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理取未 05

 玄関で靴を履き替えさせるのは結構な手間を労したが、それ以外は特筆して問題なく校外へ出れた。

 時間帯が放課後二時間弱後ということもあり帰宅部組と部活組の下校時間とぶつからず、好奇の目にさらされなかったのは幸運だった。

 興味津々の視線が向けられたって、今更イマダさんを捨て置くつもりはなかったが、無いなら無い方がいい。

 そもそも僕が五、六限目を真面目に出席し、不来坂のところになんて寄らず、さっさと帰っていれば、こんなことにはならなかったのだから、少し後悔。

 反省はしないけど。

 校門を抜ける二、三メートル前、体をもぞりと動かせて、早くもイマダさんは回復の兆しを見せていた。

 内心このまま家までおぶって帰ることも覚悟したんだけど、そんなことにはなりそうにないので、ひとまず安心。

 身体を動かした際、首に回された手が、若干きつくなった。

 その所為でイマダさんの顔が僕の耳に近づく。

 まだ少し荒い息が耳にかかってくすぐったい。

「……ありがとう」

 息に混じってそう聞こえた、気がした。

 イマダさんが何か言ったよう思えたが、それは、ばかやろう、かもしれないし、ぶっころす、かもしれない。

 聞き間違いだったら恥ずかしいし、反応しないことにした。

 もしもイマダさんが、ありがとうと殊勝なことを言ったとするなら、返事は求めていないはずだと思うし。

 詫びにワビサビを求めるような女子高生だから、定かではないが。

 校門をぬけて、五、六歩歩いたところで、イマダさんは身体を起こした。

 僕が見た限り、顔色もよく、もう歩けそうなくらいには回復していた。

 瞬発力が並外れている代わりに持久力がない。だが、持久力がない代わりに回復力が段違いだった。

 どっかのザコキャラみたいだ。

「うーん、うーん、うーん、残念だけど、今日のところはおんぶで全部許してあげよう!」

「後頭部でいきなり大声出すなよ。耳がいたくなる」

「あはははは、ごめんごめんごめん!」

 イマダさんは注意されてなお、上機嫌に叫ぶ。そして、せっかく起こした身体をもう一度倒し、僕に抱きついた。

 今日が五月にしては少し肌寒い日だとはいえ、体を密着させられては暑い。

 が、先程、無意識時にやったように、首には手がかかっていなかったので苦しくはなかった。

 むしろ、背中に当たる感触が……。いやいやいや、違う!そんなこと無い!僕はそんなキャラじゃない!

「ねぇねぇねぇ、これからどうするの?」

「どうって……帰るに決まってるだろ?」

 僕が当然のように答えると、イマダさんが当然のように駄々をこねた。

 思ったとおりに感情を表現するのは人間としていいことなのだが、僕の背中に乗っているという現状で、手足をばたつかせ、体でそれを表現しないで欲しい。

「うーやー!ちょっと寄り道ぐらいしようよっ!しようよっ!しようよっ!」

「しようよなんて連呼すんな!いい加減うるさい!」

 腹から全力で声を出すイマダさんに対して、喉だけで大声を出す僕。

 声の大きさは比較になら無い。

 その上、イマダさんも一応女の子ということで、声が高いのでよく通った。

 その所為で、まばらに歩いている人々の視線が僕らに集中する。

 イマダさんはそんな視線を気にすることなく、会話を続けた。

 イマダさんに合わせて、僕も半ば自棄になりながら、応答する。

「じゃあじゃあじゃあ、どっか寄り道してくれたら黙るよ!寄り道しなかったら、放送禁止用語を叫ぶよ!」

「いや、意味分かんねぇよ!何で叫ぶんだよ!」

「さぁさぁさぁ、どっち!」

「どっちって、その内容の何処に選択肢があるんだよ!完全に強制じゃねぇか!」

「じゃ、寄り道しない方を選ぶんだね!放送禁止用語を叫んで叫んで叫んでほしいんだね!」

「しねぇよ!なんでそうなる!てめぇが叫びたいだけだろうが!」

「すぅー……」

「やめろ!息を吸って構えるな!寄り道するからやめろ!」

 さすがに叫ばれると、警察に通報されそうだったので必死になって止めた。

 ほんと、心臓に悪い。

「わーいわーいわーい!寄り道だー!」

 僕の背中の上で万歳三唱をするイマダさん。見えていないはず表情が、手に取るように分かるほど、イマダさんの声は弾んでいたが、それと反比例するように、僕の元気は減っていった。

 僕は項垂れながら、無難な行き先はないかと思案しながら歩く。

「まぁまぁまぁ、そう肩を落とさないでよ。こんな美少女とランデブーできるんだから、寧ろ感謝して欲しいね」

「勝手に自分を美化するな。お前は美少女じゃない。普通の女子高生だ。そしてランデブーは今や死語だぞ」

「ひっどいなーひっどいなーひっどいなー!」

 そう言いつつも、イマダさんは忍び笑いをしながら僕に体重をかけてくる。

 体力は完全に回復しているようだったが、なんとなく下ろせる雰囲気ではなかったのでそのまま背負い続けることにした。

 決して僕が背負い続けたわけじゃない。

 ただ、無理に下ろそうとすれば首を閉められかねないからだ。

「ねぇ、クギミンクギミンクギミン」

「ん?」

「おんぶしてもらって、寄り道までしてもらっちゃ、不公平だと思うんだよ。だから、だから、だから、ね……サービス」

 イマダさんは僕に体を密着させて、肩に顎をのせる。さっきよりも耳に近い距離に、イマダさんの顔があった。

 下手に動けば触れてしまいそうな距離だ。

 吐息がかかるどころじゃない。

 唇の動きが伝わってきそうだ。

 イマダさんはこの至近距離で、僕に耳打ちをした。

 …………。

 うわぁ…………。

 僕は慌てて首を動かし、イマダさんから距離をとる。

「ちょっと待て!何で……何でだ!?何でお前がそんなことを知っている!?つか、結局てめぇ、叫ばないだけで放送禁止用語は言うのかよ!」

 心が犯された気分だった。

 イマダさんの口からまさかあんな言葉が……。

 僕の顔は自分でも分かるくらい赤くなっている。

「叫ばなかったんだから良いじゃん!良いじゃん!良いじゃん!」

「やっぱりお前、ただ単に言いたかっただけだろ」

 ギャハハ、とイマダさんは周りを気にせず豪快に笑った。


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