく、いやぁ、察しが良くなってくれて私としては実に助かる限りだよ」

 らしくもなく、演技がかった動きで腹を抱えて笑うシホ先輩。

 別にいらついたりはしないけれど、正直なところ面倒臭くはある。

「私が来たのは他でもない。君と一つ遊びでも興じようかと思ってね」

 相変わらずの嫌らしい笑顔で、シホ先輩は、

「探偵の真似事でも一つどうかな、イチジ君?」


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